埋め隠す涙(4)
耳元で聞こえる規則正しい胸の鼓動。男らしい掌が、たまに宥めるように名前の背中をぽんぽんと叩く。「…」
「…」
恐る恐る、ザ・ニンジャの脇腹辺りの忍び装束を掴む名前の手は震えていた。
彼はその手を掴むと自ら身体を近づけ、彼女の手を自分の背中に回すように指示した。
「や、でも…もう大丈夫」
「聞こえぬな」
「わっ!?」
無理矢理持ち上げられた名前の身体は、ザ・ニンジャの膝の上に乗せられる。
「なっ、なっ……!?!」
「暴れると落ちるぞ」
「ひぇっ!」
ひしっとしがみついたその姿に、クツクツと喉を鳴らし彼は笑う。
「ナツ子殿は無事テリーマンの元にたどり着き、我々に救援を要請した」
「怪我してないんだ。よかったぁーー!」
「お主が囮になったと言って、酷く狼狽していたがな」
「──す、すみませんでした。ご迷惑をおかけして」
「迷惑ではない」
「え」
思わず名前が顔をあげると、そこには眉をひそめたザ・ニンジャがいた。その表情は不機嫌そうにも、不安そうにも見えて、名前の胸は締め付けられたかのように切なく痛んだ。
「ご、ごめんなさい」
「…名前殿が無事でよかった」
「ニンジャさん──」
「恐かっただろうに、お主は肝が据わっているというか無謀というか」
呆れたように彼女の乱れた髪を撫で整えるザ・ニンジャ。その手の優しさにとうとう名前の涙腺が決壊した。一粒、透明な雫が零れたかと思うと、次々に溢れてくる。
声を押し殺して泣く名前を抱き寄せると、彼女は今度は素直にそれに従った。
「ニンジャさん…ニンジャさん…」
「あぁ、此処に居るぞ」
「ごめんなさい…っぅ、ぐすっ……」
「大丈夫だ。落ち着くまで側にいよう」
「はい…ありがとうございます…」
忍び装束の肩口の布が、彼女の涙を吸い取っている。
ザ・ニンジャは、己の腕の中で安心しきっている名前を見て愛おしく感じた。
(血に濡れた拙者の腕の中で、こうしていられるとは…)
擦り付けられる額。膝の上に乗せた肢体は柔らかく、ザ・ニンジャの身体を頼りにしつつ彼に温もりを与えている。胸の中に沁みてくるようなそれをどうにか紛らわそうと、彼は口を開いた。
「名前殿…」
「…」
「名前殿?」
横抱きの体勢の彼女は、梁の上で。ザ・ニンジャの腕の中で、気を失ってしまった。
くたりともたれ掛かる彼女が落ちないよう抱き直し、彼は拘束した超人がまだ意識を失ったままであるのを確認した後、その場を離れた。
このままでは、彼女を手籠めにしてしまいそうだった。
「名前…名前…!」
「んぅ…」
「起きたか!」
「おとうさんうるさい…」
「よかったぁ!無事だな!」
「此処は?」
「警察病院だ。ナツ子さんと名前を襲って追いかけてきた超人は、ザ・ニンジャが捕まえてくれたぞ!」
「ニンジャさん…お礼言わなきゃ……」
「俺が言っといたぞ!」
「そ、そう……」
「今日と明日は仕事休んでいいって、ナツ子さん会社に事情説明してくれたから。安心しろ」
「うん。ありがとう、お父さん」
「頑張ったな。お疲れ」
「うん………」
意識を失うように眠った名前を確認すると、父親である忠親は廊下に出た。そこにはキン肉アタルと、ザ・ニンジャがいた。
「この度は、娘を助けてくださりありがとうございました」
「いや…我々が間に合ったのは彼女の機転のお陰です」
「…」
「…」
「名前は今眠っています。何のご用件でしょうか?」
取り調べは明日のはずでは?
そう言う忠親の目つきはいいとは言えず、アタルとザ・ニンジャに剣呑な雰囲気を悟らせるには充分だった。