転生マスターとグランドセイバーはじめちゃん2
・捏造オンパレード
・後半グロ注意








「いや────いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、私、こんな所で死にたくない!」


赤い地球儀に、華奢な体躯が引き寄せられていく。


「だってまだ褒められてない…!
誰も、私を認めてくれていないじゃない……!」


シルクハットを被った男が、にんまりと嗤っている


「どうして!?どうしてこんなコトばっかりなの!?
誰も私を評価してくれなかった!皆私を嫌っていた !!」


動けない。
筋肉質な腕にキツく抱き込まれたまま。
私は護られたままで、彼女を見ている


「やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや!!
だってまだ何もしていない!
生まれてからずっと、ただの一度も────誰にも認めて貰えなかったのに!!!」


彼女の爪先が、赤色の球体に触れて。
超高密度の情報量に呑まれていったオルガマリー所長を呆然と見つめていると、不意に景色が切り替わった。


夜。
遠くから車が走る音と、喧騒が聞こえる。
横断歩道を前に、並ぶ人々。
街は何処も、赤くない。


私には覚えはない。けれど、懐かしい。そして、覚えがある。
それは、つまり────


『……死んだ私の、記憶?』


…ああ、そうだ。
何時も通勤に此処を通っていた。
それなりに人気もあって、監視カメラもある大きな交差点。
そこに私は独りで、佇んでいた。
こつ、こつ、とヒールの音が聞こえて、振り返る。


────“私”が、歩いていた。


低めのパンプスで、パンツスタイルのスーツを身に纏った姿は、正しくあの頃のもの。
信号待ちで立ち止まると、私の隣に並んだ“私”は鞄からスマホを取り出した。
そっと手を伸ばすが、私の手は彼女の肩をすり抜けた。


どうやら、私は誰にも見えていないし触れないらしい。


…これがあの時と同じなら、開いているのはFGOだ。
朝開いて林檎を作って、休憩時間と帰りに一つずつ林檎を作って。
帰宅するまで、どうにかAPが満タンにならない様にやりくりしていた筈。
信号が変わって、スマホを鞄に仕舞う。


……ああ、アプリは開けたままだったっけ。


水着霊基のはじめちゃんが映るホーム画面が鞄に放り込まれるのを眺め、彼女の後ろを付いていく。
大通りを抜け、街灯の灯りが落ちる道路を進む。
彼女は何時も通り、家路を進んでいた。
直線を100m、それから左折して50m。
そこが、“私”の住んでいたマンションへの道。
我が家が見えてきた所で“私”は鞄を漁る。
鍵を内ポケットから引っ張り出し、そこで何故かはじめちゃんと目が合った。


『あれ?どっかぶつかった…?』


自動消灯が掛かる前に、スマホに鞄の中で何かがぶつかったのか。
そう思って首を傾げた彼女の背後に、人影。


『うっ』


ざく、と中身の詰まったものを突き刺す様な音。
私をすり抜けたソイツは、真っ直ぐに“私”に近付いて、背後から左腰の辺りを突き刺した。
振り向いた“私”の首を、引き抜かれたナイフが掻き切る。
冗談みたいに噴き出す血を、“私”はぼんやりと見つめていた。


…ああ、うん。
そうだった。何が何だか、判らなかったんだっけ。


背中から崩れる様に倒れた“私”の上に、男が跨がった。両手で握ったナイフが、高く掲げられた。
街灯の灯りを反射した刃が、血を纏いながらぎらりと光る。
フードを被った黒ずくめの男の顔を見てみるが、覚えはない。
ただ、ぶつぶつと呟く中には愛の言葉の様なものが散見されて、普通に気味が悪かった


『うわー、私悪質なストーカーに殺された感じ…?』


うん、知りたくなかったなコレ。
…良かった、前世の“私”を切り離して考える事が出来る質で。冷静に、俯瞰で物事を捉えよとは白露の教えである。今ほど魔術師で良かったと思った事はない。
そうじゃなきゃ、普通に発狂モノである


…そういえば。
此処から先は、私も知らないな。
多分、もう死んでるし。


ふと見ると、道路に落ちた鞄から、スマホが転がり出ていた。
そこにはやっぱりはじめちゃんが居て、私はそっと、透明な手で彼に目隠しをした


「────んな事する余裕あんなら、とっとと俺を喚びやがれ!!!」


……瞬間、怒号と共に、ずぱん、と何かを断つ音が響いた。次いで、ごろりと重いものが道路に落ちる音が追い掛けてくる。
聞こえる筈のない声に顔を上げると、黒いコートを纏った男が眉を吊り上げ立っていて。
さっきの音は、彼の手の日本刀が吼えた声だったらしい。フードの男の首が道路に転がっていた。
血が滴る前に、首のない身体を力任せに蹴って“私”の上から退かすと、彼は酷く顔を歪めた。
傍に膝を付くと、指ぬきグローブに包まれた手が“私”の目蓋をそっと下ろさせる。
数秒静かに目を閉じて、立ち上がった彼は生首を、身体と同じ様に遠くに蹴っ飛ばし、此方に近付いてきた。


『……はじめちゃん』


「…ああ。お前のはじめちゃんだ」


ぎゅっと、大きな身体に包まれる。
まるで何かから護る様に抱き込まれ、然れども縋る様に首筋を擽る短い髪に、私は小さく笑った


『大丈夫だよ、はじめちゃん』


「ごめん、ごめんなマスター。間に合わなかった」


『私の夢なんだから、間に合わないのは当たり前でしょ』


「俺、知ってたのに。
奴がお前を殺すって、知ってたのに。この後も全部、知ってたのに。
お前が俺に触れるまで、また何も出来なかった…!!」


────やっぱり、見ていたのか。
首許で震える声に、申し訳ない気分になった。
だってあの時私がアプリを開かなければ、きっとこんな場面を、はじめちゃんに見せなくて済んだのに。


『嫌なもの見せちゃって、ごめんね』


「謝んな!!お前は何も悪くねぇ!!悪いのはあのクソ野郎だろうが!!!」


『…うん。でもほら、私がアプリ開かなければ、はじめちゃんもあんなの見なくて済んだからさ』


確か、彼方にはモニターみたいな感じで私が表示されていたんだっけ。
それなら他のサーヴァントも今のを見たのだろうか。…うん、嫌だな。
そっと背中を擦れば、更にキツく両腕に力が籠る。


「俺は…っ!…っ俺だけが、お前の最期を見届ける事が出来て良かったと思ってるよ。


ただ、それでも……っお前は、今死ぬ必要なんてなかった…!!


軍人でも何でもないお前には、佳い奴を見付けて長生きして、良い人生だったって、布団で笑って終わって欲しかったんだ…っ!!!!」


血を吐く様な慟哭を受け止めながら、彼の腕の中で目を閉じる。


────前世の私は、親とあまり上手くいっていなかった。


顔なんかもう何年も合わせていなかったし、ネットツールによる連絡もなし。
正直、私が死んだ事に気付くかどうかも微妙な所で。
職場の人とも表面上の関係しかなく。親しい人間というものは、存在しなかった。
…そんな私だからこそ。
背骨が折れそうな程、私の死を悼んでくれる人が居たのだと。
こうして知る事が出来て、彼と出会う事が出来て、良かったと思うのだ。


『……私の為に泣いてくれて、ありがとう』


…あ、背骨がミシミシ言ってる。腕とかそろそろ骨が折れそう。
そういやコイツ筋力B…いや下手したら日本で喚んでるしステータスアップしてる可能性……身体強化しとこ。















『………………』


「………………」


『目覚めの一番で人の頸動脈に指先を添えてる真顔のイケメンを見た心境を十文字で答えよ』


「おはようはじめちゃん、でしょ?」


『物騒なクソゴリラ、が正解だわバカタレ』


「女の子がクソとか言うんじゃありません」


『もがっ』


へらりと笑みを浮かべている癖に、人の頬を潰す手には容赦がない。
手を外そうにもぜんっぜん動かない。両手で指を引っ張っているにも関わらず。なにコイツ、やっぱゴリラでは???


『んーんんんんんんんんんん』


「誰がアーツクリティカルゴリラだじゃじゃ馬」


えっ、怖…綺麗に聞き取るじゃん怖…
無言で引いた目を向ければ、笑顔の癖にいらっとしているのが良く判る顔をしてきた。
なんだコイツ、笑顔の種類多いな。そしてかわいい。
手が外れた所で骨格の確認をしていれば、頭頂部に何かが触れた。
目の前は近すぎてぼやける肌色。
すう、と吸われたので、多分鼻先を髪に突っ込んでいる。いや、何してんのコイツ…地肌嗅がれるとか普通に嫌なんだが…


「……刹那、生きてる」


ぽつり、と何処か幼さを滲ませた声が落ちてきて、押し退ける手を止めた。


……ああ、さっきの夢に居たもんね、はじめちゃん。そっかぁ、夢の共有しちゃったかぁ。


サーヴァントは夢を見ない。
ただパスを通じて、マスターの見る夢を共有する場合がある。若しくは、サーヴァントの生前の記憶を夢としてマスターが共有する事もあるそうだ。
今回は前者だ。私の夢に、はじめちゃんが巻き込まれた。
手を伸ばし、そっと背中を擦る。
背中に回った腕がきゅっと力を込めてきて、只でさえない距離はゼロになった


「………生きてる」


『うん。生きてるよ』


「…うん」


それきり黙ってしまった彼の背を、ぽんぽんと叩く


『今日はどうしようか。シュミレーションで暴れる?』


「……うん」


『じゃあそうしようか。ブリーフィングの後、午後は暇だから、そこで行こうね』


「……ごめんね、気を遣わせちゃって」


吐息が前髪をもそもそと揺らしてきて擽ったい。
それに笑いながら、ぎゅうっと広い背中を抱き締めた


『良いんじゃない?ずーっと張り詰めてて、いざって時にへろへろじゃ困るでしょ。
だから私の前でへにゃへにゃになるのは、マスターちゃんとしては大歓迎ってワケ』


冬木で言ってくれた言葉を真似てみれば、直ぐに気付いたんだろう彼は小さく笑った


「ははっ……敵わねぇわ、ほんと」


ぎゅうっと脚まで使って絡み付いてくると、はじめちゃんは此方を覗き込んできた。
とろりと蕩けた不言色で、何処か夢見心地な表情で、彼は囁く


「好き。大好きだよ刹那。
愛してるから、俺を使って何処までも生き延びてね。
どれだけ無様でも、みっともなくても、死なないで。死ぬな。死ぬのは赦さねぇ。
足掻け。藻掻け。指一本で良いから動かせ。


────お前が生きたいと願う限り、俺は絶対に折れねぇから。
お前がたとえ何処に居ても、絶対に駆け付けるから。


……勿論、逃げたいって言葉は何時でも言って良いよ。俺はお前の赦しをずぅっと待ってるから。
だって、約束したもんな?お前から言ってくれるって」


あっっっっっっっっっま…
なんだそのとろっとろの声…耳が孕む…そのくせ言ってくる事は馬鹿みたいに重い…誰が三重に愛を重ねろと言った…そして誰が愛の言葉の後に脅迫しろと言った…甘重いって何この責め苦…


『告白してんの…?それとも脅されてんの…?』


思わず呻けば、はじめちゃんはからからと笑った


「お好きな様に取って貰って結構ですよ?
赦して貰えるなら、今から抱きたいですけど」


『結構です…』


「ありゃ、残念。
それなら暫くはお利口な犬のフリでもしますかね」


あ、これ本気だったな。
へらりと笑う姿に調子が出てきた様だと安堵しつつ、ぺしりと胸を叩く


『今日はブリーフィングあるって言ってんでしょうが』


そう言った瞬間、はじめちゃんが固まった。
何だと問う前に、薄い唇が動く


「それって………予定なきゃ赦してくれた感じ?」


『えっ』


ちょっと待て、なんか誤解された。
きょと、と目を瞬かせたはじめちゃんは、それからにんまりと笑った。
不言色の双眸をゆうっくりと細め、色を匂わせたそれは完全に、獲物を前にした雄の表情で。
鼻先が触れ合う程顔を寄せると、低い声で囁いた


「大人しく待てするからよ────今夜たぁっぷり甘やかしてくれや、ご主人サマ?」


『…………墓穴ぅ…』


あっこれ逃げらんないヤツだ。
私は両手で顔を覆った。


















「はいはいはいっとぉ!!!!」


シュミレータールームというのは、壁に設置されたパネルを弄るだけで、その設定の環境を投影してくれる便利な部屋だ。
ブリーフィングを終えた私達は、早速シュミレータールームに来ていた。
因みに大暴れのゴリラは、今朝の凹みが何処に消えたのかという程絶好調である。
その掛け声、確かクイックじゃなかったか。
駆け抜けながら全部斬り捨てる辺り、最早通り魔なんだが。
凄まじい速度でエネミーの隙間を縫う様に駆け抜け切り裂く黒い影に、思わず溜め息を溢した私は悪くない。


「マスターちゃん!バーサーカー追加で!」


『はーいアーチャーねー』


「オイコラ間違ってますけど???
何で僕の弱点突くの???」


『機嫌が良すぎて腹が立ってる』


「理不尽〜」


へらりと笑ってそう言ったかと思えば、はじめちゃんは一瞬でそれを引っ込めた。
ゆぅるりと目を細め────あの時の表情で、くすりと笑ってみせる


「────ご褒美をちらつかせたのはお前だろ?
責任取って食わせろや」


『………………』


「…あは、顔真っ赤だねぇマスターちゃん?今日はもう切り上げて、ゆっくりするかい?
…ま、休ませてやれねぇと思うがな」


あまりにも煽られ過ぎて腹が立ったので、無言でパネルを操作してやった


「オイコラマスター!!!!
アーチャーとバーサーカーの混合はあんまりじゃねぇかなぁ!?」


『黙って戦え色ボケゴリラ!!!!』


「んっのじゃじゃ馬ぜってー泣かす!!!」


……あれ?これ私がどんどん自分の首絞めてない?

















マイルームとして与えられているこの部屋は、私の工房だ。
部屋の中には私の許可がない者が入った瞬間、四肢を切断し、それを灰にする為の梵字をぎっちりと壁に刻んである。
四肢を使えなくした後に、死なない様に捕獲する魔術も仕込んであるので、敵を捕まえる罠は完璧なのだ。


『この部屋ね、私の許可なく入ったら手足切って灰にする魔術仕込んであるの』


「急に怖い事言い出したなこの娘」


『動きを封じた相手を拘束する魔術まで刻んではあるけどさ、はじめちゃんそれだけじゃ安心出来ないでしょ?
なんか仕込んで欲しい罠とかある?』


「…どんなのでもいける感じ?」


『大体は』


夜、ベッドの上で押し倒してきたゴリラの手を取っ捕まえ、話題を提供する。
現実的な話題であったからか、はじめちゃんは手を止め、真剣に悩みだした。
…因みに逃げ出せない。逃げようとしたら、多分この話題もぶん投げて即本番になりそうなので。


「んー…魔術師なら部屋に入った瞬間に、魔力が使えない様にするとか?
後はサーヴァント対策に、入った瞬間体内の魔力が外に流れ出す様にするとか。
あ、これ魔術師にも有効か。体内から魔力がなくなりゃ只人と変わんないよね?それで首折れば死ぬでしょ?」


『思ったよりエグい提案来ちゃったな…』


「後は入った瞬間にスタンとか魅了とか、ああいう系のデバフ掛けられたら一番良いよね。動けなくなるヤツ。
ふん縛って情報吐かすならさ、無傷の方がやり易いし」


『うわぁ…』


流石新選組、拷問はお手の物なんだろうか。
ドン引く私ににっこりと笑って、はじめちゃんは手に力を込めてきた。
けれど私の拘束を解くでもなく、軽く力を込めて、慌てて押さえる私を見て楽しんでいる


「さぁて、覚悟は決まった?」


重ねあった手をにぎにぎして、嬉しそうな顔で聞いてくるコイツはきっと悪魔。
体温が上がっているから、きっと顔は赤い。
それすらも隠せないまま、固まっている私をじいっと見つめているはじめちゃんは、軈て小さく笑った


「…はは、おぼこいねぇ。もしかして、初めてかい?」


『う…』


図星である。
前世では男という生き物は直ぐに暴力を振るうと思って距離を取っていたし、今生は女と見れば胎盤扱いしてくる奴しか周りに居なかった所為で、取り敢えず魔術で捩じ伏せていた。
お陰で当主になったが、影で氷の女と呼ばれているのは知っている。
はじめちゃんは意外だねぇ、と呟いた


「あんたはこんなに可愛いのに。手を出そうって男は居なかったんだ?」


『…魔術師の男はね、女と見れば胎盤扱いしてくるんだよね』


「あ゙???」


『なので魔術で黙らせてたら、女当主になりました』


簡潔に現状への経緯を伝えると、一瞬物凄くガラの悪かったはじめちゃんは、次にぽかんとした顔になった。
それから、耐えきれないといった様に噴き出す


「っははは!何それ最高!!さっすが僕のマスターちゃん!!」


『魔術師なんてそんなもんよ。特に女は自分で自分を護らなきゃだし』


お陰で罠を張るのは大得意である。
一頻り笑ったはじめちゃんは、目尻に浮かんだ涙を払いながら、私を見つめた


「つまり、今の刹那ちゃんは誰にも触られた事ないんだ?」


『そうですね』


「…前世は?」


『言わせんなよ周りは皆敵だったよ殺すぞ』


「あーはいはい、奇跡釣り上げちゃったな僕。流石幸運EXになっただけあるわ」


本来なら幸運Aである筈のはじめちゃんは、全てのステータスに変動があるらしい。まだ見てないが。
本人曰く、只でさえ高い幸運は何故かA+ではなくEX。
いや人が世界を越えた喪女っつー話をしてる時に幸運のランク出すな呪うぞ


「そっか、そっかぁ……うーん、じゃあこれはあんまりにも勿体ねぇよなぁ」


失礼な男は人を押し倒したまま、良く判らない事を呟いている。なんだなんだ、気が変わったなら退いてくれ。
暫くそうしたかと思えば、考えが纏まったのか、はじめちゃんはにっこりと笑った


「刹那ちゃん、僕はご褒美の貰い方を変えようと思います」


『何それ…更にヤバい事にする気じゃないだろうな…』


「あっはは信用ねぇ〜。だぁいじょぶだいじょぶ、寧ろお互い得しますよっと」


上機嫌に言うと、はじめちゃんは目を細めた。
私の手をきゅっきゅと柔く握りながら、甘い声で囁いてくる


「刹那ちゃんの処女、今日は貰わない。
その代わり、口吸いさせて」


『………はっ、?』


言われた事が理解出来ず、固まった。
そんな私のを見下ろして、はじめちゃんは小首を傾げた。あざといなコイツ…


「あ、判んなかった?現代で言うとキスってヤツね。口付けとか接吻とかさ」


『アッハイ判ります判るますから羅列やめて』


「……あは、かぁわいいねぇ。言葉だけで照れてんだ?」


ついさっきまで可愛い仕草をしていた癖に、にいっと歪んだ表情は雄のそれ。
目を合わせていられなくて逸らせば、頬を両手で挟まれた


「逸らすな。俺だけ見てろ」


低い声で命令され、心臓がぎゅんとする。
あーこの低い声と真面目な顔ダメなんだって…!!
普段のヘラヘラとのギャップに弱いんだって…!!
最早キャパを超えてしまって涙が出てきた。
そんな私に目を細め、はじめちゃんが顔を近付けてくる。
あの、まっ、ひえっ、


「…かぁいいなぁ。照れて泣いちまったか」


『ひえ……なななな、なめ』


「ん。お前の涙は甘いな」


『ひっ』


ぺろ、と濡れたものに目尻を触られたと思えば、反対の目尻にはちゅう、と吸い付かれた。
かちんこちんになってしまった私の頭を優しく撫でて、はじめちゃんはとても楽しそうに笑っている。
瞳孔を開いた、狼みたいな顔で


「こりゃあ楽しみだ。良いねぇ、喰い応えがある」


何が何だか判らないまま、私は笑うはじめちゃんを見上げていた
















「……あれ、じゃあ君まだ処女なのかい?私はてっきり彼を召喚したその日に頂かれたかと」


『アヴァロン!!!!!!!!!』


「あら、私も同じ事を思ってましたが」


「玉藻!!!!!!!!!」


「マスターちゃん声でっかwwwwwwwwww」


後日、私の部屋で照れた私の大声と、はじめちゃんの笑い声が響いていた。
とんでもない事を平然と宣ったのはレディ・アヴァロンと玉藻前。


私のカルデアから来た、レベル100のアーツサポーターである。


────三日前。


「今日は君達にサーヴァントの召喚をして貰おうと思う」


ダヴィンチちゃんが、召喚システム・フェイトの前でそう言った。
その隣に立ったドクターが、タブレットに目を落としつつ説明を引き継ぐ


「マシュの円卓の盾を使えば、サーヴァントが集う事が可能な筈なんだ。
白露くんも召喚システム・フェイトを経由すれば、複数サーヴァントとの契約が可能になる」


『そういえば、私の令呪ってどうなるんです?
三回限りだと、正直不安しかないんですけど。
召喚術式組んだ時に挙がった理論って適応されます?』


私の令呪ははじめちゃんと契約した際に現れたものだ。故に通常の聖杯戦争に於ける契約の様式であるならば、用途が大分限られてくる。
一応は召喚システム・フェイトの術式理論の組み立てに参加しているが、実際に令呪の機能が上書きされるかは判らない。
理論通り、藤丸くんの様に一日で三画回復するブーストアイテムに変わったら良いのだが。


「召喚システム・フェイトを経由した契約を行えば、君の令呪の機能も藤丸くんと同じ様になる筈だ。
勿論斎藤くん以外のサーヴァントが全て座に還れば、令呪の機能も最初のものに戻るだろう」


『了解しました。…セイバー、異論は?』


「ありませんって。頭数が増えれば、取れる作戦も増えますしね」


へらりと笑ったはじめちゃんを伴って壁際まで移動し、召喚サークルに近付く藤丸くんとマシュを見る。
ワクワクした表情で聖晶石をゴロゴロとサークルに転がしたのを見て、思わず手を合わせた


『頼むから麻婆祭りは止めてあげて下さい…あれは心が折れます…』


「ははは、マスターちゃんが悲鳴上げんの面白かったなぁ。あの黄色い鳥の玩具みたいで」


『おい今マスターの事シャウティングチキンって言った??????』


「あっはっはっは」


腹が立ったので薄い頬を引っ張ってやった。
くっそ、この楽しそうなの腹立つ…しかもこれ、私にストレスとかが掛かってなくて安心してるって系統の感情なのが目を見るだけで判っちゃってもう、ほんとコイツ…私がやりやすい様に腰曲げてくるのほんっっとコイツ……
思わず手で顔を覆った。元凶はヘラヘラしている


『優しい目やめて…斎藤一は隠しきれない剣呑さがデフォでしょうが…』


「あんれま、一ちゃんってば人当たりが良い新選組って有名なのに」


『嘘じゃん……知ってんだぞあんたすーぐ人の地雷踏んでブチギレさせるって…
坂本さん居る前で無宿の鉄蔵ネタは地雷でしょうよ…』


「あれはほら、あっちが先に喧嘩売ってきたし。人斬り以蔵の方が、壬生狼なんぞ信用出来んとかって散々煽って来たじゃない」


『私はノンデリ斎藤と学ばない岡田って呼んでた』


「何その売れない芸人コンビ」


『そっからガンギマリサイコパス(ガチ)に進化したよね。
マスター以外への対応がさ…冷酷でメンタルガンギマリじゃんか…誰が本人確認の為に“お前が俺らにバラバラにされて以来だね、元気してたか?”(直訳)とか言うのよ…元気な訳があるか…元気だったらアヴェンジャーやってないでしょ…』


「いや元気にアヴェンジャーやってたじゃないの」


『どっちにしろ初手暴言は止めて…藤堂キレてたじゃん…』


油小路事件とは恩師の遺体を放置して罠とし、奪還しに来た標的を殺したという随分な案件である。
尚標的の遺体はバラバラだったそうな。
因みにはじめちゃんはスパイとして潜入していたとか。…うん、そりゃあんなにチクチクやられるわ


「え、マスターちゃん以外に気を遣う必要ある…?しかも敵に…?」


『曇りなき眼で聞くな。藤堂って元仲間だったでしょ…』


「あっちから殺気向けてきたのに…???」


『やべぇポムポムプリンみたいな顔するじゃんコイツ』


きょとんとした顔をするな。小首を傾げるな、ポムポムプリンの帽子と耳が見えるから。それはあんたのコラボ相手だよ。
どうしてこう、相手の出方を見る為とはいえキレッキレの暴言吐くんだろうコイツ。
最初はノンデリかと思ったけど、恐らく違う。
斎藤一という人物を知っていくにつれ、相手の痛い所をわざと突いて、隙が生まれるのを待っていたんだろうと思う様になった。
ただその突き方がちょんちょんとかじゃなく、初手で袈裟斬りかますレベルでヤバイってだけで。
諦めて視線を戻せば、召喚サークルに虹色の輝きが集っていた


『お、星5だ』


「へぇ、引き良いねあの子」


『ただなぁ、初期の星5ってぶっちゃけ持て余すのよ…コスト面で』


「あー…」


『お金も資材もスキル素材も足りないから、基本レベルは上げきれないし。やっぱり低レベルでも、星の数で強さはある程度出ちゃうし。
星5を無理に入れるより、星4の回避か無敵自バフ持ちアーツ単体宝具の方が、立ち回りとして、は……』


…………いや今私、何言った????
反射でびたんっと音がする程強く掌を口に叩き付けた。そろりと視線のみを隣に動かした。


────にまにまにまにま。


『死ねば良いのに…』


赤くなって震える私をわざわざ腰を折って覗き込みながら、奴は笑みを隠す事なく口を開いた


「へ〜ぇ、何よマスターちゃ〜ん。そ〜んなに一ちゃんの事好きならもっと沢山言いなってぇ。クールなのも良いけど、一ちゃんたまにはマスターちゃんから甘えられたいなぁ?」


『ほんとやだこの浮かれぼっち…』


「いやぼっちなのはお前の所為。僕以外殆ど新選組喚べないお前の所為」


『真顔でオーバーキルするじゃん…沖田オルタははじめちゃんが邪魔したじゃん…』


「ごめんね〜僕がマスターちゃん好きすぎるばっかりに」


『腹立つ…』


「両想いじゃない照れるなよ」


『マジで腹立つノンデリ斎藤…』


藤丸くんが召喚したのはアルジュナだった。わー、一生うちに来なかった最初期から居る恒常星5…
うちのインドラ様には可哀想な事したなぁ、すり抜けて来るのカルナばっかりだったし…


『そこのセイバー、笑うな。震えてんぞ』


「いやぁ、マスターちゃんって大概二人組を片方しか喚べてないなってwwwwwwwww」


『呪うぞ』


「やべぇポムポムプリンみたいな顔するじゃんwwwwwwww」


『呪ってやるわ対魔力D』


「ざんね〜ん、一ちゃんってば対魔力Bで〜す。いやぁマスターちゃんの素質と知名度補正って凄いのね?僕魔術なんてからっきしなのに、なんか妙にランク上がっちゃってんの」


『えっっっっっっ』


思わずはじめちゃんに持たせていたタブレットを使い、霊基の確認をする。
筋力A+、耐久B-、敏捷A、魔力C、幸運EX、宝具B……いや誰のステータス?
明らかに近代のサーヴァントのものじゃなくなっているのだが。いやこれ神秘が近い時代のサーヴァントじゃん…何これ高水準…
おまけにクラススキルは対魔力Bと単独行動B-、おまけに騎乗Cが追加されていた。
なんだこの盛り盛りのステータス。これじゃあ幕末にドラゴンが出てしまう…


「うーわ、なんかステータス凄い事なってんね。騎乗付いたの何で?」


『騎乗のCランクは正しい調教、調整がなされたものであれば、万全に乗りこなせる。野獣ランクの獣は乗りこなす事が出来ないってヤツなんだけど……幕末に獣乗り回してたの…???』


「人と馬と犬なら良く見たけどねぇ。まぁ貰えただけ儲けもんだな。他のステータスも上がってるし、実際前より身体のキレが良いんだよね」


『セイバーとライダーにはお馴染みのクラススキルだしね』


藤丸くんの召喚は順調な様だ。
アルジュナの次はキャスターのクー・フーリン、概念礼装と風魔小太郎、ロビン・フッド、メディアなど、星3の高性能を順調に引いている感じがする。
というかこのガチャ何?ストガチャ?じゃないとキャスニキ出ないよね?


『キャスニキあっちかぁ…まぁアヴァロン・ル・フェで待ってんだもんね…じゃあ主人公の方に行くか…』


「となると、槍か狂王の兄さんが来てくれれば楽だけどねぇ。矢避けって死なないじゃない」


『後半の地獄忘れた?ほいほい無敵貫通強化解除してくんの。ぶっちゃけ耐久より瞬間火力派だよ、今の私は。
だから頑張ってね、クリティカル宝具連射の鬼』 


「へーへー、愛するマスターちゃんの為に頑張りますよ、と」


へらりと笑うはじめちゃんに、口をもにゃりとさせる。またこいつは愛とか言って…


「白露さーん!次は白露さんのばーん!!」


『はーい。行こ、はじめちゃん』


「はぁいはい」


壁から背を離し、一気にサーヴァントの数の増えた藤丸くんに近付く。


『藤丸くんと共にカルデアのマスターを勤めております、白露刹那です。宜しく』


「刹那ちゃんのファーストサーヴァントの斎藤一だ。堅苦しいのは苦手だから、ゆるーく宜しくね」


コイツめちゃくちゃ自分の事をファーストサーヴァントってアピールするじゃん…
よっぽど前のカルデアで、自分が数多の中の一だったのが嫌だったのか。
召喚サークルに虹色の石を並べて、陣が起動するのを眺めた


『サポーター欲しいな。そもそもこれ何ガチャ?』


「さぁ?でもね、マスターちゃんの望みは叶うと思うよ」


『自信ありそうだね。なんで?』


召喚サークルが回転を始めた。
隣を見上げれば、はじめちゃんの前髪が風でゆるりと持ち上げられている


「だって僕が来てんのよ?
路さえ出来ていれば────僕より魔術に詳しい彼女らが追い掛けて来るのはさ、簡単でしょ」


『!』


サークルに虹色の輝きが集った。
円を描き、三つに分かたれた光の輪の中に、金色のクラスカードが現れる。
カードの表面に刻まれているのは、シルクハットの悪魔の絵。


「────やあ、私はレディ・アヴァロン。
もちろん真実の名前だとも。楽園の方から来た、ただの花の魔術師さ。
せっかくの機会だから、君達の旅路を少しだけ見守らせてもらおうかな。これからどうかよろしく、マスター」


金色の光の中から現れたのは、真っ白な女性だった。
綺麗なチェリークォーツが此方を映すと、彼女はふんわりと微笑んだ


「初めましてだね、マスター。頼れる君の妹さ。
先に来ていたお兄ちゃん共々宜しくね、お姉ちゃん?」


「やっほーアヴァロンの姉さん。宜しくね〜」


「ああ、こう見えて魔術は得意でね。サポートならお任せさ」


妹、という発言は最終再臨時のレディ・アヴァロンの台詞に入っていた。
つまり彼女は他の人にバレない様に、私に私のカルデアの事を匂わせたのである。


『……初めまして、アヴァロン。白露刹那です。これからも宜しく』


「ふふ、勿論だとも。存分に私に頼ってくれて良いよ」


にこりと微笑んだ彼女と握手をして、そっと隣のはじめちゃんに訊ねた


『何時からお兄ちゃんになったの?』


「周回やら高難度の出撃で一緒になってたら、何でかそう呼ばれる様になったのよ…お兄ちゃんは止めろって言ってんのにね…」


「ふふ、だってそうだろう?彼女は私のお姉ちゃんなんだから」


『?』


「あ゙〜…そういう…」


楽しそうなアヴァロンと、納得したらしいはじめちゃんに首を傾げつつ、サークルに目を戻した。
次に現れたのは、金色の魔術師のクラスカード。
金色の光の粒子から現れたのは、青い豪奢な着物の、獣の耳を持つ女性だった。


「御用とあらば即参上!
貴女の頼れる巫女狐、キャスター降臨です!!」


『………宜しくね、玉藻。私は白露刹那です』


────最終再臨姿で来よった、コイツ。
隣ではじめちゃんは口を押さえ、ぷるぷると震えている。アヴァロンはにこにこしていた。
一発で私に意図が通じたと気付いた玉藻は、笑顔でサークルから出てきた


「マスター、私も来ました故、アーツクリティカルゴリラパーティは完璧です!!!」


『んっふwwwwwwwwwwwww』


「直球wwwwwwwwww」


「はーいちょっと玉藻の姉さんは裏にしゅうご〜」


「きゃっ☆マスター助けて下さいましっ」


『いってらー』


「マスター!?!?」


けらけらと笑っていれば、不意に後方で騒ぐ声が聞こえてきた。
斜め後ろで綺麗だねーときゃっきゃしている藤丸くん達ではなく、その後ろのドクターとダ・ヴィンチちゃんである


「えっ、ちょっと待ってくれ!!
ダウンスケールされてないサーヴァント!?ちょっ…レオナルド!?」


「私も驚いてるよ!そういえば白露くんのサーヴァント、軒並み霊基のスケールが可笑しいんだよね!!
最初に召喚した斎藤くんだって、召喚した瞬間からレベルは霊基上限の80!!どういうこと!?調べたーい!!!」


『えっ』


私の完全体ファーストグランドが???レベル80????は??????
思わずダ・ヴィンチちゃんの方を振り返りそうになって、ぐいっと隣に引き寄せられた。
見れば、はじめちゃんが口許で指を立て、所謂しーのポーズを取っている。
勿論ダ・ヴィンチちゃん達には背中を向けているし小声なので、斜め後ろの藤丸くん達にも聞こえないだろう


「あのね、僕ら此処に来る前に、BBのお嬢さんに霊基を偽って貰ったの」


『BBに?』


「そう。僕らはマスターちゃん以外の霊基情報のアクセスを、全てレベル上限ってフェイクでやり過ごせる様にしてある。
マスターちゃんの魔力で正しい情報を開示出来る様に、ロックを掛けてくれたのさ」


小悪魔と呼ばれる、結構善意でやらかすラスボス系後輩を思い浮かべた。
…そうか、協力してくれたんだ。
頼りになる彼女に、感謝を心の中で述べた


「さぁて、次はどいつだ?」


「絆で言えば彼ですかね、人斬りの」


「でも聖杯で言えば彼じゃない?私は雷神の方が良いかなぁ。全体宝具だし」


「インドラ神ならスカディの姉さん居たら強いけど…彼女は来るかな?確か絆もそこそこだったし、聖杯入れてないだろ?
同じ人斬りだったら河上彦斎のがまだマシ。人斬り以蔵よりは性格もマシだし────何より、僕の特攻が全部刺さる」


『仲間を斬る前提で考えない』


アサシン特攻と混沌特攻で確実に殺す気である。
思わず苦笑いすれば、クラスカードが回転を止めた。
色は銀。描かれているのは、両手に刃物を持った暗殺者。
それを見た瞬間、はじめちゃんに抱えられ後方に下げられた。
それと同時に現れたのは、黒いぼさぼさの髪を結い上げた、山吹色の目の男だった


「わしが土佐の岡田以蔵じゃ。人斬り以蔵のほうが通りがえいかの。
アサシン…?勘違いすな、わしのクラスは“人斬り”じゃ」


「あー………ハズレじゃないのマスターちゃん…僕はコレじゃない方ならって言ったのにぃ」


『ド失礼じゃん』


「ねぇ今から還そ?僕なら斬れるからさぁ、やって良い?」


『ダメです。ほら、戻るよ』


「…はーい」


人をぎゅむぎゅむと抱き込んで、後頭部に顔をぐりぐりしてくる男を宥める。拗ねてるのかわいいな…ぶっちゃけね、好きなんですよ対人魔剣。だって己の技術だけで宝具の域まで達してるんだよ?やばいでしょ。
なので岡田以蔵と河上彦斎はレベル100、斎藤一はレベル120。キャラも好きだったので。
はじめちゃんを連れ、以蔵さんの前まで戻る。
此方を見た以蔵さんが表情をぱっと明るくし、隣のはじめちゃんを見た瞬間に顔を盛大に顰めたのを見て、あ、私の以蔵さんだと察した


『初めまして、白露刹那です。
これからも宜しくね、以蔵さん』


「おん、おまんの敵はわしが斬るって約束やき。
…やけんど、何でそいつが先におるがよ!」


「はーい遅かったですねぇ人斬り以蔵さ〜ん。
初めまして、マスターちゃんのファーストサーヴァントの斎藤一で〜す。
あんたは四番目。護衛がどうのって割には、随分遅かったじゃないの。なに、人ん家に金目の物でも狙って忍び込んでた?」


へらっへらして煽り散らしているのは、我がファーストサーヴァントにしてファーストグランド。
確かこの二人は、基本が煽り合いからの第三者による物理制裁を喰らっていた筈。
だが此処に物理制裁系秩序・善はまだ来ていない。というか私のカルデアって誰がその役してたの?マルタとかジャンヌか?
以蔵さんが刀に手を伸ばす前に、さっと硬い手を握った。
そのまま声を大きめに、掴んだ手をぶんぶんと上下させた


『召喚に応じてくれてありがとう!もうすぐ召喚も終わるから、その後に私の部屋で話しましょうね!』


「お、おお…?…判ったぜよ。じゃあとっとと召喚を終わらせえ。歓迎の酒がわしを待っちょるんでな!」


「んなもん待ってねぇよ馬ァ鹿」


『セイバー!!』


「…へ〜い。一ちゃんはお口チャックしますよ、と」


べ、と舌を出して両手を挙げたはじめちゃんに溜め息を溢す。なにその顔可愛い…でも褒めたらいかん、煽る…
幸い小声だった故か、さっきの暴言は以蔵さんまで届かなかったらしい。
壬生の問題児を黙らせ、土佐の問題児をそっと後方に下がらせてから、大きく息を吐いた。


…そういえば。
恐らくはクラスカードにもBBのフェイクが施してあるのだろう。


だって以蔵さんも冠位持ちだ。
はじめちゃんもそうだが、冠位となったサーヴァントのクラスカードは青になり、絵も特別仕様に変わる。けれど先程の以蔵さんのカードは銀。聖杯も入っていない事になっている。
後ろでまたレベルがと騒ぐ声がするが、スルーした。今来てるうちのサーヴァントは、はじめちゃん以外レベル100なので。


「うーん、見事にアーツばっか。
此方のサポートは揃ったし、流石にバスター欲しくない?」


『うちのアーツ代表がそんなの言う?』


「まぁ確かに斬れないモンはないですよ?ないけどさ、単純に、バスター全体からの僕でチェイン組んだら威力上がるじゃない。雑魚は一掃出来るし」


『…明確にウチのグランドバーサーカーじゃないそれ』


「宝具効果でOC上げてくれるから助かるんだよね。とはいえ、此方じゃ戦いもマスターちゃんのゲームとは違ってくるから、正直チェインもクソもないんだけど」


そう言われると、正直来て欲しい様な、そうでもない様な…だって彼女のマスターの認識は夫、若しくは妻である。
普通にはじめちゃんとドンパチやらかしそうで、ぶっちゃけ微妙なのだ。


『はじめちゃんさぁ』


「んー?」


『正直モルガン来たらどうなの?』


「(にっこり)」


『あっ(察し)』


ダメだ、バトる気だ。
どうかはじめちゃんと仲良く出来るサーヴァント来て…ぶっちゃけ以蔵さんだけでめんどいのよ…私にマスター以上の感情を抱いていないバスター全体宝具のサーヴァント…


「私と玉藻前は自力で斎藤くんの作った路を辿ってきたけれど、他のサーヴァントはそうも行かないんじゃないかな」


「他に路を辿れるとすれば……マスターや斎藤さんの仰る彼女ぐらいでは?」


「わしも急に呼ばれたき、理由は知らん。らんだむやないがか?」


『だよねぇ…どうせならあと一人は来て欲しいけど……コスト…』


「星5二騎に星4だもんねぇ」


『概念礼装ってどうなってるんだっけ?流石に付いてきてないよね』


「あ、僕持ってきてるよ」


『えっ』


慌ててタブレットで編成を開く。
はじめちゃんが付けているのは、スター集中とNP獲得率アップの概念礼装。
……死ぬ前の私が付けさせたものだった。


『アーツクリティカルゴリラ…』


「ゴリラじゃありませ〜ん。でもこの礼装良いよね。スターが何もしなくても勝手に集まるし、そのお陰で直ぐ宝具撃てるし」


『はじめちゃんって、通常アーツのNP獲得率はそんな良くないっぽかったからさ。
じゃあ星吸って殴って貰おうと思って』


「マスターちゃんの思考がゴリラじゃんね」


『宝具もクリティカルも活かした結果のガチゴリラ…』


「ゴリラじゃないってば。副長と一緒にしないで」


『いや筋力A+はゴリラよ?』


「…筋力Bのつもりだったわ」


……だらだらしていた結果だろうか。
その後は麻婆祭りが開催され、結局私のパーティは四騎となった。













────夜、部屋のモニターに映った彼女の顔は疲れていた。


「今日もお疲れ様、マスターちゃん。…信号だっけ?ぜぇんぶ青になって、早く帰れたら良いのにねぇ」


彼女の斜め上に映った、現代の信号機という交通効率と命を護る為の機械を眺めつつ、俺は呟いた。
編成の先頭に配置されたサーヴァントは、マスターを一番に迎えるお役目が与えられる。
故にマスターガチ勢と呼ばれる蛇のお嬢さんや毒のお嬢さんにちょいちょい首を狙われるのだが、それを除けば大分平和である。レベル70からの襲撃なんて怖くない。これでも冠位持ち、マスターちゃん曰く完全体の一ちゃんなので。
このカルデアは平和ではあるのだ、毎日の巡回で大なり小なり何かは起きるけど。
まぁそれは、サーヴァントなんて人格破綻者を一所に集めているのだから、さもありなん。
ちょっとお話(物理)すれば大概は黙るので、問題なし。
椅子に腰掛けたまま、真っ暗になったモニターからほんの少し夜空が見えるのを眺めた。
珍しい、彼女は直ぐに画面を消さず、鞄に端末を放り込んだらしい。
そのままコーヒー片手に夜空を眺める。自分の知る空よりもっと星が遠いのは、見慣れない建物で切り取られているからだろうか。
暫く小さく揺れるモニター越しの風景を流した後、白い手がぬっと割り込んできた。
恐らくは上に映り込む鍵を取り出すのだろう。
安息の地に戻る為の動きを見つめていると、不意に鞄を覗き込んだ菫青と目が合った


『あれ?どっかぶつかった…?』


「やぁ、マスターちゃん。何もぶつかってないけどモニター付いてるよ」


声が届かないのは判っている。ただ関係無い世界を救おうなんて頑張っている己のマスターを、嫌う事など有り得ない。
どうせなら、このまま彼女が家に戻るのを見守ろうか。
そんな事を考えながら脚を組んだ、その時


『うっ』


「マスターちゃん?」


ざく、と中身の詰まったものを突き刺す様な音。
それは、あまりにも聞き慣れた音で。
背後を振り向いた彼女の首を、銀色が迅った。
それは的確に動脈を掻き切ったのだろう、出口を見付けた血流が、細い血管から噴き出した。


「マスター!!!くそ、ふざけんなよてめぇ!!!!」


椅子を蹴る様に立ち上がる。
幾度も切った張ったを繰り返してきた身だから判る。


────マスターは、助からない。


ぐらりと傾いだ身体が倒れた音と共に、モニターが大きく揺れた。彼女の肩から落ちた鞄が道路にぶちまけられ、端末が転がり出た。
一気に開けた画面に映ったのは、黒ずくめの男。
彼女の上に、男が跨がった。両手で握ったナイフが、高く掲げられた。
街灯の灯りを反射した刃が、血を纏いながらぎらりと光る。


「マスター!!やめろ、やめろよ!!!
その子がてめぇに何したってんだ!!!!」


モニターに掴み掛かる俺の声は届かない。
男はずっと口を動かしていた。
ぶつぶつと呟く中には、愛の言葉の様なものが出てくる。


「…嘘だろ。まさか、マスターに声も掛けられねぇ癖に好きで殺したってのか…?」


ずっと見ていた。君の声が好きだった。話し掛けたかった。此方を見て欲しかった。
好きだった。だから、自分のものにしたくなった。
男の呟きから出た最悪の推測に、強く歯を噛み締めた。
何でだよ、その子はただ真面目に働いて、その片手間でも此方を救おうと動いていただけだ。
何で、何で俺は彼女の許に行けない。
こんなひょろっこい男、簡単に殺せるのに。


────ざくり。


銀色が、動かない彼女の腹に突き立てられた。
そのままぐちぐちと、鈍が彼女の柔い肉を裂いていく。
下腹部まで裂いた所で、ナイフは止まった。


「ひひ、あはは…あははははは!!!!」


「──────────ッ!!!!!」


ぐち、ぐち、ぐちゃり。
赤い腸の中に、手が突っ込まれた。
引き抜かれたそれが掴んでいたのは、女の象徴とも呼べる臓器、で。


「刹那ちゃん、ずっと一緒に居ようね」


血と様々な粘膜をぶら下げた臓器をうっとりと見つめたソイツは、がぱりと口を開けた。


────殺したい。
こんな男、容易く殺せるのに。
何故。何故マスターはこんな目に。


ぐち、ぐちゃ、ぐちゃり。


────マスター。我がマスターよ。
お前の命は、こんな風に踏み躙られて良い筈がない。
お前の性は、こんな男に穢されて良い筈がない。
……俺は。どうして俺は、なにも


鞘に納まったままの刀を机に叩き付ける。
真っ二つにしてしまった机にもう一度刀を振り下ろそうとして────視界が、花で埋め尽くされた。














「少し止めるのが遅かった様だ。ごめんね、お兄ちゃん」


花畑の中で横たわり、動かないコートの男と黒髪の女を理想郷の住人は見下ろした。
彼はずっと、あの日に囚われている。
幾度も幾度も彼女を殺された日を夢に見て、護れなかった己を責め続けている。


「サーヴァントは夢を見ないというのに。君のそれは、罪の象徴なのか」


どうか、この不器用な人間が救われます様に。
理想郷の住人は、静かに目を閉じた










王冠は役に立たず








刹那→転生マスター
本人は夢に斎藤を巻き込んだと思っているが、実は夢に巻き込まれた方。
魔術師としてメンタルの管理の仕方は学んでいるので、自分の死ぬ光景を見ても大してダメージを受けていなかったりする。寧ろ斎藤のメンタルがやばい。
食堂担当をメインでしていたが、玉藻前が来た事でサポートに変わる。

斎藤一→ファーストサーヴァント
前世の悪夢を毎日見ている人。
メンタルがしれっとぐちゃぐちゃなのは、前世の刹那を護れなかったのが原因。
毎朝こっそり刹那の首筋に傷がないか確認している。
内心のドロドロをぶちまけるのは、自分の考えていた事を刹那に知られていたのだと知ったから(ゲームの仕様)
なので思っている事を隠すのを止めた。結果オープンドロドロ。
ステータスはマスター補正と知名度補正でイカレ仕様。リアルゴリラになった。
レベル諸々フェイクを仕込まれているので、レベル120の癖に80と偽っている。

レディ・アヴァロン→サーヴァント
刹那のカルデアのレベル100サポーター。
斎藤が開いた路を辿ってやって来た。
斎藤が見る悪夢を良い夢に変えたりしている。

玉藻前→サーヴァント
刹那のカルデアのレベル100サポーター。
斎藤が開いた路を辿ってやって来た。
暫くはカルデアの食堂に詰める事になる。

岡田以蔵→サーヴァント
刹那のカルデアのレベル100アサシン。
あんまりにも斎藤を煽って酒に酢を入れられる。
それでも酒が好き。

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