1.5


エレベーターで発見した子供を病院に預けて1週間後。
目を覚ましたという報告が入った。

「無花果様、こちらが例の子供の診断となります。」

部下より病院から届いた検査結果を受けとり、中身を確認する。

「ほう...面白い。」

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"平均的な5〜7歳児とみられる。バイタルは安定。CTスキャンによる脳検査には異常無し。"

"単純な質問、一般常識のテストを実施。全てに落ち着いて回答し、中学レベルの計算問題も正解する等、思考レベルは高い。ただ「体が縮んだ」という虚言的発言もあり。"

"ヒプノシスマイクによる音波検査を実施。対象にはヒプノシスマイクの音波数、周波数の影響を受けない特殊な体質の可能性が高い。原因は不明。身体的構造か、精神的構造か、更なる検査が必要。"

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検査結果を確認しながら、拾えたことは思わぬ幸運だったと無花果は嗤う。


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"ヒプノシスマイク"

武力を放棄し、女性が主権を握る現代社会で、男性が所持できる攻撃的な道具の一つである。
H歴において、ヒプノシスマイクは男性社会のストレスや強者を排するための道具であれば、女性社会の娯楽を果たすための道具でもある。
華やかなエンターテイメントとして、ヒプノシスマイクを持った代表者によるライブパフォーマンスを中王区が開催し人気を博しているが、特殊な音波は時に女性に対する犯罪に使用される事がある。
もちろん、そんな行為を行えば重罪として裁かれるが、各ディヴィジョンの全てを監視することは不可能に近く、案件数が減ることはない。

また、公式的に許可されていない数や威力のヒプノシスマイクを作る者まで現れている。
政府で定めている規定により、ヒプノシスマイクはその数や威力を制限するように決められている。
しかし鼠のようにしぶとい生命力を持つ反抗的な勢力は、いくら取り締まりを強化しても違法マイクを作り、拡散していく。

鼠算式に増える違法マイクに対抗するには、"女性がヒプノシスマイクの影響を受けない道具"を中王区が作り上げる必要があるのだ。

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「私は...私は、××都の会社員です!ここじゃない、家に帰りたい、だけなんです...!」

目が覚めた対象に会うべく、予定を切り上げて中王区の総合病院に向かった。
そこで出会った少女ーー宇佐見ひよりは、見るからに弱っていた。
検査や見知らぬ土地に誰にも信じてもらえない環境。
精神的に追いつめられたからか、特徴的な瑠璃色の瞳は陰り、目の下には隈ができていた。

先に確認していたひよりの所持品を確認していたため、彼女の言い分も理解することができた。

嘘は言ってない。

"宇佐見ひより"の名前を中王区にある戸籍管理データベースで調べさせたが、同姓同名は存在しなかった。
ただのドッキリや狂言にしては出来すぎている。

それに、
ここは彼女を信じると伝え、信頼を得た方が良い。

無花果は、彼女の言葉を信じる、と告げ、頭を撫でる。
泣き始めたひよりからは、欲しかったものを目の前にしたかのような、恍惚とした女性の表情は見えることは無かった。


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感情が爆発したのか暫く泣きわめいたひよりは、安心したかのような表情で眠りについた。

部屋の外に控えさせていた部下にひよりを抱えさせ、医師にこのまま連れて行く事を告げた。
中王区の総合病院は政府御用達の病院であるためか、何かと融通がきく。

仕事用に手配された黒塗りの車の後部座席に乗り込む。

「今日の■■■ディヴィジョン、ライブパフォーマンスは?」「"The Dirty Dawg"と"■■■■■"となります。」
「そうか、ではその会場に向かえ。」
「承知しました。」

送迎担当の部下に指示を出した無花果は、スマートフォンで目的の相手に電話をかける。

《.......》
「....勘解由小路無花果だ。貴様に預けたい物がある。ライブ後もそこにいろ。わかったな?」
《...!...?......》
「用はそれだけだ、切る。」

相手の返答を待つことなく、無花果は通話を切り、同じ後部座席に乗せていたひよりの髪を撫でる。

預ける相手は性別こそ男だが、中王区でも評価は高く、責任は果たすだろう。
何より、ヒプノシスマイクの影響を間近で調べられる良い機会でもある。

その特殊な力はこの中王区ため、使わせてもらう。

「精々足掻け、宇佐見ひより」
 


【中王区の支配者は恍惚の表情で慰める】
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