4ケリ



ずぶ濡れの私はシャワーを浴びる必要があったけれど、まだ大浴場が使える時間ではないのでリヴァイの部屋の個室のシャワーを使っていた。使わせてもらったというか、使わされた。

ーそのままだと風邪を引くことがわからねぇのか?分かるんならとっととシャワーを浴びれ。

と、乱暴に浴室に押し出された。出て行くリヴァイは部屋に滴った雫を見ながら、舌打ちをしていたっけ。

私はシャワーを止めて、暖かい体で脱衣所に出て服を着替えて部屋に出た。リヴァイはベッドの上に腰を下ろして私を待っていた。両腕を膝の上に乗せて、私を上目遣いで確認する。


「髪、しっかり乾かせよ。」
「うん。シャワーありがとう。」


髪をエルヴィンがかしてくれたタオルで拭いているとリヴァイは立ち上がってクローゼットの中からタオルをとってきて私に渡す。


「そんな濡れたタオル、いつまで使ってんだ。それとも、あいつから借りたタオルだからつかいてぇのか?」
「そんなこと、ない。」
「じゃあ、俺のを使え。」


不機嫌そうにタオルを交換するリヴァイ。はっきり言わないけれど、妬いてくれているんだと分かる。リヴァイのタオルはいい匂いがした。顔にタオルを当てて匂いを嗅いでいると、リヴァイは怪訝そうな目で私を見てくる。犬かお前は、とポツリと言われる。
私は髪を拭きながらリヴァイの部屋を見渡していると、リヴァイは紅茶を入れてくれた。少しでも私の体を温めようとしてくれている気がして、優しさを感じた。それに、この匂いは私の好きな紅茶の匂いだ。私は華奢で細いその背中を見つめたまま、ありがとうと小さく呟く。きっとリヴァイには聞こえていない。
少しして、リヴァイが紅茶を持ってきてくれた。


「なぁ。」
「ん?」


リヴァイと並んでベッドに腰をかけながら紅茶を飲んでいると、リヴァイは少し間をあけて、続ける。


「結局、エルヴィンとはどうなったんだ?」
「私は失恋して、エルヴィンを諦めた。これからは一兵士として団長に心臓を捧げることにするよ。」
「そうか。…それで、もっと肝心なことはいつ聞かせてくれるんだ?」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。」
「ぅ!?」


リヴァイの手が伸びてきてまた髪を引っ張られると思ったら、顎を掴まれて引き寄せられた。ぐっと顔が近くなる。リヴァイの獲物を逃さない目に見つめられると、ざわりと鳥肌が立つ。


「エルヴィンとお前のことはもうわかった。俺とはどうするんだ?俺を受け入れるのか、拒むのか、さっさと答えろグズ野郎。」
「り、リヴァイのことは、嫌いじゃない。今も、好きな紅茶を出してくれたこと、嬉しかったよ。」
「…ほぉ?」
「きっともう少ししたら、好きになれる。」
「あ?もう少ししたらだと?それはどういう意味だ?」
「し、仕方ないじゃん!2年あっためた恋が玉砕した、失恋したての女なんだから!すぐ別の男になんて切り替えらんないよっ」
「オイオイオイオイ2年も耐えていたのはお前だけじゃねぇ。俺もだ。その女が今日男にフラれたんだ。つけ込むに決まってるだろ。」


リヴァイの力が加わって、私はベッドに押し倒される。私は悲鳴をあげて真っ白シーツに沈み込む。リヴァイがベッドに膝を立てて私を見下ろしていた。


「あいつのことを忘れられねぇ…ってわけじゃねぇんだろ?」
「時間をかければ、忘れられる。だって、そのために、告白したんだから。」
「そうか。なら早急に取りかかろう。忘れるのを手伝ってやるよ。」


ゆっくりとリヴァイの体重が乗ってくる。こんなに自分を求められたことは初めてだった。いつも追ってばかりで、でもその人はこちらを向いてくれなくて、そんな思いを2年間していた。でも、今は、違う。私を慰めて、そばにいてくれて、強く求められている。


「り、リヴァイ。」
「なんだ。」


キスされる直前に名前を呼ぶと、彼は止まって身構えるような不快そうな返事をする。しっかりと私の頭と腰を掴んで離さない彼の唇に人差し指を押し当てる。

「ありがとう。2年も待っていてくれて。」


リヴァイは小さくを息を飲むと、ふっと薄く笑って私の指にキスをした。


end


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