謙也に彼女ができたのは想定外だった。女にだらしない要注意人物、という噂も流したし
それっぽい女は脅して潰してきたつもりだった。どうやら遠征で他県に行った際に出会ったらしく、そこまでは潰せなかったかと自分の爪の甘さを思い知る。世はバレンタインなどと浮かれているのに、ひとり置いてかれているような焦燥感が私について回った。謙也の事が好きだったんだ。だけど「そう」見ては貰えていないことも重々わかっていたし、次に進もうにもそんな事出来やしないぐらいには謙也に溺れていたのだ。謙也に女として見てほしくて履き始めたヒールも、対象外とわかって早々に脱ぎ捨てた。髪も切って、切れることのない友情という縁を繋いだつもりだった。社会人になっても彼女の出来ない男、隣にいる私、必然的にいずれ女として見てもらえると思っていた。どれほど頑張っても結局自分だけの思い通りにはいかないらしい。
「なまえ、おはよ」
謙也は私の好意におそらく気がついていない。でなければ男より男やから楽やわー、なんて私にほざかないだろう。
「上機嫌やなぁ」
「せやねん、今日部活終わりに彼女と会うねん」
今年はバレンタインが金曜日やからー言うて金曜日の夜からこっち来るー言うてきかんくてなぁと嬉しそうに鼻の下を伸ばすコイツは矢張り私の好意には全く気がついていないだろう。
「まさか謙也に彼女が出来るなんてね」
「おいお前、それは失礼やで」
「謙也がまた今年も誰からもチョコレート貰えんかったら可哀想やなと思って準備しててん。可哀想なチョコレート、貰ってあげたらどないや」
「おー!もろてええんか!サンキュー」
「毎年一緒ですまんな、」
そんなことないで!これうまいねん、と昨夜焼いたガトーショコラを揺らしながらありがとな!と私の前を立ち去る。今まではもっとずっと一緒にふざけてたのに、なんだか急に壁が出来たみたいで悲しい。
それに、これが最後の会話になるかもしれないなんて思えば余計に悲しいよ。ね、謙也。