おれが言うのもなんだが、こんな毒でしかないものの何が良いんだが分からない。知らないから知りたいってただの素直な好奇心なんだろうか。
誰もいない船尾で煙草をふかして最近のリリナちゃんを思い返していると、背中に視線が突き刺さっているのに気付いた。
相手が誰かなんて考えなくても分かる。吸い始めたばかりの煙草を片手に振り返ると、恨めしそうにこちらを見つめる目とかち合った。
殺気なんてない。それなのに一瞬動けなくなり、我に返るようにはっと息を飲んだ。それからどうしたもんかと流れていく煙を見つめた。
「近くに行ってもいい?」
ここ最近の彼女にしては遠慮した控えめな問いかけに、外していた視線を向けた。いつも強行突破と言わんばかりに距離を詰めて来ていたのに、ワンクッション置かれるとこちらの調子が狂う。
極めつけに先程までの何かを訴えかけてくる目つきはなく、弱々しく懇願するような瞳に変わっていた。
素直に迎え入れることは出来なくて、リリナちゃんがいる側と逆の手に煙草を持ちかえてから、誘導するように一歩横へずれると嬉しそうな顔をして隣へ駆け寄ってきた。小動物みたいで可愛い、と気が抜けたが煙が彼女に飛んでいないかチェックを入れる。
幸い、風向きは船の向かい風、船首から船尾へと流れている。
「何がそんなにいいんだ?」
「なにって、それは……」
何気なく聞いただけだったのに、途端に口籠ってチラリと一度目が合っただけでそれ以降は意図的に顔をそらしている。
何があったのかと深く首を傾げて顔を覗くと手で壁を作って顔を隠してしまった。
「何か企んでんの?」
「なにも!単純に見たいだけ!」
「勿体ぶって教えてくれねェの?」
「やだもん、恥ずかしいから!」
「えっ?」
まさかのことに一瞬時が止まったような気がした。これさっきもあったな、と冷静に思いつつ、未だに顔が見えないリリナちゃんを見つめた。
「ヒドイ!これって誘導尋問っていうんでしょ!?」
「い、いやそういうつもりは……」
「あたしはただかっこいいなって思ったから見ていたいだけなのに、サンジくん頑固なんだもん!」
「……そう、なの?」
「そう!」
ついにおれの煙草に執着する理由を怒り口調で教えてくれたものの、この内容はなんというか予想だにしていなかったので照れる。しかも言った本人は気付いていないというのが、どうしようもない空気を作り出している。
「そんな風に思っててくれたなんてクソ嬉しい。もしかして脈あり?」
「なんの話?」
「今煙草吸ってるとこがかっこいいって言ってくれた」
「は?言ってない!」
「言ったよ」
未だに興奮しているリリナちゃんは一瞬口が悪くなったけど、気が強いところが垣間見えて愛おしい。
「今日はキスしてもいい?」
「ダメ!」
感情が抑えられなくなって先日断られたキスの申し出をもう一度してみたが、やっぱり断られる。しかも今回は恥ずかしがって顔を赤くすることもなく。
どうしたらキスしてもらえるだろう。泣き落としなんて男がするもんじゃないし、強引にいくなんて選択肢にはない。偶然、とか彼女から、というゼロに近いから正面きって言うしかない。
当分は無理だろうな、と諦めていつか思いが通じあって彼女がそれを求めてきてくれたら。そんな悠長なことを考えられる余裕がまだある。今からそのときの幸福感に浸りながら、ジャケットの中の煙草に手を伸ばした。
サンジくんの煙草吸う手元とか哀愁とかやばそう。だから追っかけ回したい