▲気まぐれな昼下がり


確信があったわけではないけれどなんとなくイルミゾルディックに気に入られている自覚はあった。
情報の売買を生業にしている私が共通の知人を通じて知り合ったのが数年前。
最初こそ必要最低限の事務的なやりとりしかしていなかったものの、気付けば世間話も増え、今では依頼や報酬の時に限らず、私生活で軽く食事をするくらいの仲になった。
ゾルディック家相手の仕事は勿論、S級の内容と金額が動く。かなりの上客であるのは間違いなのだけれど、接待感情ではなく彼の誠実な仕事対応には自然と好意を抱いていた。
恋愛対象かと言われればそこまで踏み込む勇気は私はない。なんてたって彼は暗殺者なのだ。普通に怖いよね。
とまぁ私としては顧客から友人くらいのランクアップをしていると思っている。
お世辞にも社交的とは云い難い彼も世間話や自身の家族の話などを情報屋の私にするくらいなのだから、
それなりの距離に私を置いているのだろう。そうでなければ余程抜けているのか。
はたまた実力に絶対的な自信がある故に、多少の情報などでは何の致命にもならないと思っているか。
・・彼の場合は後者だろうな。なんてったって実家が観光地の暗殺者なのだ。

さすが偉大なるゾルディック家。レベチだ。


「何考え込んでいるの?」

その声に顔をあげれば前述のイルミ本人がそこにいた。

「イルミって公園とか来るんだね。びっくり」
「来ないよ。通りを車で走ってたら、公園のベンチで間抜け面してる名前が見えたから来ただけ」

平日の真昼間に暇なの?と言う彼に笑みだけ返しながら、私は自分の隣に座るようにスペースを空ける。
イルミの何か言いたげな間はあったが答えずに先程近所のベーカリーで買ったタルトを一つ差し出せば、
大人しく隣に座りながらそれを受け取ってくれた。

「それ美味しいよ。エッグタルト」

ぱくりと彼が口に運んだのと同時にテイクアウトしたコーヒーも差し出す。
すると彼の眉間に分かりやすく皺が寄ったのが面白くて私はけらけらと笑った。

「どういうこと?」
「えー?なにがぁ?」
「とぼけないでよ。なんで2人分の飲み物があるわけ?俺が来るの分かってたの?」

分かっていた。というより彼がこの時間帯に向かいの道を通って帰るのが分かっていた。
わざわざ降りて私の所まで来るかは分からなかったけれど、待っている装いの方が都合がよかったからそう準備したのは間違いない。

今日この公園には仕事で来ていた。40分前に到着し依頼者に情報を渡し、
その10分後地元の有権者が不倫相手と公園を横切って歩いてくのを確認し、
ベーカリーの向かいのカフェで盗品の引渡しをしている古物商と顧客を把握し、
時計を見ればそろそろ時間かとそこのカフェでドリンクをテイクアウトして公園に戻る。
そして今は待ち合わせの彼と合流した様な顔で向かいの通りに停車中のタクシーへ乗り込む、武器商人の顔を確認している。
平日の真昼間だというのに忙しいものだ。

「来るかどうかは分からなかったけど、来たらいいなぁって」
「なにそれ馬鹿みたい」

視線をイルミに戻せば彼はじっと私を見つめて「他には?」と一言。
恩を着せるつもりはない。けれども先程言ったように私は彼に好感を抱いているのだ。
顧客としても、友人としても。

「今何時?」
「もうすぐ13時」
「イルミの車は?」
「今日執事はいないから近くに停めてるよ」
「今日は近くのパーキング空いてなかったでしょ?1階に空きテナントがある古いアパートの隣に停めたんじゃない?」
「・・どういうこと?」

私が答える前に公園の真ん中にある時計台が13時を知らせる鐘が鳴る。
すると同時に少し離れた所から響く爆発音と人々の喧騒。
穏やかな街が騒ぎ始め周囲が逃げ惑う中、私達は変わらずベンチに座り顔を見合っている。
きっと全てを察したのであろうイルミはちょっと、怒っているような呆れているような表情をしていた。

「あ、もしかして車に貴重品置いてた?」
「違うけど、知っていたなら事前に教えてくれればよかったのに」
「押し売りなんて品がないじゃない?」

ふふふと笑いながら私の分のコーヒーを啜る。
そもそもあの車に彼がそのまま乗っていたとしても、あの程度の爆発で死ぬような事は無かっただろう。
それでも少し試してみたくなったのだ。彼の私への好意と、自分の武器である情報がどれだけ運命ってやつを操作できるのか。
結果的に賭けに勝った。それだけで満足である。このコーヒーも美味い。いい発見をした。
次もあの店で買おう。なんて考えていると不意にイルミがぐいっとこちらに顔を寄せ、
私の手からゆっくりとコーヒーを取り上げると「それで」と続ける。

まるで逃がさないと言わんばかりに。

「あれ。誰がやったの?車に仕掛けられたって事はうちの執事?」

冷たく底の無い暗い瞳にぞくぞくとしながらも私は笑うのだ。

「知りたい?ここからは有料だよ」

抜け目がないなぁと彼も笑った。