2ケリ

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ぼんやりと曇り空を見上げていた。ああ、雨が降るなぁ、と分かったけれど、立退く気はない。どうなっても、今日はいいや。私は息を吐いて、地面を見つめる。背中にあたる木の幹が心地いい。汚ねぇなぁ、とリヴァイの声が聞こえて来そうだけれど、今はここにはいない。
あのキスの後、私は考えたいと言って部屋を飛び出した。そして、自分でも分からないうちに林に入り、人のいないところで佇んでいる。でも、冷静になると、ここは自分にとって大事な場所だったことに気づく。

ここは、分隊長だったエルヴィンに褒められて、新兵として入団したリヴァイに出会った訓練場。あの日、リヴァイと初めて出会ったけれど、初っ端から私がエルヴィンに惚れていることに気づかれた。なんで気付いたの?と問い詰めれば、お前がわかりやすすぎる、とめんどくさそうに言われたことを覚えている。
リヴァイとは、そこから始まった。私は今よりもエルヴィンへの愛が素直に駄々漏れている時期だったし、完全に恋する乙女状態で、エルヴィンと結婚することを本気で考えていた。どんな人が好みかな?私はダメかな?なにが好きかな?休日はなにしてると思う?今恋人いるのかな!?…なんて、ふつうにリヴァイに聞きまくり、その度に俺が分かるわけねぇだろうが、と蹴り戻されていた。そんな蹴り1つで想いや勢いが鎮火するわけもなく、懲りずにエルヴィンと通じているリヴァイをとっ捕まえて今日はエルヴィンとなに話した?なに話した?ねぇ、知ってる?エルヴィンって頭良くて強くて、とにかく素敵なんだよ!?だからエルヴィンを困らせないでね?と話しかけていた。
私にとっては、完全にリヴァイは仲間であって、エルヴィンは恋の対象だった。
エルヴィンは困った顔を向けつつも、私を気にかけてくれた。あの頃はまだ分隊長だったからか、まだ私と会う機会もあって彼から私に話しかけてくれることもあった。…それが、時が経ち、エルヴィンが団長になると、彼はどんどん自分を犠牲にして閉鎖的になった。昔のエルヴィンがどんどん遠のいて薄れていったのを覚えている。私はそんな彼だって好きだったけれど、いつしか、私の恋は叶わないものだと分かった。


ーポツポツ


雨が降って来た。木の下にいるから、そんなに雨は当たらない。ただ、ここからでたら濡れる。それでもいいや。頭、冷やさないと。いい加減にしないと。私の恋は実らないんだから。痛みしかないんだから。今まで彼の存在が重力みたいに私を引き寄せてはなさないと思っていたけれど、実際はたんに私が勝手にはなれないだけだと気づいた。そう思ったらまたひどく胸が痛くて、これはやっぱり好きな証拠なの?と迷いそうになったけれど、さっきのリヴァイの言葉が私を引き留める。


「…ケリつけないと。」


呟いて、私は雨の下に飛び出した。きっと、エルヴィンはずぶ濡れの私を見てびっくりするだろう。何があった?と聞くだろうけど、その次の私のセリフはどう思うかな。ビックリしないだろうな。だって、もう2年前から気づいていることなんだから。


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