夏の終わりに灯るもの



 待ち合わせは十八時半。家の前に停まった乗り慣れた車に乗り込む。

「久しぶり〜二日ぶり?こんな実家近いのに会わないのも逆にレアだね」
「ね、俺もびっくりしちゃった。じゃあそろそろ行こうか」
「わーい。ご飯だご飯だ〜!今日は絶対ハンバーグって決めてるの」

 向かう先は少し遠くの洋食屋さんなんだけど、これには訳がある。そこのハンバーグが食べたいからと、今日はそこから近い河川敷で花火をする予定だから。
 つい一週間くらい前。私が突然の思いつきで言い出した「花火したい」なんて言葉にノってくれたサエ。そのまま五千円分も花火を買って、お互いの出来る日を擦り合わせていたら今日になった。
 花火するなんて何年ぶりだろう。二十五メートルも上がる打上花火を買ってしまった。それが楽しみで楽しみで仕方がない。

「あ、そういえばさ」
「なに?」
「お父さんにね、サエと二十五メートルの打上花火するって言ってたらさ、もう大人だからやらかしたら新聞載るよって」
「……都の父さん怖いこと言うなぁ……。まあ、最初は十メートルので様子見して……」
「日和ってんねぇ!」

 とか言ってるけど、二階建ての我が家で八メートルぐらいじゃない?とか言ってたしその三倍。普通に私も日和ってはいる。ニュースになるのはごめんだ。
 なんて話をしてたら洋食屋さんに到着。適当に席に座り目当てのハンバーグを注文。サエは私が「おいしそ〜」なんて言っていたオムライスのプレートにしていた。
 「一口あげるね」だなんて、相変わらず私に甘すぎる。

 毎日一緒にいるけれど、お盆だったこともありお互い実家に帰省していて。私の方はお坊さんきたりでバタバタしてたから本当に丸二日ぶり。
 連絡はとっていたんだけど、なんかサエがいないとソワソワしちゃうしやっと会えたし、今日花火だし!あれだけ連絡してたはずなのに話題は尽きなくて。なんだか学生時代を思い出す。

「ん、そろそろいい感じに暗くなってきたし行く?」
「行く!花火!楽しみー!」
「こーら、あんまり大きな声出しちゃダメだろ」

────────

 前日の雨で若干地面は湿っている気がするけどそんなの問題無し。適当に車を停め、お互い沢山の花火とバケツを持って広場を歩く。辺りは真っ暗だけど晴れてるし、暑過ぎなくてちょうどいい感じ。
 この河川敷、普段は運動場とかに使われているものだから燃えるものも少ないし多少は大丈夫!……なはず!

「もう、ほんと楽しみにしてたから。うずうずする」
「あはは、じゃあ何からする?」
「打上……は怖いから、噴出!」
「わかった、準備するから都は花火出してて」
「はーい」

 大きなパックに入った花火を一旦ひとつずつ出していく。なんだこれ、手持ち花火?サムライとか書いてて長いし楽しそう!このパックには箱型の多くて多分噴出メイン。
 色んな名前あるなぁ……よく考えるなぁ……なんて見ていたら気になる名前。魔弾って。名前からして危なすぎない?あ、これ打上か。

「とりあえず、これ!」
「ちょっと離れたとこでしよっか。俺が火つけるよ」
「えっ、やりたい」
「危ないよ」
「平気だよ!チャッカマン貸して〜」

 箱を開けてセット。少し離れたところでそっと火をつければシューなんて音を立てながらオレンジの火花が散り出す。

「あは、あはは!すごーい!」

 オレンジから緑色へと色を変えながら噴き上げる火花。ああ、そうだ。最後にしたのもサエとだっけ。なんで急に懐かしい記憶が蘇る。
 子供の頃は凄く長く感じてたのに、案外呆気なく終わってしまってそれがちょっと物足りなく感じて。

「もいっこしよ!次こっちの名前が派手な方!」
「へぇ、これ六回も色変わるって。最近の花火は凄いなぁ」
「んね、手持ちにもなんか十色くらい変わるのあったよ」

 三十秒間火ついたままのやつとか、線香花火にも色々種類があって面白い。三十秒のやつ、タイマーで時間計ってやろうかな。
 なんて考えていたら、なんだか急に手持ちも早くやりたくなってきた。

「ね〜手持ち全部この中出していい?何が何か分からない、闇鍋ならぬ闇花火状態」
「ダメって言ってももうやってるじゃん……」
「バレました?ほら、火つけて!そしたらこっちで手持ちしよ!」

 少し離れた場所でサエが噴出花火に火をつけているところをこっそり撮影。真っ暗な中ぼんやりと光るオレンジ色の光。
 色とりどりの火花がぱちぱちと噴き上がりぼんやりとサエの顔を照らして。イケメンは花火に火をつける姿もすぐ脇で花火眺めてるのも、全部絵になるな〜なんてね。

「……案外すぐ終わっちゃうね」
「ね、なんかもっと、こう。バチバチ凄いの欲しい」
「ふふ、手持ちの方にスパーク花火とか色々あっただろ」

 適当に手に取った花火は多分ススキ花火。やっぱりなんか花火といえばこれと線香花火だろう。
 火の灯ったキャンドルに近付けて火をつける……けれど上手くつかなくて。

「ありゃ、つかない」
「先っぽについてる紙ちぎった?」
「……ちぎってないです」

 紙の部分より少し手前の方に火を近付ければすぐにピンク色の火花が噴き出して。

「んふ、ふふふ。きれい。たのしすぎる」
「楽しんでるみたいで良かった。ほら、これの上座れば汚れないから」
「ありがと!……あ、終わっちゃった」
「俺もしよっかな」

 差し出されたビニールの上に座る。なんにせよ、手持ち花火はふたりで使い切れるか怪しいくらいある。チャッカマンの燃料足りるかな?
 手持ち花火は二本でも三本でも持ってもいいし、やっぱり大人の遊びは贅沢じゃないと。

────────

 なんだか束になっていた花火全てに火をつけてただのひとつの炎の塊にしたり、動画に撮ってもやっぱり肉眼での美しさを残せず結局写真は諦めたり。
 噴出花火つけた瞬間、こてんと筒が倒れた時は本当に冷や汗をかいた。火傷よりニュースの方がマズイ!って咄嗟の判断で起こしたの、ファインプレーだったけど流石にサエに軽く怒られてしまった。

 最早リレーみたいに手持ち花火に火をつけてはそこから火を貰って、消えたらバケツに突っ込んでまた新しい手持ち用意して……。なんて工場みたいな時間もあったけれど、闇花火状態だった手持ち花火も数える程しかなくなってしまった。
 噴出花火もし尽くして、残りは二十五メートルの打上花火のみ。十メートルとかそれより少し高いくらいの花火でも大丈夫そうだったし何とかなるはず。大トリとして残している。

「ん、あ。チャッカマン終わってきてるかも」
「予備持ってきてれば良かったな……。そっちの火、ちょうだい」
「え、わ」

 さっきまで少し離れてたのに真横に来て私の花火から火を貰っていくサエ。びっくりした。汗かいて気になるし、近付くの結構恥ずかしかったんだけど。
 火花がぱちぱちとはねるたびに楽しそうに目元を細めているサエをじぃっと見ていたら、こちらに気付いたのか不思議そうに首を傾げるサエ。

「ん?何?」
「……汗臭くない?私」
「臭くないけど……それに汗の心配したって、今更だろ?」
「今更と……ワァ……なんでもないです。わー、はなびきれい」
「……もう消えてるけど」

 まあ、それもそう。別に、ずっと一緒にいるし一緒に住んでるし。ふつうに、汗かくこともあったし……。なんて、なんか丸二日離れただけでそういうのリセットされちゃった自分にちょっとびっくり。

「さっきので最後の一本だったみたいだけど……」
「はっ、ということは、打上花火……?ワクワクしすぎて、狂いそう……!」
「はいはい、じゃあ先に終わったやつゴミ袋に片付けようか」

 バケツを持ってきてはいたけれど、なんか水入れたら固まる凝固剤?がついていたお陰で基本的に使わなくて済んだ。
 花火の燃えカスはできるだけ纏めておいて、持ち帰って水につけてゴミの日に出す。完璧だ。

「できた!私、火つけたい!」
「すぐ離れてね?」
「もちろん」

 なんて心配性なサエは結局すぐ側まで様子を見に来るんだけど。
 最初の頃よりトロトロと弱まったチャッカマンの火は導火線に火をつけて。そこから綺麗なオレンジの火花が散り始める。

「わっ!ついた!逃げよ!」
「あはは、逃げろ!」

 なんて子供みたいにはしゃいで走って離れて。ギャハハとか全然可愛くない笑い声を上げて、ぬめった地面に足を取られつつ振り向く。
 少しの沈黙、パンッと弾けた音の後キラキラとした火花。小さな打上花火は一瞬だったけど、今日見た中でいちばんきらきら綺麗で楽しくて。終わったあともなんだか笑えて。

「あー!楽しかった!」
「ふふ、案外低かった気がする」
「確かに、あれほんとに二十五メートル?」

 全然日和る必要なかったかも。もっと買えば良かった。でも、たったひとつだからこんだけ楽しかったのかな、なんて。

「打上花火、やっとちゃんと見れた!」
「あ〜。花火大会の日、珍しく寝落ちてたっけ」
「なんかあの日凄く眠たくって……一緒に見たかったのにな〜」
「別にこれから先いくらでも見れるだろ?」
「それは、そうかも」

 サエのこの先の未来に、私っているんだ。なんてまあ、何回も言われたことではあるけどちょっと気恥ずかしくて顔が熱い。花火も終わってるし、真っ暗でよかった。
 燃え殻もきちんと拾って後始末は完璧。終わってしまって少し寂しいけれど、ゴミを持って車へと歩き出す。

「ねえサエ」
「ん?どうかした?」
「あのね、ネズミ花火やってないし。ロケット花火もしたいし。来年もしようね、花火」
「ああ、もちろん」

 小さく笑ったサエはくちゃりと私の頭を撫でる。
 来年は今よりいっぱい花火買って、なんなら真梨ちゃんとかバネさんたち六角のみんなを呼んだっていい。真梨ちゃん、って言ったらサエは珍しく拗ねてふたりが良いって言うかな?
 ……ていうか、そもそも真梨ちゃん休み取れるのかな……?そうやって来年のことに思いを馳せながら、んふふなんて笑えばサエは不思議そうにこちらを見る。

「どうしたの?」
「ないしょ!」

 来年の夏の計画、始めちゃおうかな。



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