「おや。切る気になったかい?」
もしも切れなかったのなら、恋煩いだと嘘を吐いたのがバレてしまう。もしも切れたのなら、これは恋煩いだという事になってしまう。
「いえ、まだ……」
どちらに転んでも都合が悪い。
「そうかい?私は主の心を大切にしたいけど……もしもその気持ちが体を壊すほど大きなものになったなら、その時は勝手に切ってしまうからね」
勝手にという部分に一瞬驚いたけど、遠回しに『体を壊さないように』と言ってくれているらしかった。
「切って、くれませんか」
「いいんだね?」
石切丸様の声は、何故だか少し弾んでいた。健康になるのが嬉しいのかもしれない。
寒さは消える。途端に熱さが押し寄せる。どこか遠くの出来事だと思っていた蝉の音が、急に現実感を伴って耳から脳髄へと突き抜けた。夏を思い出す。
そしてまた、冷えていく。
夏の中で、私だけが凍えている。
彼は御神刀。私なんかが好きになっていい相手じゃない。
決して結ばれる事はない。落ちた瞬間に敗れた恋。一片の容赦も無いその現実が、私の心を凍えさせていたのだった。
何度この想いを断ち切られても、何度でも彼を好きになる。
春に思いを馳せながら、雪に枯れる冬の蝶。