「手嶋ってさ、彼女いないの」
いつも一緒に居る子が休みだかなんだかで、今日の昼飯はオレ達と一緒にいてもいいかと合流した苗字は、いただきますと白飯を一口頬張ると、最初の質問を落とした。
「いないよ」
「そーなんだ。意外」
「意外?なんだ?オレってそんなにモテそう?」
「モテそうでしょ。顔かっこいいし」
急に飛び出た”かっこいい”という単語につい動悸がする。苗字はそんなオレの気もしらず、ねえ?と昼飯を共にする青八木にも同調を求めた。
「うんうんじゃねぇよ、茶化さないでくれ。本気にしたらどうするんだ?」
「いいじゃん。事実なんだから」
さっきと全く同じように、苗字は青八木にねえ?と同調を求め、また青八木もこくこくと頷いた。
「2人とも、オレをどうしたいんだ?」
「どうとかこうとかはないけど…ただの興味本位」
「でしょうね」
それにしても、と付けて話題を逸らすと、本当に興味本位だったらしく、対して深追いされるわけでもなく他愛のない話に変わり、昼休みが終わった。
時は過ぎ、放課後。昨日自主練し過ぎたせいで、少し休息を取った方が良いような心地がしていたので、練習後は無理をせず帰ることにした。部員におつかれ、と声をかけて部室を出た少し先に苗字の姿が見えたので、小走りで駆け寄って追いついた。
「苗字おつかれ、今帰りか?」
「おつかれ。手嶋も?」
「じゃあもう暗くなってきたし、送るよ」
「隣の家までね」
「なんだよ、」
「ものはいいようだなぁって」
「一緒に帰ろうって言って断られたら傷つくだろ」
「送るよ、なら断られてもいいんだ」
「それなら断りにくいだろ?」
なにそれ、と苗字は吹き出した。善意を断るってちょっと気遣うだろ、なんてたらたらと反論しつつ、自然と家路を共にする。
「それにしても、今日は苗字とよく会うな」
「不満?」
「いんや、どっちかっていうと逆」
「ほら、モテそう」
「まーた昼の話?」
不服そうに彼女を見やれば、彼女もまたオレを不服そうに見ていた。
「なんだよ」
「なんで彼女作らないのかなって」
「…まあ、自転車優先しちまうからな。しょうがねえよ」
「そうなんだ」
恨めしげな顔のまま、大して納得もしてなさそうな様子でやれやれとまた地面に視線を落とす。なんだよ、その態度。
「気に入らねえの?」
「気に入らないって言うか…フラれた気分」
「フラれたって…お前、」
「今日だって、たまたま会ったからたまたま”送って”くれたってわかってるけど、わかってるけど、私はちょっとだけそこに特別感も感じちゃう」
「苗字、」
「手嶋、優しさも時には人を傷つけるよ」
なんてね、と振り返った苗字は夕暮れに染まっていて、いつもと少し様子が違う。コイツは本当に、オレなんかを特別な目で見ているのだろうか。
「なんてね、じゃねえよ」
ざわざわと動き出したこの感情は、数分前に自分が言った”善意への気持ち”なのか、それとも。