役者だけが間違い 1-4



ここを出ても行く宛はなく、さらに文字の読み書きが出来ないことがわかり、ノエルは渋々ではあるが、凛々の明星に世話になることにした。精液の摂取や寝泊まりなどは何とかなっても文字の読み書きが出来なければとても困る。デュランダルが教えてくれると言うため、その間だけは仕方がないと諦めた。


「君の部屋はどうしようか。アレクと同じ部屋のほうが都合がいいかな?」

「週に二度でいいなら、わざわざ部屋を同じにしなくてもいいだろう。婦女子と同室など有り得ん。」

「もらえるなら毎日だと有難いが。」

「・・・冗談を言わないでくれ。毎日出せと言うのか。」

「出せるだろう。・・・まさか勃起不全か?薬を処方してやるが。」

「誰が勃起不全だ・・・!」

「あっはっは!お前勃起不全なのか?俺より若いくせに可哀想に・・・、・・・っくく・・・!」

「あんた笑いすぎだよ・・・。つうかあんたはいつまで元気なんだよ・・・。」

「・・・あなたは、今いくつなんだ?アレクセイとレイヴンより若く見えるが・・・。」

「俺は46だよ。」

「よんじゅ・・・、・・・まさか。こんな四十代後半がいてたまるか・・・。」

「わかる!わかるよ、その気持ち!もっと言ってやって!」

「すまないね、美しくて。」

「・・・反論できん。」


難しい顔つきでデュランダルを見つめる。見れば見るほど同じ歳くらいにしか見えないが、そういえば娘のイルーチェもいる。イルーチェはどう見ても二十代だし、それを思えば四十代なのは間違いないが。


「そういや、あんたはいくつなんだ?」

「30だ。」

「わあ、お姉さんだ!」

「わたくしよりもお姉さんだわ。」

「・・・はしゃぐようなことか?」

「私にとってはリリさんもお姉さんだけど、ノエルさんみたいなかっこいい系じゃないし。」

「わたくしはギルドの女の中では最年長でしたし、お姉さまは初めてです。」

「良かったじゃないか、お前達。」


にこにこと楽しそうなデュランダルに、いったい何がいいのやら、と思う。というよりも、なぜこうも簡単に懐くのかが分からない。


「・・・それにしても、ノエルさんの服ってえっちだね。おっぱいでっかくないとただの怪我人だよ。」

「どうなっているの?構造は。」

「布を巻き付けてローブを羽織るだけだ。隙間から好きなように露出できる。」

「それってつまり・・・、着衣セックスし放題・・・!」

「なんだ、その夢みてえなエロ服・・・!」

「へえ、夢。」

「違う。俺じゃなくて一般な?世の中の一般的な男がそうだって話だって。」

「へえ、ふうん、ああそう。」

「下着はつけているんですか?」


気になったのか、凛々がむにゅんと胸に触れる。男達は目を丸めて美人と美女が戯れる姿を見つめた。


「あ、しているんですね。」

「・・・まあ形が崩れるのは嫌だからな。」

「大きいですね・・・。」

「・・・これアレクセイさんが触るんだ・・・。」

「---は?」


皆の目が一斉に向き、アレクセイは紅茶を飲もうとしていた手を止める。ぱちぱちと目を瞬き、アレクセイは「何を馬鹿な・・・!」と否定した。


「精液を与えるだけだろう。なぜ触れる必要がある。」

「え?セックスして中出しするんじゃないの?」

「精液を出して渡せばいいだけの話だ。いったい何を考えている。」

「そんなつまらない話があるか。まったくお前はつまらない。」

「なぜお前を楽しませなければならんのだ・・・!」

「これだけ美しくて悩ましい女性が精液を欲しているのだから、応えるのが男だろう?」

「お前のような絶倫精力魔神と一緒にするな。」

「ノエルさんはそれでいいの?」


イルーチェが問うと、ノエルはすらりとした脚を組み、「・・・もらえる以上、文句を言う気はないが・・・。」と悩ましく肩を揺すった。


「直接摂取したほうが美味いからな。」

「・・・あんなクソマズイもんが美味い?」

「人にもよるがな。規則正しい生活をしている人間、或いは童貞の精液は美味い。あと・・・、」


軽やかに立ち上がったノエルは、ソファーに座るアレクセイの膝に跨がり、肩や胸に触れ、「・・・うん。」と感触を確かめた。


「・・・やはり君は美味しそうだ。」

「え、えろ・・・っ!」

「兄さんて美味そうなんだ・・・。さすが兄さん・・・!」

「何がさすがなのよ。」


今回ばかりはリタに激しく同意しながら、膝に跨がっているノエルをひょいと横に座らせる。


「婦女子が男に跨がるものではない。」

「さすが兄弟ね。あんたと言ってること同じじゃない。」

「兄さん、かっこいい・・・。」

「だいたい、ノエルは若い女性だ。己をもっと大切にしなさい。」

「だから精液を摂取したいのだが。」

「・・・そうかもしれんが・・・。」

「普通の女なら君の言う通りだろうが、私は情欲を司る悪魔の徴を持つ魔女だ。よりよいものを求めるし、よりよい方法で摂取したい。君達の食事と同じなんだが。」

「・・・その話は後にしてくれないか。弟と首領の前でふしだらな会話はしたくない。」


むっつりと顔を背けるアレクセイから、イヴァンとカロルに目を向ける。確かに兄弟や子どもの前で進んでする話ではない。ノエルは目を伏せると、「・・・すまなかった。」と静かに謝った。


「配慮が足りなかった。」

「理解してもらえたならいい。約束は守る。話は後で聞こう。」

「ああ。」

「なんか、かっこいい・・・。大人って感じ。」

「・・・歳を重ねれば誰でも落ち着いてくる。」

「そうそう。そんなもんだってぇ〜。」

「先生は黙っててもらえますか。」

「なんで!?」


その、なんで!?にすべて表れているだろうと綺麗に無視し、ノエルの横に座る。じいっと美しい顔を見つめると、「・・・なんだ?」と翠が向いた。


「みんなの同位体はそっくりなのに、なんで私達は似てないのかなあって。リリさんとノエルさんは大人で美人なのに、私は童顔だし子どもっぽいもん。」

「まあ、イルーチェ。あなたは可愛いわ。優しくて明るくて、とってもいい子よ。」

「ええ。あなたは可愛いわ。」

「だって先生は美人で大人っぽいほうが好きだし・・・。」

「おや、お前は世界一可愛い俺の天使に不満があると?」

「へっ?いや、好みと好きな子は違うし、そもそもルーチェちゃん好みだし・・・。」


あわあわと狼狽えるレイヴンから、むにむにと己の頬をつまむイルーチェへと目を移す。そしてノエルは、そっとその手を外させた。


「・・・それが許される間は、そのままでいいさ。」

「え?」

「守られ、愛されるうちは、有り難く受けとるのが正しい。・・・人は否が応にも、大人になり、守る側になるのだから。」

「・・・ノエルさん・・・?」

「親の務めを奪ってやるな。君を守ることで、強くなれる者がいる。急いで大人になられては、寂しいだろう。」


そう言われ、イルーチェが思わずデュランダルを見ると、彼は複雑そうに微笑んでいて、ぴょんとソファーから飛び降りると父の元へ向かう。そして両手を伸ばすと、「お父さん、抱っこして。」と照れくさそうに笑った。


「・・・おいで。」


華奢な娘の身体を難なく受け止めると、それを見ていたイヴァンがちらりとアレクセイを見遣る。視線に気付いたアレクセイは、「・・・お前もしてやろうか?」とからかうように言うと、イヴァンは「い、いいよ、恥ずかしい・・・!」と頬を赤らめてそっぽを向いた。


「遠慮することはない。いつまでもお前は私の可愛い弟だ。」

「俺もう大人だし・・・。」

「ふふ、そうか。」


優しい手つきでイヴァンを撫でてやるアレクセイを見ながら、ノエルはそっと目を伏せた。