あたしはというと、何故なのか分からないけど今日は無性にサンジくんと一緒にいたい衝動に駆られているため、もの凄く我慢を強いられてきた。
荒波でナミの指示があるまま帆を畳んだり、舵を切ったり、慌ただしく動いていても飛んでいくミカンの実をしっかり確保したり。サンジくんは人一倍働いていた。
言葉を交わすことくらい出来たら良かったけど目すら合うことなく何時間も動き回って、そういう日に限ってサンジくんに構って欲しくて仕方ない。それなのに休む間もなく今度は食事を作り始めてしまったから、後を追うように定位置になったダイニングのカウンターに座った。
「腹減った?」
「……」
「話す気力もねェか」
ダイニングには2人きりだけど食事の支度をするサンジくんの邪魔をしないように、顔を伏せているとサンジくんから話しかけてくれた。
確かにお腹は空いている。今にも鳴ってしまいそうな勢いだけど、それどころでもないし、口を開いたら何か文句を言ってしまいそうで首を横に振ってただ耐えた。きっとサンジくんからは見えてないだろうな。笑い飛ばしてくれた優しさが抑えている衝動を加速させる。
完成に近づいているのか、テーブルにサラダを並べ始めたのを目で追う。レストランで働いてただけあって、知識のないあたしから見ても動きに無駄がないし、動作が綺麗だ。
「どうした?浮かない顔して」
横を通り過ぎようとしたのをやめて、何も喋らないあたしを気にして声をかけてくれた。訴えるようにじっと見つめ返すと目を瞬かせてゆっくり体を屈めると、あたしをしっかり腕の中におさめて抱きしめてくれた。
「……求められてるような気がした」
身体の中に好きな匂いが広がって、更に体温が優しく伝わってきて幸福感に満たされる。やっと欲しかったものが手に入って少しずつ気持ちが穏やかになっていく。
「気のせいじゃなかった?」
「……うん、」
サンジくんの背中に手を回して更に密着できるように引き寄せると、ぽんぽんと落ち着くリズムで叩いてくれる。このまま寝られそうだとあまりの心地よさに目を瞑った。
そんなひとときもつかの間で、少しして体が離れていきそうになったのを咄嗟に腕の力を強くして阻止した。
「リリナちゃんごめん。メシ用意しないと……」
「やだ」
おでこをぐりぐり擦り寄せると離れかけていた体がもう一度密着して、強く抱きしめられた。
「そんな、可愛いこと言われたら離せなくなる」
耳元で囁かれてドキッと胸が高鳴った。そうなれば今は好都合だけど、お昼の用意が出来ないと困るんだろうなと頭の片隅に沸いて出た。
渋々体は離せたけど、最後の最後に残った手がスーツのジャケットを掴んで離さなかった。
お互いにそこを見つめたままでいるとサンジくんはジャケットを脱いであたしの膝の上に乗せた。
「すぐに終わらせるから」
指で頬を撫でてキッチンへ戻っていったのを目で追ってから、渡されたジャケットに顔を埋めた。さっきと同じ感覚に目を閉じてそれを堪能する。けれどそれもすぐに効果が切れた。
「……やっぱりサンジくんじゃなきゃやだ」
顔を埋めたまま本音が漏れる。タイミング悪いな、とか早く終わらないかな、と愚痴をこぼしながら顔をあげてカウンターの向こうに目を向けると、耳まで赤くしてじっとあたしを見つめているサンジくんと目が合った。
これでも一応恋人同士じゃない設定です。ちょっとせめた関係を書きたかった。