午前1時の誘惑


 ぐぅ、と小さくお腹が鳴る。今は何時だろうか……なんて作業を一度止めて、ちらりと時計を見れば時刻は午前一時三十分。
 こんな時間であればお腹も空いてくるか、なんて己を納得させつつペットボトルの水を口へと運ぶ。だけどぼんやり口をついて出た言葉。

「お腹、空いたかも」
「ん、何か食べる?」
「もう一時半だよ?食べないよ、太るし」

 ゴクゴクと水を飲んで空腹を紛らわせてみるけれど、そんなもので紛れれば世話ない。
 うーん困った、別にそのまま寝てしまえば良いのだけどキリのいいところまでは仕上げたいし…。

「ラーメン作ろうかな」
「……作れば?」
「都は食べないの?」
「食べないもん」

 思いついたようにサエは立ち上がってキッチンへと向かっていく。本当に作る気らしい。
 こっそり見ていれば、インスタントの袋麺を取り出して鍋の準備をしているようで。あ、あれ私が食べるって言って買ったけど、結局全然食べてない味噌ラーメンじゃん。
 インスタントの袋麺を茹でるのなんかに、手際良いも悪いもあるかは分からないけれど。お湯を沸かし、手際良く調理を進めているようで。

「何見てるの」
「べつに?見てないもーん」

 バレてしまったようでそっぽを向いて誤魔化してみる。また、一口だけ水を含み止まっていた手を動かし始めて少し経った頃、美味しそうなラーメンの匂いで更にぐぅ、とお腹の虫が鳴る。

「出来た」
「……たまごとソーセージのってる」
「あったから。でも、都は食べないんだろ?」

 「いただきます」なんて鍋から直接食べているサエを見ながら思わず眉を顰める。いや、まあ……洗い物面倒臭いのは分かるけどさ……。
 そもそも、晩ご飯はきちんと食べたし夜中にものを食べるなんてことを良しとされてなかったから、まあ見ているだけで罪悪感が半端ではない。

「はい、あーん」
「いらないもん」
「でも欲しそうな顔してたよ」
「う、ぐ……歯、磨いたし……」
「後で磨き直せばいいし、歯くらい俺が磨いてあげるよ」
「それは、お断りするけど……」

 差し出されたソーセージと目が合う。茹でたやつ、美味しそう。食べたいけど、なんだか悪い事をしている気分になってしまいどうしても食べられない。
 だけど、美味しそうな匂いとラーメンを啜る音に意識が引っ張られてしまう。極めつけはサエの一言。

「誰も怒らないよ。俺と都だけの秘密だよ」
「……ひ、ひとくちだけ」
「ふふ。はい、食べたかったら分けてあげるよ」

 口元に運ばれたソーセージに思い切ってぱくりと齧りつけば、温かくて美味しくて。もぐもぐと口を動かしていればサエは小さく吹き出す。

「すっごく美味しそうに食べるね」
「……美味しい、です。……たべたい。ラーメンも」
「うん、器持ってくるから待ってて」

 そう言って満足気に笑ったサエにぽんと頭を撫でられて、思わず小さく口を尖らせる。どうも私に食べさせるつもりだったのだろう、たまごもウインナーもふたつずつ茹でていたようだ。

「う〜ん、不服」
「何が?どれだけ食べる?好きなだけ食べていいよ」
「ちょっとでいいから!あんまり食べると太っちゃう」
「そんなの気にしなくていいのに」

 少しだけ器に分けてもらい、案の定たまごも載せられて。一口、ずるずるとラーメンを啜ってみれば美味しくて。夜中のラーメン、これは背徳的すぎる……。
 「美味しいね」なんて笑うサエを見ながら、たまになら良いかもしれない…。なんて小さく思うのだった。



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