その一度の忘れ難き所業(3)

これで安心。名前はそう思った。
相手には悪いが自分はまだ結婚なんてしない。自分の時間を持っていたい。
しかし、予想に反して返事は来なかった。
カレンダーにバツ印が増えていく。
何度もキン肉ハウスに足を運んだが、キン肉マンは故郷に帰っており、会えてもセコンドのミートや仲間の超人だけ。
申し訳なく思いながら言伝を頼むと快諾してもらえたが、やはり返事は無く。
とうとう見合い当日になってしまった。

「会社に頭下げてお休みはもらえたけど…」

上司に休みを申請する時に応援されたおかげで、自身の部署内に今日の見合いが知られてしまい、恥ずかしい思いをしてしまった。

「声が大きいんだから、もう。むっちゃお局様は睨んで来るし」

場所は立派な日本庭園付きの旅館。
振袖に身を包んだ名前は項垂れてため息を吐く。
ただでさえ低いテンションが地に着きそうな下がり具合に、父の忠親は頬を掻いた。

「きょ、今日はいい天気だな」
「そうだね。良いお見合い日和だね…」
「あ、相手の人はどんな人だろうな!?」
「さぁね」
「ど、どんな人がいいんだ?」
「……お父さんみたいな人が良い」
「え?」
「浮気しない、ギャンブルしない。家族を、大切にする人が良い」
「名前…」

照れながらそっぽを向いてしまった彼女は、当日になっても見合い写真を見ようとはしなかった。

(完璧断るつもりだ…っ!)

相手に失礼なことを言い出さないだろうか。
断るにしても穏便に事は運ぶだろうか。
気まずさに忠親はまた頬を掻く。しかし、酒が入っていたにしても自分の会話による結果なので、静かに耐えるしかなかった。
だが、彼の想像した行動は起こらなかった。
詳細に言うならば、"何も起こらなかった"のだ。
予定の時間が来ても、日が暮れかけても、相手は来なかった。
相手から指定された場所に赴いた彼等に、連絡すら無かったのである。

「どういうこと?」
「…」

どういうことかはこちらが聞きたい。
今度は忠親が絶句し、うろたえ、部屋を飛び出し、大きな施設には備えられている宇宙の一部の星に繋がる電話を取った。
番号を押しても出ない。
後に分かったことだが、その時相手側の回線は故障していた。
そのことを知らぬ彼の焦燥が怒りに変わるのに、そう時間は掛からなかった。

「お父さん?何かあったの?」
「あ…名前……」
「相手、遅いね」
「あ、あぁ」
「何か心配になってきた。どこかで事故に遭ってないといいけど。あ!もしかしたら事件が起きて、そのせいで遅れてるのかもね?」
「そ、そうかもな」
(そうだ。キン肉マンと、キン肉マンのお兄さん…アタルさんと約束したんだ)

友人である彼等が嘘をつくはずが無い。
怒る自分を宥めようと気を遣う娘を見て、忠親は気を持ち直す。
もしかしたら。その可能性を期待し、二人は待った。
途中から、旅館から出て入り口のすぐ側で待つなどをした。
その日。待ち人は来なかった。