埋め隠す涙(5)
「彼女に詫びを」「…」
「あの時の事情を説明したくて、此方に参りました」
「ふぅん……それだけじゃないだろう」
忠親の声には確信があった。
助けられ、ザ・ニンジャの腕の中で眠る名前の顔は安らいでいた。
彼は気づいていた。娘が悪魔超人に恋していることに。
「送られてきた写真を見てザ・ニンジャだと分かった俺は、はっきり言って反対だった。悪魔六騎士のアンタは、娘より悪魔将軍の方を優先することが目に見えていたからだ。キン肉マン達と戦うことになるかもしれないし。──だが、娘がアンタに惚れていたから見合いを受けさせた」
それなのに。
「名前は見合いをすっぽかされて傷ついた。結婚しないと言って意地でも見なかった見合い写真を、俺にバレないように見て、隠れて泣いていたことも知っている」
「…!」
「名前の心を傷つけたお前が!どの面下げて此処に来た!」
忠親の怒鳴り声に警備員が駆け寄って来たが、アタルの制止で近づくのを止め持ち場へ戻った。
此処で口を開くのは自分ではない。アタルは事態を静観することにした。
「……確かに、拙者は悪魔六騎士のザ・ニンジャ。過去は変えられぬ」
忠親はザ・ニンジャに殴りかかった。
「…だが」
「!」
「第二の生がどのような結果になろうとも。名前殿を傷つけることは、拙者の本意ではない」
「……」
「あの日、王位争奪戦の日。血盟軍の仲間と彼女の声が拙者に最後まで戦う力をくれた。蘇った際目にした彼女の涙が、生への執着と喜びを与えてくれた。一人の男として、拙者は心より名前殿を恋慕っております」
忠親の拳を頬に受けながらも、まっすぐに見つめて名前への想いを語るザ・ニンジャの姿に、忠親は拳を下ろした。
「此方の不具合で連絡が取れず、名前さんと忠親さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします」
「アタルさん…」
「そして、厚かましくもお願いします。ニンジャにもう一度、名前さんと見合いする機会をいただきたい」
「拙者からもお願い致す。何卒今一度、名前殿と見合いをさせてはくれないだろうか」
「…」
むっつりと黙りこんだ相手の言葉を、ザ・ニンジャとアタルは固唾を飲んで待った。
「──親が口出ししてどうにかなるなら離婚なんて言葉は存在しねぇ。好き合っていても、幸せになれるかは当人達次第だ」
「で、では…」
「俺から名前に話す。本人が承諾した場合のみ、此方から連絡する」
「分かりました」
「感謝する」
アタルとザ・ニンジャは頭を下げ、犯人の尋問に戻っていった。
「はぁ………」
自分以外誰もいなくなった廊下。
娘が承諾することが目に見えていた忠親は、この負け戦に溜め息をついた。
(意地くらい張らせろ。愛娘の人生がかかってるんだから)
「あっという間だったなぁ…」
二十と数年。
最愛の伴侶である名前の母親が亡くなり、男手一つで四苦八苦しながら育児をしてきた。
それなのに。手塩にかけて育て上げた娘が、よりによって悪魔超人──更に言うと悪魔六騎士に惚れてしまうなんて。
「悪い男に惹かれるのは、母さんに似たのかなぁ?なぁんて…」
苦労かけたよなと溢す、忠親は一人静かに笑った。
数分後。
「名前」
「おとーさん…どうしたの?」
揺り起こされた名前は寝ぼけ眼だ。
「さっきアタルさんが来て、お前に見合い話を持ってきた」
「へ…?」
「お父さんは反対だ。それでも、名前がその人が良いと思うのなら。見合いを受けるといい」
「あ、相手は?」
「名前が好いている人だよ」
「え!?は!?!な、何で知って…」
「父親嘗めるなよ?娘を見てれば分かるモンさ」
「……マジで?」
「マジだ。で、返事は見合いを受ける場合のみすることになっている。どうするかよく考えて、お父さんに教えてくれ」
「わ、分かった」
それから一週間後。
アタルの元に地球から返事の電話が来たのだった。