暗いのはいや(2)
「…」
(…アレ!?どこだここ!!)
目覚めと同時に酷く狼狽し、沙希は眠りから覚醒した。
布団の中から見知らぬ部屋を見回してみると、自宅より狭いが日当たりはいい。
「誰か運んでくれたのかな?やべぇめっちゃ良い人だ…」
変な雲に包まれた後の記憶が無く、体を包む布団から想像するしかない。
暖かな日差しに敷かれた布団。
(超二度寝したい…)
腕時計の時間を見ると朝8時。
沙希の本来の予定では、今日仕事は休みのはず。
日頃の疲労と寝不足を癒そうとまた目を閉じたところで。
誰かの足音が外から聞こえてきた。
(家主さん?やばい!起きて挨拶しなきゃ!でも顔洗ってないし!あ、目やについてた!ゴミ箱!あった!よし!)
ガチャ
「ふぅ。ただいまなのじゃ〜…なんちゃって」
「お、お帰りなさい」
「!」
「えっと…あ、お邪魔してますっ!」
「う、うむ」
手櫛で寝癖を整え家主に挨拶をした沙希は顔を上げてフリーズした。
(き、き、キン肉マンだぁあああああ!!?)
固まった沙希を、首を傾げながら様子を見ている彼は本物だ。
漫画の中の彼だ。
なら自分が今いる場所はキン肉ハウス。そして彼女は、漫画の世界に入り込んでしまったことに気付いた。
「どうした?体調が優れないのかな?」
「あっ、の…」
「うん?」
「…ここはどこですか?私は、何で此処に?」
(キン肉マンさんかわいい!!でも、嘘つこう。だって未来から、しかも別の世界から来たなんて信じてもらえないだろうから)
※出典:究極の超人タッグ編
信じてもらえないのは仕方ない。
人知の及ばないことが起きたら、誰だって混乱するものだ。
沙希は布団の端を握り締めてキン肉マンを見つめた。
大好きなヒーローに嘘をつく罪悪感に震えながら。
「ここはわたしが住んでいる家、と言ってもボロ小屋でな。昨日の夜、外の公園で一人倒れているところを発見したんじゃ」
「公園で?」
「あぁ。キレイな光に包まれて空から降りてきたときには神様かと思ったわい!」
「…」(コレ、本当のことバラしてもいいんじゃね?)
表情を強張らせた沙希に彼は苦笑う。
「突拍子も無いと思うかもしれないが、ホントのことなんじゃ。信じておくれ」
「は、はい。でも、私、神様じゃないです…普通の日本人です」
「え?そなの?」
「はい…でも。此処に来る前、動く真っ黒い雲に身体を覆われて。空から落ちてきたのはそれが原因かも」
「なるほど…(怪獣の仕業か、宇宙人に拉致されたのかもしれないな)」
「すみません。ご迷惑をお掛けして」
「いやいや!困った人がいたら助けるのが正義のヒーローの役目!」
「ありがとうございます…えっと」
「おぉ!名乗ってなかったな!私の名はキン肉マン」
「私は、此方沙希です」
(勿論知ってるよぉおおお!!ふぉぉぉぉおおおお!!)
脳内でヘドバンしながら、沙希はそれをおくびにも出さずに名乗った。
「腹ごしらえしたら、一緒に警察に行こう」
「はい。よろしくお願いします」
「うむ!」
にっかり笑う彼に、日溜まりで眠る猫のようにすっかり脱力し安心しきった彼女。
一緒に食べた牛丼は、今までで一番美味しく感じた。