政府職員とはじめちゃん
・捏造のオンパレード
・「政府職員と肥前」と世界観は一緒
・政府での名は竜胆
・FGO ×とうらぶネタ
歴史を遡り、過去を変えよう。
そんな主義が生まれたのは、何時だったのか。
────小さい頃から視えてはならないモノが視えていた私は、五歳のある日、時間遡行軍の短刀に襲われた。
その時にたまたまそこに来ていた班長と彼の護衛刀であるみっちゃんに助けられ、私は生きている。
何でも私は霊力が多いらしく、現世で護衛もなく生きるのは難しいそうだ。
その頃は病弱と思われていたのも、単に身体を巡る霊力が多過ぎて、常にオーバーヒートしている状態だったとか。
顔も覚えていない両親は、頭を下げて私を政府に渡したらしい。
「じゃあ竜胆、今日はお前の護衛刀を鍛刀するぞ」
『はい』
それから十年。
私は班長に鍛えられ、時の政府の神事部、霊具製造課に属する書字班として働いている。
政府に設置された鍛刀部屋の中央、真っ白な台の置かれた場所を中心に、墨で刻まれた陣を前に正座する。
指先を膝の上で揃え、柏手を一つ。
澄んだ音が空気を浄化すると、台の後方にある炉からぴょこんと何かが飛び出した。
近付いてきた、小さな刀鍛冶を模した式神に依頼札を渡す。一つ頷いた彼は陣の中央まで戻ると、煙の様に消えた。
一礼をし、柏手を二つ。
『祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、幸え給え』
祝詞を唱え、穢れを祓う。
これで準備は終わった。
さぁ鍛刀の祝詞を唱えるかと居住まいを正した所で
────ばちり、と。
『え』
……起動していない召喚陣が、青白い光を帯びて回っていた。
「光忠!どうなってる!!」
「りんちゃんはまだ鍛刀してない筈だ!つまりこれは────」
後方で見守ってくれていた班長とみっちゃんの声が聞こえた。
後ろに鎮座する炉に炎は灯っていない。
本来は、炉に炎が灯され、そこに依頼札を持った刀鍛冶の式神が素材を持ち込む事で、鍛刀が始まる筈だ。
召喚陣は謂わば、降ろした刀剣男士が契約を結ぶまでに審神者を害そうとした場合の、緊急措置にのみ使うもの。
だから、本来はコレが動く筈がないのだ。
炉は輝かぬまま、陣にのたうつ光は瞬く間に蛇の様に太くなり、うねっていった。
風が生まれる。光はどんどんと勢いを増してゆく。目を開けているのも辛くなる程に。
依頼札が青白い炎で焼き払われるのが、微かに見えた。
軈て、目を開けていられない程に光を放つ召喚陣。
膨張し、膨らみきった光は────遂に轟音と共に弾けた。
こつり、と硬いものがぶつかる音がする。
恐る恐る目を開けると、目を潰さんばかりの輝きは消えていた。
その代わりにもうもうと煙が立ち込めている。
微かに見えるシルエットはどう考えても人で、思わず直ぐ傍まで来ていた班長とみっちゃんを見た。
「……勝手に顕現してんな…」
「…いざとなったら僕が出るよ。りんちゃんは前に出ない様に」
『うん』
鍛刀の儀式は、刀鍛冶が台の上に日本刀を安置する事で完了となる。
それを励起するのが審神者で、彼等を顕現させ、契約を結ぶ事で主従関係が締結するのだ。
…それなのに、目の前の誰かは炉を通しての鍛刀でもなく、おまけに顕現までしている。
確実に特殊事案に入ってしまった。これ後で降霊部から呼び出し食らうのでは…?うっわめんどくさ…
思わず遠い目をしていると、視界を遮っていた煙がどんどんと晴れていった。
まず見えたのは、綺麗に磨き上げられた革靴だった。
次いで、裏地と差し色に鮮やかなオレンジを使った黒のコートが目を引く。
ゆるりと視線を上げた先、不言色の隈がくっきりと浮かぶ双眸と目が合った。
『っ』
左手に灼ける様な痛みが走る。
見れば、手の甲に狼と刀の様な模様が浮かび上がっていた。
「りんちゃん、それは…」
薄くなった白煙の中、短く整えられた、青にも灰にも見える髪がさらりと揺れる。
不言色の目は、何故か私を捉えた瞬間から大きく開かれていた
「…おっと、そう来たかぁ。
うーん…まぁそうだよな。お前にしかこの俺は喚べねぇし。
業腹だが…人の数が多いだけ、前よりマシって感じか?」
ぽそりと呟かれた言葉は要領を得ない。
しかしそれは此方に聞かせるつもりのない言葉だったのだろう、彼はへらりと笑ってみせた
「新選組三番隊隊長、斎藤一だ。親愛を込めて一ちゃんとでも呼んでくれ。
あ、そうそう、僕ってば堅苦しいの苦手だから、そんな感じでよろしく」
『…さいとう?』
「そう」
『…さいとう、はじめ?』
「うん。一ちゃんって呼んでね♡」
『………Oh…』
……刀では、ない???
硬直した私を尻目に、班長が扉までダッシュした
「すみませーんうちのひよっこがやらかしましたー!!!!!」
────魔術師。
魔術師とはこの世の根源とやらを目指すもの、らしい。
何代も何代も時を重ね、魔術回路と呼ばれる魔力の通り道を移植したり、魔力の多い相手を選んで子を成したりして、術の歴史を厚くしていくのだとか。魔力は此方で言う霊力と考えて良いそうだ。
そして根源に至るには聖杯……強大な魔力を宿したものを得るという方法が一般的で。
それを奪い合う聖杯戦争なるものを行う為に、サーヴァントを喚び出して戦わせるのだとか。
「サーヴァントを喚び出して戦わせるって言っても、そこに命の保障なんてないからね。
闇討ち裏切り当たり前。サーヴァントとマスターが仲間割れしてリタイアなんて、良くある話なのよ」
『え、殺し合いするって事…?』
「そ。因みに喚び出されるサーヴァントは七騎。
根源に至るには、脱落したサーヴァントの魂を解き放った時に開く穴を使うってメディアの姉さんから聞いたけど…まぁそれも酷い話でさ」
にいっと、大きな口が三日月を描いた
「願いを叶えてくれる願望器って触れ込みでサーヴァントを喚び寄せる癖に、必要な生贄の数は七なんだ。
────つまり、魔術師は最初からサーヴァントの願いを叶えるつもりなんかないんだよ。
そういうのが一般的な魔術師。
聖杯戦争に勝つ為なら一般人をサーヴァントの餌にしたり、非人道的な手段も平気で取るのが、魔術師っていう外道さ」
そこまで言って、彼は指抜きグローブを嵌めた手をひらりと動かした
「マスターちゃん、此処まではお判り?」
『…魔術師はやばい』
「正解。じゃあ次はサーヴァントね。
サーヴァントっていうのは、神話の主人公から歴史の偉人まで、名の知れた魂を魔術師が用意した型に押し込んだ使い魔だ。
セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七クラスが基本で、聖杯戦争にはこの中のどれか一つに当て嵌められて参加する事が多い。
一応他のクラスもあるけど、ややこしいからまた今度ね。
因みに僕はセイバー。一応最優って言われるクラスなのよ?」
『斎藤さ「一ちゃんって呼んで」…はじめちゃんは強いの?』
「強いよ。まぁ神秘とかって観点で見ると、僕なんかは大分薄いのかもだけど。対魔力低いしねぇ」
『対魔力…?』
「一工程…簡単な呪文の魔術なら跳ね返せるけど、それ以上は普通に当たるって感じ。
まぁサーヴァント自体が人間なんて一捻りな存在だし、現代の魔術師の攻撃が当たった程度で、神秘の密度的に痛手にはならないけど」
『サーヴァント同士で当たった時に大変って事?』
「そうそう。まぁ魔術メインで戦闘を組み立てるのは大体キャスターだし、ひたすら躱して間合いに入れちゃえば此方のモンだけどね」
神秘とは存在の強度そのもの。故に純粋に古いものが強いそうだ。
そういう点で言うと、斎…はじめちゃんは近代の存在となる為、神話の存在なんかと比べるとぺらっぺら、らしい
「まぁ僕の時代は、神秘だの魔術だのってのは無かったしねぇ。
そんなモン捏ねくり回す暇があんなら人斬ってろって話でしょ」
『おおう、流石幕末…』
取り敢えず話しましょうか、と何故かめちゃくちゃ落ち着いているはじめちゃんに言われ、私達は降霊部の部長室に転がり込んでいた。
因みに部屋の主は机に齧り付いて頭を抱えている。
何でも特殊事案が出たのはウン百年振りだそうで、書類だの他の部署との連絡だのが大変なのだとか。
班長とみっちゃんも彼の手伝いをしている為、部屋には居ない。
何かあったら直ぐに動くつもりらしい部長のへし切長谷部は、主の傍で此方に目を光らせている
「ただ、僕なんかは日本で喚ばれりゃ強くなるのも確か。
サーヴァントってのは知名度で存在を強化してる面もあるから、喚び出す土地とか聖遺物とかって大事なんだよね」
『聖遺物?』
「聖杯戦争ってのは、聖杯が資格あるものを七人選ぶらしいんだけどね。
選ばれた魔術師が自分でサーヴァントを喚ぶのに、カタログなんてものはないの。
だから何の準備もなく喚べば、完全に相性召喚。謂わばガチャってワケ。
それでマイナー英霊喚ぶくらいなら、有名な場所で知名度世界級のサーヴァント引きたいでしょ?
聖遺物はその為の触媒さ。ほら、あんたらもあるでしょ?特定の刀剣の鍛刀キャンペーンってのと、それを降ろしやすくする札ってヤツ」
『ああ、富士とか梅とか?』
「そうそう。
ま、確定召喚したからって、そのサーヴァントと性格の相性が良いとも限んないし、只でさえサーヴァントは魔力食いだ。強ければ強い程魔力を食う。
サーヴァントの維持だけでもそれなりに魔力を消費するし、宝具なんか撃てばゴッソリ魔力を持っていくから、並の魔術師じゃあ一瞬で干物の出来上がりってね。
だから自分の実力と、それに見合ったサーヴァントを喚んだ方が維持的には安定したりするよ」
『宝具?』
「僕らの情報の核…逸話の象徴ってヤツ。この人と言ったらこれ!みたいな?
うーん…僕って判りにくいんだよな……ああ、アーサー王が判りやすいかな?エクスカリバーってあんでしょ?」
『アーサー王伝説の?』
「そうそれ。アーサー王の宝具はね、魔力込めたアレを思いっきり振り下ろすの。振り上げたりもするっけ?
もうさ、すっごいのよ。城とかブッ壊すよアレ。剣からビーム出るから」
『剣からビーム…???』
え、サーヴァントやばいな…?
幾ら此方が神様に力を借りているとはいえ、流石に刀からビームを出す刀剣男士は居ない。
文字通り、次元が違う。
────もしかして、サーヴァントの方が刀剣男士より強いのでは。
過った疑問を口にするべきか迷っていると、指抜きグローブに包まれた手が湯呑みを掴んだ
「まぁ、サーヴァントは聖杯から知識を得るから、喚び出された時代や大まかな状況なんかは説明して貰わずとも理解してるんだけど。
でもやっぱりね……剣からビームは理解出来なかったよね…」
英霊でも理解出来なかったのか、剣からビーム…
向かいに座ったはじめちゃんは、一通りの説明を終えたのか浅く息を吐いた。
そうか、聖杯から知識を得ているから此方の仕組みに詳しいのか。そうじゃなきゃ鍛刀キャンペーンとか知ってる筈がないし。
…あれ、今気付いたのだけれど。
はじめちゃんを喚べたって事はつまり────聖杯戦争に、私が選ばれたという事になるのでは?
表情が強張った事に気付かれたのだろう、はじめちゃんがゆるりと口角を上げた
「なぁに?何か不安な事でもあった?」
これ、言って良いのだろうか。
でも聞かないといけない事だし…聞かずに強制参加とか嫌過ぎるし…
躊躇する私を見て、はじめちゃんは柔らかく目を細めた
「良いよ、何でも聞きな。
僕はマスターちゃんの質問に怒ったりしないし、嘘も吐かない。
何も心配する事なんて、ないんだよ」
…優しい声と表情に、気付けばするりと言葉が零れていた
『…私も聖杯戦争に参加しないといけないの?』
ぶっちゃけそんな血腥い戦いに望む程の願いなんかないし、そもそも聖杯戦争自体が胡散臭い。
折角来てくれたはじめちゃんには申し訳ないが、戦いに出たくないと暗に臭わせると、彼は不言色の双眸を瞬かせた。
それから今気付いたとばかりに、へらへらと笑ってみせる
「だぁいじょぶだいじょぶ。この召喚は聖杯によるものだけど、聖杯戦争とは関係無いから。
あんたが喚んだから僕が来た。理由としちゃあそんなモンよ」
『……そうなんだ、良かった』
ほっと息を吐く。
只でさえ歴史修正主義者と戦争中だというのに、個人的な戦争なんて冗談じゃない。
湯呑みを手に取った私を見ながら、はじめちゃんはそういえば、と指を向けた。
その先には、私の左手。
紅い刻印に、切れ長の双眸が向けられている
「ソイツは令呪って言って、膨大な魔力を溜め込んだリソースの塊だ。
純粋な強化アイテムであると同時に、サーヴァントへの絶対命令権でもある」
『絶対命令権?』
伸ばされてきた手が、湯呑みを置いた手の甲に触れる。私より体温の高くて硬い指先が、静かに狼と刀をなぞった
「言ったでしょ、マスターとサーヴァントの性格の不一致。
サーヴァントってのは基本マスターより強い。自走する核弾頭って言やあ判りやすい?僕らってそんなモンなのよ。
…もしそんなバケモノが、自分の命を獲りに来た時────マスターの抵抗手段は、何だと思う?」
『…令呪を使った拘束?』
「その答えじゃ三角かな。覚悟決めた奴はそんなモンじゃ止まらない。
……簡単な話さ。コイツはね────」
冷や汗が頬を伝う。
目の前の男が、うっそりと嗤った
「自害を命じる為の、起爆スイッチさ」
息を呑んだ。
視線を上げるのが怖くて、硬い指先が狼をなぞるのをただ見つめる事しか出来ない。
「コイツに魔力を通して自害しろ、セイバーって言やぁ良い。
そうすれば、僕は鋒を自分の霊核…心臓に向けるから。
只し、使う時には慎重にな?
もしも僕の納得出来ねぇ理由でソイツを使うなら────俺は令呪にどうやってでも抗うからよ」
『』
自害は死んでも言わない。
そう誓った瞬間だった。
もうドスの効いた声だけで恐ろしくて、視線なんか上げられない。多分見たらトラウマになる。冷や汗止まんないし。
暫くの間縮こまったままでいると、ぽんと頭に大きな手が乗せられた。そのままよしよしと撫でられる。
恐る恐る視線を上げると、バツの悪そうな笑みを浮かべるはじめちゃんが居た
「あー…済まんね。脅し過ぎたわ。
令呪に逆らいはすれど、マスターちゃんに危害は加えないよ。
僕はね、あんたの剣で居ると決めてんの。だからその僕に切腹を命じるなら、正当な理由をくれってワケ」
『……なんでそれを普通に言わなかった…?』
「いやー、マスターちゃんの反応が面白くてつい」
『最低じゃんコイツ…』
睨み付けると、へらへらと笑ってはじめちゃんは私の手を包んだ。
次の瞬間、不言色が深みを帯びた
「けど、お前を護りたいって想いは本当だ。
…なぁマスター、もう一度俺と生きてくれ。俺を傍に置き、お前の敵を俺に斬らせてくれ」
もう一度。
その言葉と、節々に感じる私の事を理解している感じ。そして私の中にある、懐かしさと既視感。
…もしかしなくても、前世とかで私は魔術師で、この人をサーヴァントにしていたんだろうか。つまり私は人でなしだった…?
そんな荒唐無稽な事を思いつつ、そっと問い掛ける
『……私なんかで良いの?』
前の私は知らないが、今の私は自分の霊力の多さに振り回されるだけの、新米の政府職員だ。
余裕も何もないこんな小娘で良いのか。
問えば、一瞬で表情が抜け落ちた
「おいコラ俺の大事なマスターを貶すのはたとえお前でも許さんが???」
『あっ(察し)』
こいつアレだな?実は面倒臭い男だな???
しかもアレだ、最初はお前なんか信用しませんって顔してる癖に、気付いたら沼みたいな感情向けてくるタイプ。
あーーーーーーーめんどくさい…でも逃げ道がない…
そもそも激重感情さえなければ優良物件…か?
いやいや待て待て、特殊事案な時点で優良じゃないわな?
目の前の男は、目が一切笑っていない笑顔で此方を見ている。
あーーーーーーー逃げたい。なんだこの確定沼。浸かりたくない。でも喚んだ時点で手遅れ感が凄い。
初っ端から沼がフルスロットル。
……うん、逃げられないし諦めよう!
深く深く溜め息を吐き、改めて整った顔立ちの男と向き合った
『私は朝早く起きるのが苦手だし、人見知りだし、色んな点で未熟で、霊力を上手く制御出来なくてしょっちゅう具合悪いけど。
……それでも良いなら、私の剣になって』
私の放った言葉を噛み締める様に、はじめちゃんは目を閉じた。
ゆっくりと、目蓋を持ち上げる。
柔らかな、お前が大事なのだと言わなくとも判る程に甘い表情を浮かべると、左手を翳した。
そこに青白い光が現れ、細長い何かを象ったと思えば解けていく。
光が散った後に残されたのは、一振の打刀だった。
それを立てる様に握ると、鯉口を切る。
冷めた輝きが、鞘の中から此方を覗いていた
「この命尽きるまで、お前を護ると俺の誠に誓おう」
大きくもないのに通る、低く深い声。
キン、と澄んだ音が部屋に響く。
月の様な瞳が、ゆるりと眇められた
「俺の剣は無敵の剣。
此より無敵の剣は、今一度お前のものだ。好きに使え」
『急に真面目な顔する…』
あんまりな落差に目を細めると、真剣な空気は一瞬で霧散した
「そりゃあね、僕ぁ真面目ですし?
てか僕程真面目な奴もそう居ないでしょ?」
へらりと笑って顔の傍で両手を挙げてみせた男に、思わず呟いてしまった
『まったく、ヘラヘラ新選組が…』
自分の声を耳にした所で、首を傾げる。
…これ、誰かが言ってて、その通りだなって思った気がする言葉だ。
「────、」
そんな私を見つめ、何処か嬉しそうな顔をしているはじめちゃんには気付かなかった
『鬼神丸ちゃん、私ちょっと出るね』
護衛刀とは、文字通り護衛に当たる刀剣男士を指す。
一ヶ月前に私が臨んだ鍛刀は、見事に特殊事案に該当してしまった。
ただ召喚した斎藤一は私に服従の意思を示し、謀反の可能性無しとして退去は免れた。
それは良い。しかし此処で色々と問題が生じる。
第一に名前。
それからはじめちゃんを人として書字班所属にするか、護衛刀登録するかである。
全国に斎藤さんは多いだろう。一さんもまぁ少なくはないと思う。
ただ斎藤一という名前な上に、二刀流で大立ち回りをしてしまえば、どうやったって一般人じゃなくなってしまう。
幾ら世に戦闘系審神者という言葉があるとはいえ、極の刀剣男士より強い審神者は居ない。
霊力で身体強化した所で、人間は人外には勝てないのだから。
だがしかし────はじめちゃんは手合わせで、極99のみっちゃんを倒してしまった。
因みに、はじめちゃんはレベル120金フォウマ足跡マ宝具マアペンドフル開放の冠位持ち、らしい。なんだその呪文は。マが渋滞している。
本人曰く「一ちゃんってばパフェだからさぁ、何時も以上に無敵なのよぉ」……パフェ???
判らない…あのヘラヘラ新選組、わざと煙に巻いて、私が困惑しているのを楽しんでいる様に思える。
…手合わせとは言え、極カンストを倒せる様な存在は間違っても人間ではない。
なので登録は私の護衛刀として行う事が決まった。
次に名前。
ただこれはあっさりしていた様に思う。
刀として動いて貰うのだから、本名は勿論アウト。
ならどうするかと言えば、それは彼の佩く刀が重要になる。
長脇差は無銘だったが、打刀の方には銘があった。
それが鬼神丸国重。えらく強そうな銘である。
まぁ斎藤一といえば鬼神丸国重か。孫六を佩いていたという話も聞いた事はあるが、彼が今帯刀しているのは鬼神丸国重である。
という訳で、外でのはじめちゃんは鬼神丸さんになった。
偽名となってしまうが良いのかと訊ねると、「偽名?あー全然良いよ。慣れてるし。僕も生きてる内に結構改名したし、間諜の時なんか名前五個くらいあったしねぇ」との事。私の護衛刀は順応力がすごい。
「何処行くのマスターちゃん」
『暦班まで書類持ってってくる』
「はぁいはい、僕もお供しますよ、と」
『ありがと。…竜胆、暦班まで行ってきまーす』
「はーい」
「鬼神丸さん、竜胆ちゃんの事よろしくねー」
「はいよー。鬼神丸ちゃんにお任せあれってね」
へらへら笑うはじめちゃんを連れて、書字班執務室を出る。
書類数枚を手に歩く私の傍にぴったりと付くはじめちゃんは、然り気無く周囲を警戒していた。
今日は銀のフレームの眼鏡を掛けたスーツスタイルである。
白いラインが入ったネクタイまで締めているから、パッと見は完全に現代人だ。
…ただ腰で交差させた日本刀がどうしてもアウトだけれど
『…そんなに警戒しなくても良さそうなのに』
「要人警護は油断したモン負けなのよ。
いやー、刀ってラクね。マスターちゃんの事だけ考えて歩けば良いんだし」
『どーせ色々考えてる癖に』
「そりゃあ護衛刀ですし?逃走経路とかは見ちゃうよね。あとは……やたら此方を見てくる奴、とか?」
すっと私を隠す様に動きながら、向かいに鋭い視線を投げる。
男の人は心無し顔を青くして、早足で立ち去っていった。
『…鬼神丸ちゃんが珍しくて見てたのかな』
「いんや、今のはマスターちゃんを見てたね。
マスターちゃんもうちょっと自覚持ちな?あんた可愛いのよ」
『うっわタラシ発言どーも。安心して、自分の顔くらい知ってる』
黒の皮手袋に包まれた手が近付いてくる。指の背がさらりと頬を撫でた。
「なぁんでそんなにひねくれてるかね…あんたはこんなに可愛いのに」
その瞬間、向かいを歩いていたお姉さんが顔を覆った。お兄さんも静かに俯いている
判る。判るよ皆さん。
コイツ、自分のツラの良さ全然判ってないよね
『おいタラシ、無闇に周りの皆さんに魅了掛けるんじゃないよ』
「ええー、そりゃ言い掛かりじゃね…?
つーかマスターちゃんが自分の可愛さに気付いてくれれば、僕はそれで良いんだけどなぁ」
『お世辞どーもね。毎朝鏡は見てるのでご心配なく』
「んのひねくれっ娘め…なぁんで鬼神丸ちゃんの言葉を信じてくれないかなぁ。
僕あんたに嘘吐いた事なんかないでしょ?」
その言葉に思わず目を細めた。
視界の端でゆらゆらと揺れる菫青の組紐を、指先で摘まむ。
はじめちゃんの左腕に結んだ、蝶々結びの中央に桜の彫りが入った銀板を誂えた組紐。
これは所謂、特例刀剣男士の印だ。
ぶっちゃけ霊力の塊であるはじめちゃんは、人間に擬態出来ない。本人の性格上、人間のフリはやろうと思えば出来るだろうが、霊力のある人には普通にバレる。つまり審神者には秒で人じゃないと気付かれる。
まぁ政府職員は私達の様な特殊な部署でもない限り、霊力を持たない人も多い。
だからあまり派手に動かず、認識阻害の札を使えば人間という体でいけるかもしれない。ただし人間という事にすれば、無駄に良い顔と声とスタイルの所為で要らん争いを起こしかねない。
悲しいかな、政府職員は出会いが少ないので、女性が大変積極的なのである。
そういう心配もあって刀に扮する事に決まった訳だが、今度は未顕現の刀剣男士という別の厄ネタが誕生した。
刀剣男士の顕現とは、降霊課の上役が刀剣男士の本霊と掛け合い、許可を得て初めて審神者達まで降ろせるもの。
はじめちゃんも、本来なら座という場所に居る本霊から分霊として派遣されるらしいのだが、目の前の彼の契約は特殊なもので、座は関係ないらしい。
刀剣男士の分霊と似た部分はあれど、はじめちゃんは刀ではないので、勿論何処かの本丸に顕現する事はない。
ただ、何の目印もなければ、所謂レア度に目が眩んだ人間が手を出して────はじめちゃんに殺されかねない。
この場合ははじめちゃんに悪さ(強奪)ではなく、はじめちゃんが悪さ(殺人)する方の心配をする事になるのである。だって彼は飄々としてはいるが、幕末の人斬りだ。恐らく自分に害を為す者を斬る事に躊躇いはない。
そして万が一そうなれば、はじめちゃんも私も処分を免れないだろう。
ほんと…なんであっち向いてもこっち向いても問題だらけなのか…
摘まんだ組紐を指先に絡ませながら、整った顔を見上げた
『あのね、あんたは私贔屓でしょ。
私の事大好きな人からしたら、大好きフィルターで私が可愛く見えて当たり前でしょうが』
「えっ」
傍目から見ても判りやすい程びくっと肩が震えた。
ちらりと見上げた先、はじめちゃんが一人で百面相している。
…え、まさかこの人、私にバレてないと思ってた…?
『……貴方が私に激重感情抱いてるのは薄々察してますけど』
「いや激重では」
『前世から追い掛けてきてる時点で重いが?』
「うっ」
黒い手で鼻から下を覆い隠すも遅すぎる。
というか目許が赤いので、両手で顔を覆った方が良かったのでは。…ああ、こんなになっても周りを警戒しているから、目を隠す訳にはいかないのか。
真面目さに笑いつつ、スーツに包まれた腕にこつんと頭をぶつけた
『良いよ、別に。
私って危機感ないとか良く班長に言われるからさ、それだけ重たい方が良い重りになりそう。
だから、私が飛んでいかない様にちゃんと掴んでてね』
「……物好きめ」
『ふふ。鬼神丸ちゃん照れてる?』
「照れてません〜。鬼神丸ちゃんってばこう見えて、結構な遊び人よ?
……オイコラ微笑ましいものを見る目を向けんじゃないよ。違ぇ、照れてねぇから!!ほんとに!!!」
『……んっふ』
「あーもういっそ笑えや!!堪えきれてねぇんだよ!!!」
笑いを堪えるのがしんどくなって、私はついに笑ってしまった。
素が出ているはじめちゃんは赤くなったり舌打ちしたり、がしがしと短い髪を掻いたりと忙しない。
見た目は二十代くらいの落ち着いた大人の男の人に見えるのに、冷静さを欠いたその姿は可愛く見えた。
『はは、鬼神丸ちゃんって実は可愛い人?』
「こんなナリの男に言う言葉じゃねぇだろうよ…もー…マスターちゃん、そろそろ僕をからかうのおしまいね。
鬼神丸ちゃんってばお仕事中だからさぁ、楽しそうなマスターちゃんなら何時までも見てられるけど、流石に他所様にお邪魔するのにこのザマじゃ情けないと思うワケ」
『私も仕事中なんだよね。勝手に墓穴掘って照れたのはどっかのヘラヘラ男だし』
「ははは、知らねー」
ぱっと掌を外すと、はじめちゃんは何時もの軽薄な笑みを浮かべていた。成程、切り替えが早い。
一瞬で無表情なお仕事モードになったはじめちゃんを見て、正面に顔を戻す。
話をしているとあっという間に着いた暦班の扉を叩く。
そういえば静かだなと思って周りを見渡すと、あちこちで立ち止まっている人を見掛けた。
…ああ、はじめちゃんの照れ顔にやられた人達か。
やっぱりこの男は罪作り。
頷く私を、はじめちゃんが呆れた様な顔で見ていたのは知らない
夢追い人
刹那(政府での名は竜胆)→時の政府で働き始めたひよっこ。
霊力が多すぎてしょっちゅうオーバーヒートを起こす為、護身刀を鍛刀する事になった。
鍛刀したつもりがサーヴァントを召喚する羽目に。
斎藤の事を最初から大分信頼している。前世の記憶はない。
霊力が多いのは、魂に聖杯を抱え込んでいるから。
つまりは前世の生まれの所為。
オーバーヒートの理由は、燃費の悪いサーヴァントを召喚してやっと普通に過ごせるくらいの霊力を、聖杯に日々体内で勝手に精製されているから。勿論本人は知らない。
因みにどうやったって魂と聖杯を引き剥がせないので、輪廻転生する度に魔力過多か霊力過多によるオーバーヒートを起こすし、どっかの壬生狼は着いてきている
斎藤一→召喚の気配を感じて飛び出た人。
前世で自分を召喚したマスターに無敵の剣を捧げ、彼女の為に生きた。パーフェクト強化済み斎藤一。
マスターを穏やかな世界に帰す為、何でもするし実際何でもした。
その為、星4サーヴァントとは到底言えない霊基の密度になった。実質維持だけで星5の燃費の悪いサーヴァント並みに魔力を消費している。本来ならば低燃費。
度重なる魔改造により、彼の霊基は酷く歪んでいる。
聖杯から離れたとしても、きっと座には還れない。
彼女の聖杯にくっついているので、幾ら輪廻を巡ろうがこいつは必ず着いてくる。愛が重い。
班長→刹那を現世で見出だし、部下にした人。
ひよっこが特殊事案を引き起こした為駆け回った
みっちゃん→班長の護身刀。
極カンストのやべぇ奴。
特殊能力として人の因果が糸として視える為、最初から刹那に巻き付くドス黒い糸が視えていた
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