暗い深海から上りつめていくと、細く長い光が射してきた。それは少しずつ広くあたりを照らし始めて私の目にいっぱいの光が映り込むと、乗っていた船がザブンと音を立てて海面へ浮きあがった。この島を作っている大きなヤルキマンマングローブがそびえ立っている。
「ありがとう。みんなによろしくね」
「また来るんだろ?気をつけてな」
どうせまた新世界へ行くなら魚人島で待っていればいいのに、と笑われたりしたけどスタート地点からみんなでまた始めたかったからと言い訳をしてここまで来た。
送ってくれた魚人の安全を配慮して人気の少ないところに船をつけた。お別れを告げて地面を踏みしめると胸の鼓動が強くなった。
ポケットから取り出したレイリーのビブルカードはいつもと変わらずその人の方向を示している。それに従って歩き出した。
「もうみんな着いてるかな?あたし少し道を間違えちゃったからな……。マルコが余裕をもって計算してくれてたから大丈夫だと思うんだけど」
マルコには最後まであーだこーだって煩いし面倒臭くて聞き流してたから何を言われたのか分からないけど、私を思ってくれてたはずだからとりあえず感謝しておく。
万が一の為に顔を隠せるようにフード付きのポンチョを羽織らせてくれた。これはこの2年でお洒落を覚えたあたしにってハルタとイゾウからもらった可愛いやつ。
この島でやっとみんなに会えると思うと期待に胸が膨らんでドキドキするのが抑えられない。
あたしはこの2年でいろんなことが身についたから、きっとみんなも変わってきてるはず。2年もあったけど少しも時間を無駄に出来ないと思ったんだ。
しばらく歩くと少しずつ賑やかになってきた。懐かしさを感じる傍ら、いかにも海賊だと分かる柄の悪い奴らもちらほら見かける。そういえば海軍本部が移ったことでシャボンディは治安が悪化したって聞いた。町の治安よりも海賊狩りを優先させるなんて赤犬のやりそうなことだ。海軍も大変だな。
よく見ると町のあちらこちらにいくつも貼り紙がある。仲間募集の文字につられて目を凝らすと麦わら海賊団、と近くに添えられていた。
まさかの事態に息を飲んだ。こんな貼り紙をするほどのことがあったんだろうか?それとも勢力を拡大すると気が変わったんだろうか?と、いろいろ考えていると気持ちが焦り始めた。
「嬢ちゃん麦わらの一味に入りてェのか?」
急に声をかけられて振り返ると太った男の人があたしを見下ろしていた。じっと見つめた後迷いながら頷くと安心したような笑顔を見せた。
「実はおれもなんだ。ちょうどいいから一緒に行こうぜ。さっき広場に集まってるのを見つけたんだ」
先に歩き出した男に続くように歩くとぺらぺらと一人で話し出した。そんなに悪い人じゃなさそうだからとりあえずこのままついて行くことにしたけど、話には興味ないから適当に受け流そう。
(ナミとロビンとか大丈夫だと思うけど、ゾロはちゃんとこの島に辿り着けてるのかな……)
離れる前のゾロの方向音痴さを思い出して不安になる。でも運がいいから何かあっても奇跡的に着くことは出来そうだ。同じ感じであとルフィも。
みんなの顔を思い出すと自然と笑顔になる。早く会いたい。
「…………サンジくんも、着いたかな」
久しぶりに口から出た名前に気恥ずかしさを感じる。そしてサンジくんの顔を思い出してドキドキと心臓が反応する。
会わない間に自分でも分かるほどサンジくんに対する認識が変わった。サンジくんが好きだと気付くと、頭の中がそれでいっぱいになった。
そして少し大人になったあたしは自分の気持ちを素直に受け止めて、サンジくんが好きだって言ってくれたから今度はちゃんと自分からきちんと返事をしようと決めて、今日の日をずっと心待ちにしていた。だけどやっぱり恥ずかしい。
「嬢ちゃんずいぶん大荷物だな。持ってやろうか」
「平気。鍛えてるの」
これも適当に躱すと素っ気ないなとゲラゲラ笑い出した。一人で楽しそうだからそのままそっとしておくことにして前を見ると先の方でたくさんの人が集まっていて騒がしくなってきた。
「あそこだ。結構集まってるみてェだな」
集団に歩み寄ってその中へ入っていくと一緒に来た人と比べ物にならないくらい目つきの悪い人達ばかりだった。目が合えば睨まれるけれど軽く流していると離れたところで海兵と揉めている奴を見つけた。顔を青くした海兵に一方的に刃を突き立てた海賊に瞼を閉じてみないようにした。だけど神経が集中してしまい見聞色が発揮されて嫌でも感じ取ってしまう。
「そこまでだ!カリブー!!」
「うおー!麦わらのルフィ船長のお出座しだー!」
眉を潜めているとどこからかそれを止める声があがった。遠くの瓦礫の上にいるルフィと呼ばれた太った人は麦わら帽子を被っていても左目の下に傷跡があっても、あたしの知っているルフィではなかった。
「しょうもねェ海兵の一匹や二匹その辺に捨ておけ!そして野郎共周りを見ろ!知らねェ顔ばかりだろうがおめェら全員この先はおれの子分!麦わらの一味のクルーだァ!つまり!おれが海賊王になった日にはおめェらは海賊王のクルー!その為にお前ら!この先の冒険、おれの手となり足となり!命を懸けて戦え!」
ニセモノは上手い言葉を使って集まった海賊達をまとめた。それに応えるように雄叫びをあげる集まった人達はニセモノだと知ったらどうするんだろう。一緒に来たおじさんもその気になって夢中で叫んでる。
「今おめェらをここに集めたのは他でもねェ!そのおめェらにとって大切な大頭のこのおれをどこぞの馬の骨が侮辱した!犯人達はこの諸島のどこかにいる!そいつらを見つけ出し、このおれの前に引きずって来い!」
まさか探し物をしていたなんて。こんな大人数で探されたらすぐに見つかってしまうし、すごく面倒なことになるに決まってる。
「誰なのー?そんな物好きは」
ため息をついて解散するまで待つことにするとステージの端にある階段から何人かが登って来た。その中で1つ真ん丸いものが動いているのに目が止まる。よく見るとそれは大きなリュックで、それを背負っている人に目を丸くした。
「げっ!あれルフィじゃん!!」
「犯人の一人が早くも見つかった!まずはこの男に思い知らせよう!そしてお前ら、今からこれがコイツにする仕打ちはこのおれに逆らうとこうなるというお前達子分への警告でもある!」
「どこぞの馬の骨ってルフィのことだったの!?ほんと変なことに首突っ込むの好きだなあ……」
「そこまでだ海賊共!麦わらのルフィ及びその子分共!大人しく降伏しろォ!この46番グローブの出入り口は全て封鎖した!貴様らにはもう逃げ場はない!!」
「うわ海軍だ!」
物好きなルフィに呆れていると後ろから海兵達が声をあげた。もう既に大砲や刀を構えて戦闘態勢に入っている。咄嗟に着ていたポンチョのフードを被った。あたしの前には大柄の男達がたくさんいるおかげで簡単に海兵に見つからずに済んだようだ。
「やばいやばいやばい、見つからないようにしなくちゃ……!」
ごちゃごちゃしてる間にここを離れなきゃ。仲間と合流するまで絶対に海軍に関わるなって言われてるんだ。