追いかける

「ダメだったらダメ!」

いつも優しいサンジくんが何度お願いをしても駄目だと言い続けるから、あたしもいつか許してもらえるだろうと意地になって何回も繰り返しお願いをしている。

「お願い!」
「こればっかりは譲れねェ!」
「あんた達まだそれやってたの?」

周りのみんなは午前中から続いているやりとりにうんざりしているみたいで、あたしに諦めろだとか、サンジくんに折れろ、だとか口を挟んでくる。けれど何を言われてもあたしもサンジくんも譲ることなくぶつかり合うだけ。

逃げるサンジくんをぐるぐる追いかけ回していると、さすがに疲れてきて甲板の木陰に座り込んだ。サンジくんはそんなあたしを見て、近くに寄ってきて髪を撫でる。

「リリナちゃんには綺麗なままでいてほしいんだ。分かってくれ」
「少しくらい平気だもん」
「その少しがいけないんだよ。こんなの吸ってたって得することなんかねェし」
「じゃあなんでサンジくんは煙草吸ってるの?」

逃げられないように両手でサンジくんの腕を捕まえると嬉しそうに笑って座り直した。そして何かを考えるように空を見上げてうーん、と考え込む。

「……おれの夢が叶ったら教える」

笑ってそう言ったサンジくんはいつもと違う笑い方をしていた。そんな違和感に戸惑いどう返そうかと考えている間に、いつも通りの表情に変わりあたしをじっと見つめてくる。

「それに、リリナちゃんがおれのこと追いかけてくれんなら尚更焦らしたい」

少し意地悪なことを言うもんだから口を尖らせると手を広げて抱きしめられそうになったけど、直前で躱して少しだけ睨みをきかせた。

「サンジくんがその気なら受けて立ってやる!あたし負けないから!」
「え……」

思いのほか、逆上したことに戸惑ったみたいで立ち上がったあたしを取り残されたように見上げている。

「ずーっと一緒にいて煙草吸えなくて折れるのはサンジくんなんだから!」
「我慢勝負?」



あたしから仕掛けた煙草の我慢勝負は意外にも夜まで続いてしまった。煙草を吸わせる隙を与えないように四六時中付きまとっていたのに、サンジくんは平然とした顔で過ごしている。

(いつもはずっと口に咥えてるくらい吸ってるのに……)

おかしい、と首を捻っていると洗いものを済ませたサンジくんがニコニコした顔で隣へやってきた。

「凄くねェ?意外と我慢強いだろ?」
「……意外とね。なんでそんなに無理するの?」
「無理……?んー、自分のことなんかよりリリナちゃんの方が何倍も大事だからかな」

笑顔のまま頬に手を添えてられて一気に顔が熱くなるのを感じた。そのまま動けなくなって目の前にいるサンジくんをじっと見つめることしか出来ないでいると、親指で優しく撫でられた後、うーんと唸り始めた。

「どうしたの?」
「いや、さすがに我慢出来なくなってきたなって」
「ほんと!?」

その言葉を待ってましたと一気に期待が膨らみ、いつも煙草をしまっている胸ポケットへ視線を滑らせた。

早く、早くとポケットに手が伸びるのを待ち侘びていても一向に動きはない。どうしたのかともう一度サンジくんへ目を向けたのと同時に、サンジくんのドアップと前に一度感じたことがたる感触が口の隣にあった。

「っ!」
「やっぱクソ可愛い」

目を丸くしていきなり起きたことに驚いている目の前でサンジくんは嬉しそうに笑っている。慌てて立ちあがって未だに笑顔のサンジくんを見下ろした。

「煙草じゃないの!?」
「リリナちゃんが可愛いから、我慢出来なくなった」

完全に油断してた。悔しくて口を尖らせて抗議の目を向けてもへらへらと笑ったままで、ビクともしない。

「今度は口にしていい?」
「ダメーー!」

さっきのドアップを思い出してしまって恥ずかしさに耐えきれず逃げるようにダイニングから走って出た。

「もうっ!」

いろんな感情がぐるぐる行き交い、どう鎮めていいのか分からず叫びたいのに何も出てこない今がもどかしくて、閉めたばかりのダイニングのドアを静かに開けて隙間から中を覗くと火のついた煙草を片手に鼻歌を歌うサンジくんがいた。


好きな子のためなら煙草だって我慢できるよっていうサンジ。いないところでイライラしてたらいいね。