君だけの共犯者


埋めてくれる話


「……サエ、たすけて。ど、どうしよう……」

 長年想いを寄せていたあの子に、振り絞るような震えた声で助けを求められてしまったのに。無視出来る奴はきっと居ないだろう。
 例えそれが、どれほどの悪事に手を染めることになろうとも。

────────
 
 詳しくは訊かなかった。訊いてしまえば、もし訊いていれば、躊躇ってしまってもっと違う方法を取っていたのだろうか。そんなことは今となっては分からないけれど。

「人を、殺しちゃったの……あの、!わざとじゃ、なく……って、」

 ポツリ、都のか細い声が電話越しで震えた。今にも泣きじゃくりそうなくらい浅い呼吸、全体的に……不安定で。「どうしよう」と何度も繰り返す都を宥めて落ち着かせる。

 こんな非常事態なのに、自分でもどうかと思うけれど酷く高揚……いや、興奮していた。
 勿論、非日常的な……人生で一度も聞かないような罪の告白を聞いてしまったから……。なんてこともあるだろうけれど。
 どうも件のことがあってから、彼女がいちばん最初に連絡を取ったのは俺であったということ。それがいちばん、興奮を高まらせてしまったのかもしれない。

 昔は、よく何かと頼ってくれていた筈なのに、ここ数年はめっきりと俺を頼らなくなってしまった幼馴染の都。
 今回のことは、事故なのか故意に起きたものなのか俺にはよく分からないけど。混乱、動揺の中で俺をいちばんに頼ってくれたのが嬉しくて仕方がなかったのだ。だから「少し待っていて」なんて言葉を残し、夢中でハンドルを握り、彼女の元へと駆けつけたのだろう。

 そうして、彼女の元へ着いた頃。俺の顔を見た都は酷く安心したように眉を垂れ下げて、彼女に似合わない肉の塊の前でボロボロと涙を流した。

「大丈夫だよ。俺が全部、何とかするから」
「なんとか、って…?」
「大丈夫、信じて。俺はこれを運ぶから……さあ、早く行こうか」

────────

 小降りだった雨は少し強くなってきてしまった。フード付きのパーカーを着ていて正解だったかもしれない。
 人なんて滅多に通らないような山道を走り、道路から少し外れた場所に車を停める。

「じゃあ、俺行ってくるから。都はここで待っていられる?」
「ぃ、いや……!ひとりに、しないで……」
「……都。……分かった、じゃあこれを貸してあげる。濡れたままだと冷えてしまうから」

 そう微笑みながらパーカーを脱いで手渡せば、都はこくりと小さく頷いた。
 重たいソレと用意しておいたスコップを何とか運び出し、深く、ずっと深くに穴を掘る。さらさらとした砂浜とは違い、落ち葉や枝などで案の定地面は少し掘りにくかったが、慣れれば割と簡単だった。
 頬を滑る水滴が邪魔で雑に拭う。どれだけ掘れば見つからないだろうか。勿論遊びで、砂浜に人を埋めたことはあるけど、あれは頭は出ていたし寝転がっていたからそこまでは深くはなかった。
 今回は見つかってはいけない……、遊びでは無いから。

「……み、見つからない…、よね?」
「うん。絶対……とは言いきれないけど、ここまで来る人なんか居ないだろうし大丈夫だよ。……ふふ、泣き止んだ?」
「ごめ、ごめん……なさい。わ、わたし……。やっぱり、今からでも……じ、じしゅ……!」
「大丈夫。絶対に俺が守ってあげるから、」

 遮るようにそう言い切る。未だにガタガタと両手は震えていて、今にもまた泣き出してしまいそうな顔をした都に近付き、彼女の濡れた頬を軽く撫でれば大きな瞳は不安げに揺れて俺を捉える。

「だから……これは、ふたりだけの秘密」

 そう耳元で囁けば、ごくりと小さく喉の鳴る音。そして何かを決意したように小さく首を縦に振った都。
 「あと少しだけ待っていてね」それだけ伝えて、穴の中に投げ棄てて土を被せていく。

 きっとこのふたりだけの秘密が、バレることが無くても都は一生この日を忘れられずに、誰かにバレてしまうかもしれないその日まで怯えながら暮らしていくのだろう。
 そうなると、ずっと俺のことを頼ってくれるのかな。このふたりだけの秘密を背負った俺のことを、俺だけを一生見ていてくれるだろうか。
 そしてこんな酷く歪んだ想いを只管に募らせている俺のことを、都はどう思うのだろう。

「さあ、終わったよ。車にタオルと着替え、置いてあるし軽く拭いてどこかで着替えようか。都の身体が冷えてしまうと心配だし」
「その後は……?」
「そうだなぁ……。すぐにだとちょっと心配だし、もう少し経ったらこの街を離れてふたりでずっと遠くに行こう。なに、不安になることなんてないさ。ふたりなら絶対に大丈夫だから」

 そんな言葉に、ようやくほっと安堵の息を漏らした彼女の手を握り車へと戻っていく。あれだけ震えていたはずの都の手はもう震えてなんかいない。
 そうだ。うんと遠くへいこう、誰も俺達のことなんか知らない……そんな場所に。そして、ふたりだけの世界で笑ってくれたなら、それでいい。
 



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