東の青い花 2-1



食事を終え、夜---
月が雲の合間に姿を隠すのが窓から見える。アレクセイはカーテンを閉めると、ソファーに座るノエルを見遣った。
悩ましく美しい、ジュディスとはまた違った妖艶さを持つ彼女は、長い脚を組んで、紅茶を細い指に持ったティースプーンで掻き回す。夢にまで出てきそうな美しい魔女は、視線に気付くと長い睫毛をゆっくり瞬き、薄明かりの中でアレクセイを見た。


「・・・あなたの分も淹れたが、不要だったか?」

「いや、いただこう。」


ギルドの女性の中でも最年長となったノエルは、非常に落ち着いている。皆がいる間はそれなりに会話をしていたが、本来あまり口数が多くはないのか、部屋に入ってからは口を開く回数が少ない。暫く紅茶を含むだけの時間が続き、ややあって彼女から声をかけてきた。


「・・・あなたに迷惑をかけてまで、食事をしたいとは思っていない。」


魔女だという彼女は、人間のように食材を使った食事を必要とはしないらしい。代わりに体液を摂取することが食事になるようだ。唾液なら口付けが必要となり、女性の愛液でも構わないらしいが、やはり異性---男の精液が一番エネルギーになるのだと彼女は言った。


「・・・私はこの通りの外見だ。精液を摂取することに不自由したこともない。ここには読み書きが出来るようになるまでいなければならないから、夜だけ外に出してくれれば、あなたに迷惑をかけずに済む。」

「デュランの許可は下りないだろう。君が外に出ることも暫く控えるべきだが、奴には敵が多い。」

「・・・あなたが納得できるならいいが。」

「それよりも、ベッドは君が使うといい。私はソファーで休む。」

「部屋の主はあなただ。私がソファーで休む。これは譲らない。」

「・・・・・・。」

「睨まれても意思は変わらない。そもそも私のほうがあなたより身体が小さいのだから、そのほうが合理的だ。」


確かにソファーだとアレクセイは身体がはみ出てしまうため、横向きで休み、寝返りは打てない。背もたれが倒せるソファーを購入しなければならないなと思いながら、「・・・わかった。」と答えた。


「・・・そろそろ食事をしてもいいか?空腹なんだ。」


ぎし・・・、とソファーを軋ませながら立ち上がったノエルは、アレクセイの足元に座る。白い指が膝から腿へと滑り、アレクセイは苦渋に満ちた表情を浮かべた。


「・・・直接摂取しなければならないか?」

「出来れば。直接が無理なら、毎日くれればいい。」

「毎日・・・。」

「身体から離れるほど栄養は失われてしまう。・・・本当のところ、先程は人がいる手前頻度を少なく見積もった。口からなら、週に四回は欲しい。性交なら週に二度で済むが。」

「・・・・・・、・・・君は自分が若く美しい女性であることを自覚すべきだ。そんなことをみだりに口にして、何かあれば・・・。」


あまりの話に頭痛を覚えて眉間を押さえるが、ノエルは指を股間に触れさせる。「こら・・・!」と手を取ると、彼女は悪びれた様子もなくアレクセイを見上げて言った。


「私も人間だった頃はそう思っていた。愛した男とだけ繋がるのが当たり前だし、そうありたいと思った。そうして生きてきた。」

「・・・なら、なぜそれを続けない。」

「そうしなければ生きられない。人間も食材を使って栄養を摂取し、生きる。私にとってそれが精液なだけだ。」


真っ直ぐな、恥じらいも曇りもない眼差しに、アレクセイを言葉を詰まらせた。


「確かに真っ当な人間であるあなたからすれば、私はふしだらで、色欲にまみれたはしたない女に見えるだろうが、これが私の食事。食事をしなければ生き物は死ぬ。」


手を掴むアレクセイの手を引き寄せ、親指に歯を立てる。


「・・・私はまだ死ぬわけにはいかない。」

「・・・・・・、・・・倫理観の違いを押しつけてすまなかった。」

「構わない。あなたは真っ当なのだろう。・・・紳士的な男は好きだ。」


歯を立てた場所に赤い舌先を這わせる。流し目を送りながら「・・・食事を許すか?」と妖艶な魔女は尋ねた。


「・・・まさかこの歳になって、若い男のような真似をするとはな。」

「あなたは誰もいないのか?見目も良く、紳士的で好まれそうだが。」


身体から力を抜き、無言で許すと、ノエルはチャックを下ろして萎えた男根を取り出す。触れたそれに、彼女はうっとりと目を細めた。


「・・・美味しそう・・・。」

「噛み千切るのは勘弁してくれ。使う予定はないが、さすがになくなっては困る。」

「そんなもったいない真似はしない。」


真上に移動させ、口を開くと唾液を垂らす。淫靡な様に、アレクセイはさすがに僅かながら高揚した。
唾液を絡ませ、優しく指が動く。生理現象を処理することがなくはなかったが、昔よりはだいぶ回数は減っていて、最近では触れていなかった。それもあるが、やはり女の手は柔らかで心地好い。手の中ですっかり勃ち上がったそれに、ノエルはごくんと生唾を飲み込んだ。


「・・・すごい・・・。」

「・・・これで凄いか。デュランとイヴァンを見たら言葉を失うだろうな。」

「人のものに手は出さない。」

「デュランは独り身だぞ。」

「彼はジュディスと寝ている。」

「・・・な、に・・・!?」

「・・・気付いていなかったか?微かにジュディスの気配をまとっていた。あれは性交をしていなければ有り得ない。」

「あの男・・・っ、よくも知らぬ振りをして・・・」


これまでも怪しいと思い、随時探りは入れていたが、デュランダルはそんなわけないだろうの一点張り。あの男に自白させるなど現場を押さえない限り不可能であったが、まさか懸念が現実になっていたとは。
頭を抱えると、柔らかな唇が竿に触れた。


「・・・っ、」

「・・・放っておくべきだ。二人の問題なのだから。男女の仲に首を突っ込むものではない。」


それはデュランダルという男をまだよく知らないから言えることだと口にしようとするが、口内に含まれ、息を詰める。舌が絡み、かなり巧い・・・、と目を細めた。
さすが男の精がなければ生きられないだけあって、並みの手管ではない。見下ろすと、すっかり夢中になってしゃぶりつく顔があり、白い頬が紅潮している。だが長い金髪が落ちてくるのを時折鬱陶しそうに払っていて、アレクセイは両手でたっぷりとした柔らかな髪を掻き上げて、押さえてやった。とろりとした熱を湛える翠がアレクセイを見上げる。卑猥な光景に下腹部が痺れ、ノエル「ん・・・っ、」と声を上げた。
急に質量を増して上顎に当たってしまったらしい。すまなかったという意味を込めて頭を撫でると、再び愛撫が始まる。
薄暗い部屋の中に濡れた音が響き、やがてアレクセイは「・・・そろそろ出る。」と前置いた。いきなり射精をしては、すべて飲み込めないだろう。これは彼女にとって生きるために不可欠な食事。吐き出された白濁を受け止めた彼女は、複数回に分けて飲み下し、唇の端を伝ったそれを掬った。


「・・・本当に暫く処理していなかったんだな。私にはご馳走だったが。」


ぺろりと指についた精液まで赤い舌で舐め取ると、射精して萎えた男根に感謝するようにキスをする。「ご馳走、美味しかった。」と言われ、非常に複雑だったが、久しぶりの感覚に身体は軽かった。


「・・・・・・。」

「どうした?まさか足りないか?」

「いや、腹は満たされた。後は私の問題だから気にしなくていい。」

「君の問題?」

「濡れてしまっただけだ。」

「濡れ・・・、・・・・・・。」

「そこまで面倒をかけるつもりはない。」


すっと立ち上がると、部屋を出ようとする。「どこへ行くんだ?」と問うと、「風呂で処理をしてくる。」と淡々とした口調で返され、アレクセイは絶句した。