春の抱擁(1)

肌を照らす陽射しが雪の照り返しを無くしてから暫く。
通勤で毎日踏み締める道から緑が萌え、桜の蕾の身支度が整え終わるか否かの今日この頃。彼女、なまえは。

「職場行きたくないよぉ〜…」

後悔していた。
発端は、甘いチョコ菓子に思いを込める2月14日。バレンタインデーに遡る。
彼女は勇気を出して。恩人として、異性として意識している男性にチョコレートをプレゼントしたのだ。

「身の程知らずだったよなぁ……ぶっちゃけ、土に還りたい」

出会いは今でも鮮明に思い出せる。
朝の出勤ラッシュ。街で暴れる超人を穏便に止めようし、意識が暗転。
起きたら病院で、勤めていた会社に電話したらクビを宣告された。
呆然とした私の前に現れた彼は、

「何故あんなことをした!自殺志願者か貴女は!!」

肩を掴んで怒鳴ってきた。
ブラック企業の社畜として働いて、連続勤務20日目。睡眠時間は3時間弱。
超人に何をしたのかも、彼の言葉にどう返したか覚えていないが。人に心配されたのは久しぶりだったため、子供のように号泣してしまったのは許してほしいと今でも思う。
狼狽える彼に事情を話すと、超人特別機動警察隊アンタッチャブルの事務職を薦められ、あれよあれよという間に就職先が決まり。

(足向けて眠れないとはこのことだ)

まさしく恩人なのだ。
そんななまえのヒーローとして、心を温めてくれた彼に。

「お礼を言いたかっただけなのに」

ついうっかり。
本音を漏らしてしまったのだ。

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