春の抱擁(4)

「飲み物は?」
「えっと、お茶を…」
「これでいいだろうか?」
「は、はい」

(どうしてこうなった!?私のことなんてタクシー呼んで送らせるだけで済む話だ。わざわざ背負ってデートなんて…ハッ!まさか、あまりの休みすぎに辞職しろと!?これは最後の温情か!)

突拍子もないことを考えるくらい、ベンチに降ろされたなまえは混乱していた。
隣に座ったアタルは無言で、ただ前を向いている。
とにかく落ち着こうと彼女は深呼吸して、俯いていた顔を上げた。

「わぁ…!」

混乱していたせいで気づかなかったが、腰掛けているベンチの正面には、満開の桜が堂々と鎮座していた。
太く逞しい根と幹が、幾重にも開いた花達を支えている。

(何か、超人特別機動警察隊の皆みたいだ)

一生懸命な彼等の努力が、明日を開く礎になる。
思い浮かんだ想像に笑みが浮かんだ。

「──この桜」
「ん?」
「この桜は、アタルさん達みたいだなぁって思って」
「そう、だろうか?むさ苦しい男ばかりの集団だ。そんな綺麗なものだろうか」
「まぁまぁ。花は桜木、男は武士って言うじゃありませんか」
「…私は」
「はい?」
「桜を見た時、君が思い浮かんだ」
「え?」

思わず横を見ると、真っ直ぐ此方を射抜いた眼差しになまえは固まる。

「君が暴れるのを止めようとして犯人の超人に言った言葉を。今も私は覚えている」
「な、何て言いましたっけ?」
「生きてる意味も、努力も目標も人生も。変えられるのは貴方しかいない。自分で自分を諦めないで、と」
「あ〜。なんとなく思い出しました」

前の職場でこきつかわれネチネチ言われて苛立ってた時、自分に言い聞かせていた言葉だ。

「彼が言っていた。悪かった。ありがとう、と」
「は、犯人の超人が?」
「あぁ。今では立派な模範囚だ」
「そうですか…よかった……」
「その言葉からだ。君を気にするようになったのは」
「へっ?」
「風が吹けば飛んでいってしまう桜の花びらようにか弱いのに、何処か逞しい。君の側で、その精神の美しさを見ていたいとも思う」
「い、いや。そんな大層なものでは無いです…」
「それに、なまえさんが微笑んでくれると。此処が温かくなる」
「わっ!」

導かれたのは彼の腕の中。
なまえは厚い胸にそっと耳をすます。激しい鼓動が彼女に届いた。

「好きだ。どうかこの思いを、間違いだと言わないでくれ」
「!」
「頼む」

腕の中から離され、見つめあう。

「ど、どうしたらよろしいでしょうか…?」
「君の、思うままに」

彼について思うことは沢山ある。
迷惑ではないか?無理していないか?信じていいのか?
この胸に迫る思いを、一体どう伝えればいいのかも。

「諦めなくて…いいんですか?」
「あぁ」

その言葉を受け取り、なまえはアタルに抱きついた。
超人相手に痛くも痒くも無いかもしれないが、この思いが届くようにと。強く。

「大好き。アタルさん」
「…オレは愛している」
「!」

背中に回された手も、広い胸の中も温かい。
口に触れた柔らかさは、甘いお茶の味がした。

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