あの日から、早かったような、それでいて長かったような1ヶ月が過ぎ、遂に迎えた3月14日ホワイトデー。昨日の夜はあまり寝付けなかったせいで、目頭の下に数本線が刻まれている。しかし、それも想定済みで、しっかりパックをしたお陰かクマ以外はお肌トラブルもなくホッと胸を撫で下ろすばかりである。
胸をドキドキと鳴らしながら校門をくぐれば、トン、と誰かに肩を叩かれる。思わず「ひぃ!」と叫んでしまったのは多めに見てほしい。
「怖いもんでも見たみたいな反応だな」
「わ!ごめん!おはよ」
声の主はこの動機の原因である荒北くんで、心臓が喉から飛び出ていくかと思った。
「はよ。…今日さ、昼屋上来れそうなら来て」
「あ、うん。わかった!」
覚えててくれたんだ、という喜びと、そのアンサーに期待と不安が入り混じる。元はと言えばダメで元々だったのに、あんな反応をされてしまってはつい微かな希望を見てしまうのが乙女というものだ。じゃ、と手を振る荒北くんは朝練終わりだったようで、どうやら私の姿を見て駆けつけてくれたらしい。
そして時は経ち、遂に訪れた昼休み。私は震える足で階段を登り、ギイ、と煩く鳴る重たいドアを開くと、風に吹かれる荒北くんがそこにいた。
「ごめん、待たせちゃった」
「待ってねェよ、別に」
コンクリートの地面をトントンと叩いていたのは、おそらく隣に座れってことだろうと解釈して、荒北くんと少し開けて体育座りで座る。
「考えたんだけどォ、何がスキかわかんなかったからオレのスキなのにした」
「わ!ありがとう」
ピンク色の可愛い小さな紙袋を差し出す荒北くんの耳は心なしか赤くなっているように見える。
「期待しとけなんて啖呵切ったのはいいが、みょうじから貰ったの見たら手作りだったから
ちょっと焦ったわ」
「ごめん、手作りやだった?」
「バッ!嫌とかじゃねェよ!!…なんつーか、…スゲー美味かった」
よかった、と心からの声が漏れると、それを聞いたらしい荒北くんはさっきよりもう少し耳を赤く染めてそっぽをむいてしまった。
「けど、ごめんけどオレは作れねェから店のやつ」
「めちゃめちゃ嬉しい」
「んで、そのー。なんつーの?」
急にもぞもぞとしだした荒北くんとは相変わらず目は合わない。気まずそうに空を見たり私とは反対側の地面を見たりして、よし、と決意を決めた様なため息が聞こえたと思えば急に私の方を向き直す。
「みょうじの気持ちがもし”そういう”スキなら、…オレも同じ気持ち……です、」
どんどんと弱くなっていく語尾に可愛ささえ感じてしまう。
「…うん、!」
「うんじゃわかんねェよ!」
「えー!」
「えーじゃねェ!お前は!?オレのことどォ思ってんの?」
「え?…えーっと……”そういう”スキ、…です」
「っ、」
自分で聞いといて恥ずかしそうに顔を逸らした荒北くんはずるいと思う。だけど、遠慮がちに少しずつ触れ合う指先は、寒い冬が春へ移ろうように少しずつ暖かさを帯びていった。