暗いのはいや(3)

「すみませんキン肉マンさん、本当は何か予定とかあったのでは?」
「いやぁ、どうせ事件が起こらなければ暇だし。パトロールの通り道だから気にすることは無いよ」

あれからキン肉ハウスを出て、街中を歩く二人。
大きな通りは人がごった返しており、人波に酔った沙希はキン肉マンにお願いし、人通りの少ない場所を歩いていた。小川沿いを流れに逆らう方向に歩いていると、向かいから男性が何人か歩いて来た。

「おぉ、ダメ超人だ!」
「よう何やってんだよブタ面野郎」
「今日も暇人か?」

チンピラだ。
口を開かないが他にも何人かいる輩共は皆ニヤニヤしている。
キン肉マンはそっと沙希を背後に隠した。

「お!いっちょまえに女の子連れてんじゃん」
「うっわぁ!男の趣味悪ぅ〜!ねぇ、そいつ放っといて俺らと遊ばない?」
「ここいら辺り案内するからさ」

彼女の顔を見ようと近づく彼等。
最初沙希はキン肉マンの背中に顔を埋めていたが、ゆっくりと彼等の方を見た。
男達は騒ぎ立つ。都会に染まっていない清楚な雰囲気の彼女は、遊ぶ際"楽しめそう"だった。
しかし。

「これから警察署へ赴く用があるので無理です。それに、私の恩人であるキン肉マンさんに先程のような態度を取る方々と連れ立って歩くなど、死んでもできません。では、私達急いでいるので失礼します!」

身を刺す眼光に怯んだ男達。
彼等は、しっかりキン肉マンと手を繋ぐ沙希の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

「…沙希さん」
「何でしょう?」
「ありがとう」

憤慨し先を歩く沙希の背中を見ながらキン肉マンが礼を言うと、彼女の歩みは徐々に遅くなり、止まる。

「違うんです。私が勝手に悔しくなっただけで…」
「それでも、ありがとう」

指先の色が変わるくらい強く握られた、震える左手。

(複数の男を前に怖かっただろうに…)

自分の為に怒ってくれた沙希に胸の奥がムズムズするような、温かい気持ちになったキン肉マンだった。




「だぁかぁらぁ〜〜!本当に夜中の公園で、空から光りながら降りてきたんだって!!」
「そんなことあるわけないでしょ。で?君は夜中の公園で何をしていたの?」
「最初にお話したでしょう!パトロールですよ!」

警察署に到着し、キン肉マンが状況を説明し出してから早1時間。
沙希の記憶が定かで無いことを確認した警察は、何故だかキン肉マンを事情聴取していた。
キン肉マンは沙希の手荷物も、飾り気の無い彼女の数少ない装飾品にも。貧乏暮らしと言っていたにも関わらず、お金にも手を着けていない。

(漫画では描写されていた覚えがないが、一体どこでお金を稼いでいるのだろうか?)

「刑事さん。荷物は手を着けられていませんし、事情は先程説明した通りです。乱暴もされてません。道も分からない私をこの人は優しく案内してくれました。私は、私の身元を調べて欲しいんです。日本に戸籍が無いなら作りたいし、これから生活していくために就職活動もしなければいけません。お願いします。そちらを優先してください。彼にお礼もしたいですし」
「は?」
「よ ろ し く お 願 い し ま す」
「は、はぃい!」

表情筋全てを動員した歯茎剥き出しの笑顔で聴取する警官に詰め寄ると、直ぐ様席を立ち準備し始めた。