「おかえり」
まるで自分の家のように寛ぎ、自分が家主かのように本当の家主へ挨拶を向けるこの男は、荒北靖友。
「カギ開いてたから締め忘れたかと思った」
「オレが侵入してました」
「侵入するのはいいけど、入った後カギは締めといてってば」
「へーへー。つか、どこ行ってたの」
側から見ればきっとこんなやりとりも、仲の良い恋人同士に映るんだろうな、なんて。実際のところはそんな綺麗な出来た関係などではなく、私は彼にとってただの都合の良い女である。
「1コマだけ、授業」
「なんでンナ効率悪そうな受け方してんだよ」
それは前回あなたが急に私を呼び出すものだから、授業よりあなたを優先してしまったからでしょ。なんて、言えるはずもなく。うっかり八兵衛ってやつ?とちゃらけて言うのが精一杯だった。
「てか今日は自転車行かないの?」
「行くけどその前にココ寄った」
それの意味、わかるよな?と目線が私に訴える。私は持っていたトートバッグを乱雑に床に置いて、荒北が我が物顔で陣取っているソファへ向かう。
「悪りィ顔」
「自己紹介されてんの?」
「あ?オレは優しいだろ。”欲しがり”なお前のためにここまで来てやったんだから」
誠に散々な扱いである。欲しがりなのは事実だけど、これではまるで私が呼びつけたみたいじゃない。
「本当はシャワー浴びたいんだけど」
「…ア?ダメに決まってんだろ」
何度かお願いしたこともあったが、許可が通ったことはないので期待してもいなかった。なんだって、”野生感があってこっちの方がいい”らしい。私としてはシャワー浴びたいし浴びて欲しいけど。
「んっ、…は、」
唇が重なって、衣服が剥がれていく。
「…何時?」
よっぽどケツがあるのか、時間を気にしているらしい荒北は時計を一瞥して、ニヤリと笑う。その笑顔が不敵で、ぞわりと背筋に電流が走る。私は追うようにして時計を見やるが、平均的にお昼休憩が終わった頃だろうか、14時をそろそろ針が指そうとしていた。
「これだけ被っとけ」
荒北は自分の着ていた白のTシャツを私に着せると、よいしょ、と立ち上がりベランダへ繋がる掃き出し窓に手をかける。
「っねえ!荒北!」
「おっきい声出すなよ。バレるだろ」
今朝干したタオルケットが私たちの体を隠すように揺らめいている。
「声、我慢しろよ」
そんなことを耳元で言うな、と反論したかったが、その刺激と下からねじ込む荒北のそれに私は声を我慢することに必死だった。両手で口を覆い体を反らせる様は、もし見られていたら勘付かれてしまうだろう。
「はっ、…いつもよりスゲエ」
荒北が支えるのようにして回している腕は、私を逃さない。ベランダの柵を掴み、疼く快楽に耐えることで必死だ。
「あ、っ…、」
「声出すなって」
コイツは私が耳弱いのもわかっていて、敢えてこういうことをしてきている。熟、悪い男に捕まってしまったものだ。
野良猫と日向ぼっこ
ベランダでくたばる私を抱えて室内へ戻った後も、この男は自分が満足いくまで好き放題してくれた。散々遊んで時間だからと帰って行く後ろ姿をただぼーっと眺めながら、私はアイツのどこに惚れたのかと後悔に身を沈める。アイツが残した赤い痕を指でなぞると、心がぎゅうと痺れた。