10.

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うとうとと浅い眠りに入っていると、ドアをノックされた。
モーガンの声。何?とゆるく起き上がって声を出すと、モーガンの口からエルヴィンの名前が出る。その名前を聞けばスッと頭が冴えてきて、弾かれたように起きる。寝間着のまま、部屋の明かりをつけてドアを開ければモーガンが立っていて、エルヴィンが来て入浴していることを知らせた。
時計を見れば10時10分だった。

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入っても?
どうぞ…っ。

同じ匂いに包まれて、髪がまだしっとりと濡れているエルヴィンが私の部屋に入ってきた。散らかってはいないし、悪趣味な部屋ではないと思う。寧ろ、ものがない。なさすぎて白く、青い部屋。
エルヴィンは私の部屋を見渡すけど、とくに何も言わなかった。気の利いた感想も残さず、いつもと変わらない顔で部屋の真ん中に立つと私を見つめる。

どこに座ればいい?
あっ。

苦笑しながら私にとう。私はソファーに彼を促すと、彼は腰を下ろす。私も隣に座って、躊躇いがちにエルヴィンに問う。

どうしてここに?
そうだな。会いたくなったからだ。君は会いたくなかったか?

その言い方はずるいと思う。私は唇を噛んでから、首を横に振った。

会いたかった。
それを聞いて、安心したよ。…あまり会いにこれなくて申し訳ない。明日の午前は休みをとったから、少しゆっくりできる。
ほんと?
ああ。だが、理由は、あまりよろしくないな。婚約者に会いたくて休むなど、部下に示しがつかない。急用と誤魔化しておいたが、あいつは鼻が効く。全て丸わかりだろう。

彼らしからぬため息が漏れる。私もつられるように苦笑してから、思いつきで答える。

私から資金を受け取るために来たことにすればいい。
…なるほど。頭がいいな。

やっと、ニコリと。彼は笑った。私も笑みを浮かべると、知らないうちに背中に回っていた手が私の頭に乗り、頭を撫でた。ドキッとして撫でられている部分に熱が集まるのを感じた。

もう遅い時間だ。休むか?
エルヴィンはもう眠いの?
少しな。馬車の中でも休んだが、やはり疲れているようだ。

それなら仕方ない。もっと話したかったのに、という本音をぐっとこらえてうなづけれど、エルヴィンは動こうとしない。私の頭を撫でながら、大きな瞳で私を見つめている。

休ませてもらえるか?ここで。君の隣で、休みたい。

…嫌か?

胸がおかしいくらいにドキドキした。自分は女でエルヴィンは男だと意識したら、うなづくまでに永遠の時間が流れた気がした。
でも、私も一緒にいたくて、顔を赤くしながら私はうなづいた。

その日。その夜。私はエルヴィンの胸の中に顔を埋めて目を閉じることになった。エルヴィンは疲れていたようで、私を抱きしめながら、スースーと穏やかな寝息をまくらに落とす。
私はこんなに厚い胸板なんて見たことも触れたこともなかったし、固い筋肉に包まれた腕に抱きしめられたこともその夜が初めてで、ちっとも眠れなかった。



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