春の抱擁(3)
「な、何とか?」
「彼女に返事をしろ。早急に。返事が貰えず気まずいだろうに、幸いにもなまえ殿から退職届は出ておらぬ。近々職場に復帰するだろう」
「!」
「大捕物の祝勝会と彼女の復帰を同時に祝うため、スケジュールを調整し花見をする。後は知らん」
「し、知らん!?」
「煮るも焼くも何もしないのもお主次第、という事だ。拙者等が世話を焼くのは、これが最後だ」
「ニンジャよ、一つ良いか?」
「応」
「今まで、その……」
「言うな。虚しくなる」
今までのお膳立てのスルーを思い出し、殺気を帯びたニンジャの返答に、アタルは静かに従うことにした。
そして当日。話の冒頭へと戻る。
「行きたくないよ〜顔会わせずらいよ〜〜」
なまえは通勤途中で落ち込んでいた。
全治2ヶ月半とインフルエンザでの欠勤。病院からの連絡と診断書、保険に関する必要書類の申請で仮病でないことを証明できてはいるが。自分が休んだことによる周囲の業務への弊害を考えると。
「何で復帰当日に花見で宴会?しかも強制参加だし…」
切実に行きたくなかった。
前職でのお酌地獄や婚期についてのセクハラやパワハラ。
脳裏に浮かぶそれらに憂鬱になりつつも彼女は職場に出勤した。
「おはようございます…」
「おぉ、おはようみょうじさん!」
「連休中大変だったわね」
「すみません。いっぱい休んでしまって」
「いや、バッファローマンのハリケーンミキサーに巻き込まれて休まなかったら人間じゃないから!?」
「コンクリと悪行超人にサンドイッチされたと聞いて驚いたよ」
「曲がり角から突然だったので、避けられなくて。気づいたら病院でした」
あまり無理しないように、と他の隊員や職員に言葉をかけられ、なまえはホッとした。
その日の業務は滞りなく終わり、少しだけ空いた時間に暇をもて余す。
(ちょこっと参加したら、体調が優れないことにして帰ろう)
労働後の心地よい倦怠感にぼんやりしていると、とろとろと眠気に足先から包まれていく。
春眠への誘いに抗えず、彼女は自分のデスクで眠ってしまった。
「オレが送っていく。皆は花見を楽しんでくれ」
「はーい!」
「頑張って隊長!」
「黙らんか!」
(あったかい)
穏やかに揺れる自分の身体。
満ち引きを繰り返す眠気の波に浚われそうで、なまえは温もりに抱き着き頬を寄せた。
「んっ…」
「!」
「かたい……ぃい"?!」
一気に意識が冴え渡る。
目を開いた先には迷彩服を着た逞しい背中があった。
「あっ、アタルさん!?」
「あぁ」
「いや、あぁ。じゃなくて!花見は?あの、何で私……」
「君は自分のデスクで寝ていた。まだ身体が本調子じゃないのだろう。花見は他の面々が参加している。無理をさせてすまなかった」
「い、いえ」
「…」
「…」
沈黙が降りる。
なまえを背負ったまま淡々と歩を進めるアタルに、彼女は申し訳なさでいっぱいだった。
「ごめんなさい」
「何がだ?」
「その、あの、色々と。今も迷惑をかけてしまっているし」
「私が望んだことだ。なまえさんが気に病むことはない」
「でも」
「なまえさん。少しだけ、寄り道をしても良いか?」
「え?」
彼が指差した先は、人気の無い公園だった。
「私とデートしてくれ」