月夜の夜に(ダンデ)⁑

ーLINE画面ー

ごめん、ダンデくん
今日も帰れないかもしれない…

ー職場に泊まり込むの、今日で3日目だぜ?
ー大丈夫なのか…?

うん、そうなんだけどね…

ーまた女の先輩達からの嫌がらせか?
         
そうだね…
記事になるような
大きなネタを見つけない限り、
帰るなって…
   
その先輩達は皆でバーベキューするって
楽しそうに帰って行ったよ。
      
ーナマエに仕事を押しつけてか?
ー自分勝手にも程があるぜ!!

「ナマエさんは
お付き合いしてる人もいないし、
一人暮らしだし
泊まり込みしても平気でしょ♡」だって

ー……

あ、ダンデくん怒ってるでしょ?
帰れなくて本当にごめんね

ーオレは大丈夫だが…
ーナマエが心配だぜ…

ー取りあえず、スクープになるような
大きなネタがあればいいんだな?
 
うん、そうだよ。
とりあえず、今からネットで
ネタになりそうなスポットとかないか
探してみて、
明日の夜には帰れるようにするね。

ーわかったぜ。

ありがとう




ダンデくんとのやり取りを終え、スマホの画面を落としてから画面に突っ伏す。
ナマエのいる部屋以外、全ての電気が消えた消えた25階建てのオフィス。
残っているのはナマエ1人であとは全員BBQにいってしまった。

部屋全部の電気を点ける気にもならず、今点いているのは夜間用蛍光灯と自分のデスクのスタンドライトのみで、部屋の中は薄暗い。

そんな室内にはカーテンの隙間から明かりが差し込んでいる。
月の光だろうか。

『はぁ……』

ため息をつき、目を瞑る。
真っ暗な視界によぎったのは彼との記憶だった。


彼とは、彼がチャンピオンになる前の頃からの付き合いだった。
ナマエは当時から面白いものや新しい発見が大好きで、1人であちこち旅をしていたのだ。
そんなとき、

「ここに行きたいんだが…もう近くまで来ていると思うんだけど…」
『全然近くまで来てないです。なんなら真逆ですよ…』

偶然彼と出会った。
あまりにも迷子になったり、自炊が出来なくて困っているのを放っておけなくて、
彼と共に旅することを決めたのだ。

だから、彼がチャンピオンになるまでの努力も知っていたし、チャンピオンになってからの苦悩も誰より近くで見てきた。
勿論、バトルタワーオーナーとして活き活きしながら頑張っている姿も。


チャンピオンになった日の夜。

「ずっと一緒にいてくれてありがとう。ナマエが一緒だったからこれまで頑張れたんだ。
これからもずっと一緒にいてくれないか…?友達としてではなく、恋人として…」

顔を赤らめながら、それでも一言一言噛みしめるように紡いでくれた彼の表情を、ナマエはきっといつまでも忘れないだろう。


彼はすぐにお付き合いをメディアに公表しようとしたが、
ナマエは許さなかった。

ーチャンピオンになってすぐ熱愛報道なんて、クライアントやファンへのイメージが下がり、あちこちで支障がでるー

そう言い、彼との関係をひた隠しにしてきたのだ。
そのため、彼とのお付き合いは本当に仲の良い人しか知らない。

だからこそ、泊まり込みをさせられるくらい仕事を押しつけられたのだが…

本当は今すぐにでもここの職場を辞めたいのに、ずっと辞めさせてもらえずにいるのだった。



(今日こそダンデくんと一緒に過ごしたかったのに…)
真っ暗な視界の仲、目頭が熱くなってくるのが分かる。
(ダンデくんに会いたいよ……)
更に目を強く瞑った瞬間、
画面を消したはずのスマホロトムが電話を知らせてきた。

『……はい…』
「ナマエ、ブラインドを開けてくれ」
『ダンデくん…?』
「そうだぜ!とにかくブラインドを開けてくれ」
『ブラインド…?』

このオフィスにブラインドなんて、街を一望できる特大な窓にしかつけられていない。

ここのことだろうか…

彼の言葉に首を傾げながら、ブラインドの自動開閉スイッチを押すと、
サーっとブラインドが開いていく。


目の前にあったのはとても大きな満月。


そして、



その大きな満月を背にして
リザードンに乗ったダンテの姿。



まさに今、会いたいと願った彼の姿だ。

普段の大きさとは比べものにならない程の大きな満月を背景にし、
逞しいリザードンに、
バトルタワーの制服を身にまとって跨がるその姿は、
息が飲むほどに美しかった。


思わず窓を開けると、
吹き抜ける風に、リザードンの羽ばたきも加わり、
机にあった沢山の紙が巻き上がった。

『ダンデくん…!?なんでここに…!?』

と窓から身を乗り出して叫べば、

「ナマエ!!」

とても嬉しそうな笑顔のダンデ君くんに、グイッと身体をひかれる。
気がつけばリザードンに乗せられていて、思考がついてこない。

「迎えに来たぜ!!」

わしゃわしゃと頭を撫でられると、張り詰めていた糸が緩み、
涙が溢れそうになった。

『なん、で…』

振り返って問いかけると

「3日も会えないなんて耐えられないぜ」

なんて輝くような笑顔で言われる。

自分も会いたいと思っていたけど、
彼もまた会いたいと思っていくれていたのか、
と嬉しくなった。


だがその直後、彼はとんでもないことをリザードンに頼んだのである。

「リザードン、今日は公園の上を通ってから家に帰ってくれ」

主の言うとおり、旋回して公園の上空を通って帰ろうとするリザードン。

『待って…!公園には先輩達がいるし、私まだスクープとれるようなもの見つけられてないから帰れないの…!』

そう言っている間に、あっという間に公園の上空に差し掛かる。
もし今帰ったら明日に待ち受ける先輩達からの嫌がらせが酷くなる、と怯えたナマエにダンデは、


「スクープならあるさ」


と、凜々しい顔で言い切った。


『え?』


ーあ!チャンピオンじゃん!ー
ーこんな月夜に見られるなんてラッキー!ー
ーロトム。写真撮っておいて!ー
ー撮影用のカメラでもおさえといてー


遙か下の方で先輩たちの声がする。


ーは?一緒にいるのって、まさかナマエ!?ー
ー嘘でしょ!?ー
ーそんなことあるわけっ…!!??ー


「ナマエ、オレはもうチャンピオンではなくなった。
チャンピオンではなく、バトルタワーのオーナーになったんだぜ。そのオーナー業も落ち着いてきた」

『そう、だけど…』

「だからもう、隠す必要なんてないと思った」



彼の大きなが顔に添えられる。



「オレ達がスクープになればいいんだ」



その直後、少し強引に顎をあげられ、
見せつけるかのように長めのキスを落とされた。






翌日ー
朝イチのニュースはどこの番組も

『バトルタワーオーナー ダンデ熱愛!!』

になり、お昼には

『ダンデ緊急記者会見! プロポーズは済んでいる!?』

と瞬く間にガラル中に広まっていった。


そしてその日の夕方ー
ナマエの会社に、今話題の真ん中にいるダンデ本人が現れた。
悔しさに戦慄いている先輩達の目の前で、

『寿退社だぜ』

とナマエの退職届を置いて、颯爽と去って行った。
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