「で、どこまでいった」
「でってなんだよ」
夕食の洗い物をしていると、珍しく一人でいるフランキーが話を切り出してきた。話の主旨が分からない。
「決まってるだろ、嬢ちゃんのことだ」
「……」
ああ、と納得して一度手を止めた。口に出そうか出すまいか、考えた結果作業を再開させた。なんでこのリリナちゃんのことをむさ苦しい野郎に話さなきゃならないんだ。
「お前らしい直球勝負をしているが、相手が悪いな。あの嬢ちゃん、とことん鈍いやつだ」
「んなもん知ってる」
外から言われなくたってリリナちゃんの鈍感さはおれが一番知ってるし、身をもって体験してるんだ。だがおれはそんなところもリリナちゃんの良さだと思うし、魅力的だと思う。
「おれが入ったときと比べりゃ最近はよく二人でいることも多くなったな。微笑ましくて見てるだけで腹いっぱいよ」
「あーそうかい」
ホットコーヒーを出せば、フランキーはそのままズズッと音を立てて喉に通した。
リリナちゃんのことは大好きでたまらないし、いつまでもあの子のことを考えていられるが、おれは別に恋愛話がしたい年頃じゃない。おれらの経過を観察しているような話をするフランキーは些か気に入らない。
「人の恋路を覗き見するたァ趣味の悪い野郎だな」
「小娘はニコ・ロビンにつっこまれるのはいいのかよ」
「そりゃレディは特別だ」
おれの贔屓をよく思わないらしいフランキーは、おれをじっと見つめている。
そんなとき、静かに開いた扉から話にあがったロビンちゃんが現れた。おれ等を確認するとカウンターに座っているフランキーの隣に座った。
「いらっしゃい、ロビンちゃん」
「なんの話?」
「ぐるぐるコックと嬢ちゃんの話よ」
「あら楽しそうね」
同じように用意したホットコーヒーにさっそく口をつけたロビンちゃんは、柔らかく笑って話しに参加してきた。
「どこまでいったか口を割らねェんだよコイツ」
「キスまではいったんじゃない?」
「えっ……」
いきなりキスだなんてロビンちゃんはなかなか積極的だな。そもそもキスはまだしていない。ウォーターセブンで口の端にしたが、あれはきっとノーカウントだ。
「サンジってば意外と紳士なのね」
「あんなにラブハリケーン飛ばしまくってるわりに、まだとはな……」
「……は、」
「素直だから顔に出やすいのね」
ロビンちゃんはおれのことが見て取れるようで、なんでもお見通しだと言うように笑った。さっきまであんなに何も言わずにいたのにロビンちゃんが来た途端に、形勢は逆転してしまっている。
「あの子もきっと無意識だろうけど、サンジの話をするとき可愛い顔をするのよ」
「そ、そうなの?」
「ええ。仕草が可愛らしくて私まで胸がいっぱいになるわ」
有益な情報を得られて、想像するとにやけが止まらなくなった。キスした直後は後悔もしたが、こんな変化が現れたのなら間違ってはいなかったのかもしれない。
「おい鼻の下伸びてんぞ」
「フフフ」
「それで愛の告白はしたのかよ」
「した」
「どこで」
「ウォーターセブンで」
まあよくもあのゴタゴタの中で言えたもんだな、と呆れたような疑われているような、そんな目で見られた。
そうは言われてもしょうがない。成り行きだったんだ。しかもあの時のリリナちゃんが可愛すぎて可愛すぎて、心の中に留めておくことが出来なかった。
(リリナちゃんに会いてェな……)
片付けを終わらせて、胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。夕食が済んでからダイニングを出て行った愛しのレディのことを想い、同じ船に乗っているのにふと寂しさに襲われる。
吸い始めたばかりの煙草をもみ消して、ずっと前に出ていったリリナちゃんの姿を追いかけるようにダイニングを出た。
するとおれの思いに応えるようにタオルを肩にかけたリリナちゃんが現れた。
「んあーー!リリナちゅわん!お風呂あがりだなんておれも誘ってくれればいいのにぃーー!」
「ナミが入ってるからお願いしてきたら?」
「……おれはリリナちゃんと入りたいのに?」
「!」
タイミングよく会えたことに一気に気持ちが高ぶり、両手を広げリリナちゃんを迎え入れようとしたが軽々と躱された。が、その後のおれの言葉に数回目を瞬かせ、耳まで真っ赤にしてタオルを頭から被り顔を隠してしまった。
「そんな風に言ったって入らないからね!」
「…………」
少しの静寂の後、おれに背を向けて歩き出したリリナちゃんはすぐに何もないところで大胆に転んだ。
「……もう寝るから!おやすみ!」
「い、痛いところない!?どこか血が出てたりするんじゃないか!?」
「しつこいと嫌われるぞー」