ヒーロー志望のマスターとはじめちゃん
・捏造オンパレード
FGO×ヒロアカ





世界を救った。
一度救って、二度目も救って。
彼は、共に駆けたマスターは、日常に戻れたのだろうか。
心優しきパラディーンは、世界に触れる事は出来ただろうか。


「藤丸ちゃんも、盾の姉さんも元気にやってるみたいだよ」


そっか。
それなら、嬉しい。


「所長さんも忙しそうだしねぇ。いやはや忙しない。やっぱり、ダ・ヴィンチのお嬢さんが抜けた穴は大きいか」


ダ・ヴィンチちゃんは限界が近かったし。
…あの子にも、色んなものを見て欲しかったけどね。


「そう思って貰えるだけで良いさって、あの子は笑うんだろうね」


…ああ、あの子ならきっとそう。


共に駆けたマスターも、パラディーンも、万能の人も、キャプテンも、所長も、シオンも、それからロマンを大事にしていた彼も。
皆、もう会えないけれど。
寂しくはないのだ。
だって私は宙に居る。遥か遠くから、今を生きる皆を見守っている。
日本家屋然とした此処から私は出る事は叶わないけれど、独りじゃない。
大好きな人が、私には付いているから


────くん、と何かに引っ張られた。


「…おんやまぁ、刹那ちゃんったらまたどっかに行くつもり?
折角色々終わったんだから、あと百年はぐうたらしたって怒られないよ?」


…というか、もう喚ばれない方が平和だよね?


「まぁねぇ。刹那ちゃん喚んだら僕まで付いてくる訳だし。
その分マスターは魔力繰りが大変になっちゃうかも。僕ってば魔改造で燃費クソ悪いし。
でもほら、魔術師って根源至りたい病だから。良く言うじゃない、人は次から次へと火種を産むって。
どうせまたどっかで聖杯戦争は起こるよ」


────くん、と引っ張られる。
意識がそちらに引っ張られていくのを感じる。


「あーあ、断れねぇってワケ。
はいはい、一ちゃんも御供しますよと。
…さぁ、仲良く参るとしましょうか。僕のマスターちゃん?」


にっと笑った彼の差し出された手に、手を乗せる。
その瞬間、ぐん、と大きく引き込まれた。















『────、』


「お目覚め?良く眠れたかい?」


座と呼ばれる場所でもずっと傍に居てくれた人が、微笑んでいる。
そんな彼の胸元にぐりぐりと顔を押し付ければ、低い声が控えめに笑った


「ふふ、可愛いねぇ甘えたさん。あと五分したら起きようか」


『ん』


起きてからの五分、然れど五分。
起きたてはぼんやりしているのは生前も変わらず。というか座でもこんなだった。
大きな手で頭を撫でつつ、眠くならない様に背中をぽんぽんと叩かれる。
毎日のルーティーンで目が覚め、私はゆっくりと顔を上げた。
不言色の双眸がゆるりと細くなる


「おはよう、刹那ちゃん」


『おはよう、はじめちゃん』

















この世界に来た理由は、聖杯戦争ではなさそうだった。だって人理修復を終え、サーヴァントとなってしまった私が、喚ばれたかと思えば人間として産まれているのだ。
流石に自我が目覚めた時に、小さな子供になっていたのは驚いたけれど。


「さぁて、どうするマスターちゃん?」


『…取り敢えず、殲滅?』


────雄英高校、実技試験。
腰を折って顔を近付けてきたはじめちゃんに、顎を擦りつつ返す。
どうやらロボットを動けなくしてしまえば良いらしいそれは、人間相手より随分と楽だ。
此方が目指すのはヒーローなのだから、敵を倒してハイ、おしまい、でもないだろう。
恐らく救助もポイントに加算される筈


『はじめちゃんは先行。
開始した瞬間に敵を斬って。多分、動けない学生の保護とか救助とかもポイントになるだろうから、私は玉藻連れてそっちメインで動く。
アヴァロンとエミヤを付けるから、前線の指揮は任せるね』


「了解。んじゃ、やりますかね」


はじめちゃんの目がすうっと細められた。
チラチラと此方を見てくる受験生には目もくれず、左手の令呪に魔力を通した。


〈ハイSTAAAAAAAAAAART!!!!!〉


『────アーチャー、プリテンダー、キャスター、簡易召喚!!』


濃紺の影が一瞬で視界から消える。
青白い光を纏いながら周囲に現れたサーヴァントに、私は指示を出した


『アーチャーとプリテンダーはロボットを破壊しつつ、セイバーと合流。その後はセイバーの指示に従って』


「良いだろう」


「判った。君も気を付けるんだよ、マイロード」


『ありがとう、宜しくね』


はじめちゃん以外は藤丸のサーヴァントだ。ただグランドサーヴァントを選定するに当たり、マスターそれぞれで冠位を選べる事となり、私の方にも藤丸のサーヴァントから何騎か選抜する流れとなった。
冠位として扱う時は、私をマスターとして認められる者というのが最低条件。
それに納得してくれた彼等は、私をマスターと呼ぶ。


「どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?」


プレゼント・マイクの声で漸く周りの受験生が動き出した。
入り口に殺到する生徒を横目で見つつ、隣に佇む豪奢な着物の女性に声を掛ける


『キャスター、私と一緒に医療班として動いて欲しい』


「畏まりました。では参りましょうか、マスター」


玉藻と共に演習場の門を潜る。
入り口周辺は既に、綺麗な切断面を晒した機械の残骸で溢れていた。はじめちゃんが斬った後だろう。


『大暴れだね』


「相変わらず見事な切れ味ですね。この様子でしたら、学生達も真っ直ぐ奥を目指すのでは?」


『そうだね。先に進もう』


足を踏み入れた瞬間に標的の残骸まみれであれば、生き残りを探して先を目指す筈。
得点が欲しくて焦っていれば、ちょっと無理をしてでも奥に進んで────


「マスター、居ました。2Pに囲まれていますね」


『キャスター、ロボット頼める?』


「お任せを」


敵に、囲まれるのだ。
玉藻に先行して貰い、腰を抜かした受験生に駆け寄る。
彼女がロボットを倒している間に、怪我の具合を魔術で診る。どうやら右足を捻った様だ。
ささっと患部の上に薬師如来を意味する梵字を描き、魔力を込める。
完治させてやる必要はない。応急処置で十分だろう。
男の子の傷を治し、私は立ち上がった


『キャスター、応急処置は終わった。次に行こう』


「了解です」


『君、自分で逃げて。歩くだけなら支障はない筈』


「あ、ありがとう」


『どういたしまして』


脚に強化を叩き込み、宙を滑る様に進む玉藻に付いていく。
その後も順調にポイントを稼ぎつつ、要救助者を安全な場所まで移動させた。
演習場の中間付近まで進むと、前方から激しい音が聞こえてくる。恐らくはじめちゃん達が居るんだろう


『もう少しで合流出来そうかな』


「ええ。少し先にアーチャーさんが────」


────ズシン。


地面が揺れて、たたらを踏む。
そっと玉藻に受け止められ、そのまま前方に目を凝らした。
音のする先、ビルを両手で押し退けながらやって来るそれに、思わず顔が引き攣った


「逃げろー!!!!」


「死ぬ!!死んじゃうよ!!」


「無理だ!!」


『………わぁ』


見上げる様なサイズのロボットが、地鳴りを響かせながら此方に向かってくるのが見えた。
事前の説明によれば、あの大きなロボットは0ポイント。
サイズはイカレているのに、得点にはならないソイツ。つまり倒しても、此方に何の旨味もない。
……ただ、ああいうのは居るだけで人々に恐怖を植え付ける。


『キャスター、ビルの上にお願い』


「はい」


呪術でふわりと身体が浮かび、近くにあったビルの上まで辿り着く。
そこで左手を真上に翳した


『全員しゅうごー!!!!』


「は〜い」


「アーチャー、帰還した」


「どうしたのかな?」


即座に戻ってくれた三人に怪我がないのを確認してから、すっと巨大ロボを指差した


『アレを壊したいです』


目が合ったはじめちゃんがへらりと笑った


「はぁいはい。んじゃ、プリテンダーの姉さん、バフ頼めます?一発で斬り捨てるんで」


「勿論だとも。
それにしても、この世界はレクリエーションが過激だね。
あまりの大きさに、子供達が逃げ惑っているじゃないか」


「セイバーさんを強化した後で、プリテンダーさんが幻術を見せたら良いのでは?
落ち着かせた方が、避難も安全でしょう」


ビルの下を見れば、学生達が我先にと退却していた。先程までの勇ましさなど欠片もない。
当然か、ヒーローを目指すとはいえ、まだ十五の子供だ。
自分では敵わない脅威と対峙して、冷静で居られる筈もない


『そうだね。プリテンダー、頼める?』


「お安い御用さ。では先ず、バフを掛けるとしようか」


アヴァロンの身体が青白い光に包まれ、手にした杖に輝きが集まる。
それがはじめちゃんに降り注ぐのを眺めつつ、エミヤに声を掛けた


『アーチャーはロボットに襲われている受験生の援護を』


「了解した」


早速エミヤが矢を番えた。
レディ・アヴァロンによる強化を終えたはじめちゃんが、ちらりと此方に目を向ける


『セイバー、斬って』


「────聞き届けた。お前の敵を、斬り捨てる」


たん、と革靴がコンクリートを蹴った。
一瞬でロボットの真上に迫った濃紺のコート。
その両手は真上に掲げた打刀を握り締めている。
未だ脅威に気付かぬ機械仕掛けの人形に、低い怒鳴り声と白刃が叩き付けられた


「何処見てんだ!!!!」


─────バリバリ、バヂバヂ、ガリガリ、ギャリギャリ。


何とも形容しがたい音が響いて、見上げる程の巨体は、縦に真っ二つになった。
脳天から綺麗に一刀両断。スイカ割りの様な見事さである


『バスター一発かぁ』


「正直私のバフが無くてもいけたんじゃないかな」


「セイバーさんってオーバーキルしたがりますよね」


「…確実に倒したいのだろう。彼はたった一騎で、マスターを護ってきたのだから」


支えを喪った鉄の塊が、ビルや道路を巻き込んで倒壊する。派手な音と砂埃を巻き上げた崩壊現場から、ひらりとビルに飛び上がってきたのは私の狼だ


「はいおしまい。マスターちゃん、ご無事?」


『うん、ありがとうはじめちゃん』


「お安い御用よ、こんなの」


緩く笑うはじめちゃんに私も笑った。
やっぱり私のセイバーは最強である。


















試験の映像を流した後。職員の間で、妙な沈黙が横たわっていた。
救助ポイントのみで合格した緑谷出久と、撃破ポイントのみで合格した爆豪勝己。
そして最後、撃破ポイントも救助ポイントもそつなく稼いだ白露刹那。
特に目立つのはこの辺りだろうか。
ただ白露の個性は、異様の一言に尽きた。


「あのガールの個性、どうなってんだ…?人間を召喚する個性…?」


「召喚────本人の説明によれば、特定の人物を短時間呼び寄せるんだそうだ。
もう一つは刻印。意味を込めて書く事で、それが現実になるしい」


「複合個性か。こりゃまた随分な…」


開始早々、演習場に配置されていたロボットを全て二振りの日本刀で斬り捨てた、濃紺のコートの男。
クマの目立つ双眸は、監視カメラを捉えにんまりと笑った。
追加されたロボットをすかさず斬り飛ばし、仲間らしき白い女と赤い衣装の男と合流する。


〈アーチャーとプリテンダーは遠方のロボットぶち壊して。僕が近場は片付けちゃうから〉


〈了解した〉


〈助けは必要かい?〉


〈んにゃ、だいじょぶよ。このくらい、さくっと終わらせちゃいますから〉


へらりと笑った男の姿が掻き消える。
濃紺の風が駆け抜けると、瞬く間にロボットが真っ二つになっていった。
信じられない速度で演習場を駆け回る風がロボットを裂く間に、赤い衣装の男が弓を番える。
三本番えた矢は、過たずにロボットを一体ずつ、計三体貫通した。矢にあるまじき威力で、ロボットの鋼鉄の肌を吹き飛ばす。
女が手にした杖を振ると、光と風が次々とロボットを襲った。
可憐な容姿に似合わず一撃でロボットを沈める女に、教師陣は言葉を喪う。


〈おや、マスター達が真ん中辺りまで来た様だよ〉


〈三番隊、一旦待機!
敵が一定ラインより此方に来るまでは泳がせろ!
マスターちゃんとの合流を優先する!〉


〈フッ…了解した、隊長〉


〈はーい、隊長♡〉


〈あ゙……待って、間違えた隊長呼びやめて!!〉


コートの男が顔を赤くして手を振るが、からかったのだろう二人は微笑んでいる。
なんだか妙に和やかな空気が流れたのも束の間、演習場の奥から巨大ロボが現れた。
0ポイントのロボットがビル群を押し退け立ち上がると、それをのんびりと見上げた男が言う


〈んー、サイズ的にはそこそこ…もう斬っちゃって良くないです?〉


〈おやおや、マスターと合流すると言ったのは君だろ、隊長?〉


〈マスターの意見を仰ぐべきだと思うぞ、隊長〉


〈ねぇめちゃくちゃ弄るじゃない。隊長やめてってば…〉


〈日本人の私からすれば、貴方の下に付けるのは光栄な事だが〉


〈も〜アーチャーってばすーぐそういう事言うんだから。判りましたよ、マスターちゃんが来るまで待機しましょ〉


〈全員しゅうごー!!!!〉


〈おっと、呼ばれたか。は〜い〉


〈アーチャー、帰還した〉


〈どうしたのかな?〉


────それから男が0ポイントを一刀両断した所で、校長が口を開く


「彼女の個性はあまりにも強力だ。
彼等は…特にコートの彼は、白露くんの選択ならば、何でも遂行してしまいそうな気配を感じるんだ。
彼女はこの試験に於ける重要な点を理解していた様に思うけれど、それでもまだ十五の子供だ。迷い惑う事もあるかもしれない。
……強力な個性を持つ者を、正しい道に導くのが教育というものさ」


「……やれやれ、今年も問題児ばっかりか」


黒ずくめの男が溜め息を吐く。
充血した目は、三人の顔写真に向けられていた


















「いやー、便利な世の中になったよねぇ。バスに地下鉄、足は沢山だ」


『満員でさえなければね』


「それはそう。まぁ、この時間は混んでないし良いんじゃない?」


『うん』


地下鉄で十分程度。
それから地味に長い坂を登り、大きな建物に辿り着く。
刀は霊体化させている様だが、校内でスーツにコートの男性はやはり人目を引くのだろう。入学式だが、まだ保護者は来る時間じゃないし。
生徒の視線を浴びながら、はじめちゃんは平然としていた


『入学式か…めんどいな…』


「まぁまぁ。一生に一回なんだから、我慢しなさいって」


『小中高で一回ずつやってる』


「はは、屁理屈捏ねる程嫌なの?可愛いけどだぁめ、ちゃんと出なさいな。
あ、保護者として出よっか?」


『結構でーす』


くすくすと笑われながら、はじめちゃんと手を繋いで歩く。
こんなに大きいと先ず靴箱を探すのに苦労する。どうにか見付け、階段を上がって足を止めた。


「マスターちゃん、こっち」


『ありがと』


手を引かれ、はじめちゃんの後ろから付いていく。
方向音痴は座に登録されても直らないらしい。初めて行く場所でほぼ迷う私に、はじめちゃんは既に慣れっこな様だった。
手を引かれ辿り着いたのは大きな扉の前。
見上げる程の高さのそれに、握った手にきゅっきゅと力を込めた


『扉大きいね』


「個性ってヤツの関係かねぇ。身体が大きいヤツも問題なく通れる様にって配慮じゃない?」


『プロテア…は無理か。パッションリップとか?』


「そのくらいなら通れそうだね」


きゅっきゅと力を込め返され、そっと手を離された。
思わず見上げると、はじめちゃんはふわりと安心させる様に微笑んだ


「僕は霊体化しておくよ。大丈夫、直ぐ傍に居るからね」


『……ん』


学校で姿を消されるのが地味に嫌だったりするのだが、言わないでおく。…いや、バレてそうな気もするけど。
すっと濃紺のコートが空気に溶けるのを見送って、深呼吸を一つ。
それから静かに引戸に手を掛けた。
中に入り、黒板に貼られた紙に目を通す。
割と後ろの席だ。窓際だからまだマシか。
席に着き、周囲をそれとなく確認する。
前の席はなんかヤバそうな金髪。後ろはまだ居ない。横は黒髪の男の子。


…友達無理そう。


声を掛けるのを諦めて、スマホを弄る。
前の席が早速眼鏡の子と揉めているが、スルーだ。ああいうのは関わらないに限る。
静かに教室の様子を眺めていれば、ざわついた空気を両断する様な声が聞こえた


「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」


床に転がる黄色い寝袋。
そこから顔だけ出した、髭で長髪の男。


………芋虫…いや不審者…???


転がったそれは徐に十秒チャージを口許に運び、一瞬で中身を空にした。


「ハイ、静かになるまで八秒掛かりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」


寝袋を脱いで現れたのは、黒服の不審者だった。
長いぼさぼさの黒髪に無精髭。
何処か草臥れた雰囲気のその人は、驚いている生徒達の視線を集めている


「担任の相澤消太だ。宜しくね」


いや担任…?この疲れた感じの人が…?
相澤先生は寝袋の中に手を突っ込むと、青を基調としたジャージを引っ張り出した。
それを近くに居たモジャモジャ頭に押し付け、言う。


「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」















「────個性把握…テストォ!?」


「入学式は!?ガイダンスは!?」


「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る時間ないよ」


グラウンドに移動した所で告げられた担任の言葉に溜め息を落とした。
どうやら中学までとは全然違うらしい。
成程、それで登校早々体操服か…


「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然り」


先生はボールを一つ取り出した。
それを掌の上で跳ねさせながら、口を動かす


「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。
中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。
国は未だ画一的な記録を取って、平均を作り続けてる。合理的じゃない。
まぁ、文部科学省の怠慢だよ」


確かにそうだ。
そもそもが常時発動型の個性であれば、個性未使用の子より良い記録が出るのは当たり前。
というか個性を使わない状態の記録など、一体何になるというのだろう。
各々の個性付きの記録を取って、データベースにでもぶち込む方が余程有意義だろうに


「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何mだった」


「67m」


「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良い。はよ」


先生にボールを放られた金髪の少年は、軽く肩を解す様に腕を伸ばした。
それを離れた場所で見つつ、どうせ隣に立っているんだろうはじめちゃんが見えたりしないかな、と目を細めたりする


「思いっきりな」


爆豪がボール型の測定器を振りかぶる。
そして先生の言う通り、思いっきりぶん投げた


「んじゃまぁ────死ねぇ!!!!」


『……死ね?』


爆風に乗りカッ飛んでいくボール。確かに凄い。掌が爆発…というか全身が爆発とかなんだろうか。
アシュヴァッターマンみたいにバンバン…いやあれは炎か。
凄い…凄いんだけど、掛け声が大変物騒なのはどういう事か。
え?ヒーロー目指してるんだよね?敵じゃないよね?
多分はじめちゃんも首を傾げてそう。
思わず首を捻るも、相澤先生は動じずに手許の端末に目を落とした


「先ず自分の最大限を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段」


表示された数字は705.2m。
とんでもない記録に目を丸くしていれば、周囲が盛り上がり始めた


「なんだこれ、すげぇ面白そう!」


「705mってマジかよ!」


「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!!」


そしてその言葉を聞いた瞬間、相澤先生の雰囲気が変わった。
…まぁ、うん。そうなるよね。遊びじゃないって教えたいもんね。


「面白そう…か。
ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごすつもりで居るのかい?」


「!?」


「────良し。
トータル成績最下位の者は見込みナシと判断し、除籍処分としよう」


長い黒髪を掻き上げ、先生は嗤った


「生徒の如何は先生俺達の自由。
ようこそ、これが────雄英高校ヒーロー科だ」
















第一種目、50m走。
出席番号順に行うらしいそれを、緩くストレッチしながら眺める。
爆豪と喧嘩していた眼鏡の人は、飯田天哉というらしい。
三秒台を叩き出した彼に、そしてドルドル音の鳴っている足にびっくりする。成程、韋駄天…
此方の世界の住人は、個性と名前に関連性がある事が多い気がする。
もし戦闘になれば、相手の名前に注意を払った方が良いかもしれない。撃破のヒントになるだろう


「次。爆豪、白露」


『はい』


出席番号順という事は、私は基本爆豪勝己と一緒になる。
うん、すんごい嫌。だって荒そう。
並んだ所で、早々に口を開いた


『セイバー』


「はぁいはい。なぁに、マスターちゃん?」


隣にすっと現れたはじめちゃんに、周りが一斉に騒ぎだした。
曰く一体何処から、とか、誰!?とか、えっ、イケメン!とか。
何も知らない風に平然とする彼に、ゴールの方を指差した


『私を抱えて50mダッシュよろしく』


「ありゃ、随分短いね。まぁ任せな、僕も脚は速い方だし」


『ん』


ひょいと横抱きされ、太い首に腕を回す。
…最大限、と先生は言ったが、さてどうするか。


────私の斎藤一は、度重なる魔改造により霊基が歪んでいる。


彼は、コルキスの魔女メディアと万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチに頼み込み、本来ない筈の魔術回路を植え付けた。
それから影の国の女王スカサハに師事し、魔術刻印を刻んだ事で、原初のルーンを使える様になった。
その後、千子村正に弟子入りし、特攻付与した刀を鍛刀、召喚出来る様に…というか工房を作れる様になっていた。
他にも蘆屋道満に呪術を習っていたり、トネリコに魔術を学んでいたり、風魔小太郎に忍術を教わっていたり、エミヤに投影魔術を聞いていたり。
スパルタクスのトレーニングに参加していたり、スカサハに捕まってケルト式トレーニングをこなしていたり、千利休に茶道を学んでいたり、モリアーティの授業を聞いていたり、ホームズに推理について質問していたり、紅閻魔のお料理教室にも通っていたり。
渡辺綱や佐々木小次郎や宮本武蔵、柳生宗矩といった名だたる剣豪と手合わせをし、技術を盗んでいたり。
かと思えばレオナルド・ダ・ヴィンチの許で討論していたり、ビリー・ザ・キッドの早撃ちを刀で防いでいたり、イスカンダルに王とは何たるかを訊ねていたり、ナイチンゲールとアスクレピオスに付いて、看護を学んでいたり。
────そしてそれを、聖杯と同化している私の魔力でリソース化し、霊基としてどんどん外付けしていったのだ。
お陰で私の斎藤一は膨大な数のスキルがあるし、知識もある。そして霊基のスケールは星5相当となった


…改めて見るとめちゃくちゃ魔改造。本霊が頭抱えてそう。


最終的には本霊の許に還らず、私の武器として座に登録されてしまったのだから、本霊の心労はお察しである。
そんな彼なので、ルーンを使えば敏捷EXだって可能なのだ。
…ただ、はじめちゃんの全力を見せるには、此処の信頼度が足りない。
なのでさくっと頼んだのは、簡単な事


『三秒くらいでよろしく』


「了解、ちゃちゃっと終わらせますよっと」


ぼそぼそと言葉を交わし、しっかりと首にしがみつく。ぎゅっと身体を小さくし、目を閉じた瞬間、スタートのピストルが鳴った。


「爆速!!ターボ!!」


隣から聞こえる声。ぐん、と身体を襲う風圧。
直ぐにゴールを踏んだ長い足が止まる


「はい、お疲れ様」


『ありがとうセイバー』


「お安い御用」


「白露、3秒11!爆豪、4秒13!」


「チッ!!」


おおう、爆竹みたいな舌打ち…目ぇ合わさんとこ…
すっと視線を外に逃がす私を抱えたまま、はじめちゃんは此方を睨んでいるであろう爆豪には目もくれず歩いていく。
じっと此方を見つめる相澤先生を振り返るでもなく、澄ました顔で待機場所に戻ると、そこで優しく私を降ろした。
そこでも刺さる好奇の視線に、はじめちゃんが溜め息を落とした


「あーやだやだ、大人気じゃないのマスターちゃん」


『今の場合、大人気なのはセイバーなんだよね』


「僕ぅ?ないない!じゃ、逃げるとしますかね」


『あっ、ちょっと!!!』


へらあっと笑ったかと思えば、はじめちゃんは溶ける様に姿を消した。


コ、コイツ…学生に囲まれるのが嫌で霊体化しやがった…!!


令呪で呼び出すかとも考えたが、あまりにしょうもないのでやめた。
どうせ直ぐ傍に居るのだ。何かあれば勝手に出てくるだろうし、放っておこう。


「ねぇねぇ、白露だよね!今の人誰!?白露の個性!?」


「あの人スゲーな!?足速ぇ!!!」


『………ははは、恨むぞセイバー』


私が人見知りだって知ってて逃げたな、あいつ。
隣ではじめちゃんは、きっと笑っている


────第二種目、握力


『ぐぬ…』


精一杯握り締めたものの、記録は12だった。
霊体化を解いて隣で見ていたはじめちゃんが、可哀想なものを見る目を向けてくる


「……マスターちゃん、これはちょっと…」


『違うし…ちょっと失敗しただけだし…』


違う。きっと20はあるのだ。ないと嫌だ。
はじめちゃんは、首を振る私から握力計をそっと抜き取ると、軽い調子で握り込み────べきょっと


『えっ』


「やっっっっっっっっべぇ」


慌ててはじめちゃんが握力計を離した。
表示はエラー。…バネが戻らなくなっているので、壊したのは確定である。
ざわつく周囲を放置して、手を挙げた


『先生すみません、握力計を壊しました』


「…は?壊しただと?999kgまで測れるヤツを?」


「あー、マジか……そんだけしか測れない感じ…?
すみませんね、先生。僕が加減を間違えちゃって」


相澤先生にはじめちゃんがへらりと謝罪する。
999kgかぁ…それじゃあ壊すわ。
だってサーヴァントの筋力だ。筋力Dですら人の頭を握り潰せる。具体的な数値は判らないが、人間の頭を潰せるらしいゴリラの握力も、実は1tあるらしいという噂。
Dがゴリラとして、はじめちゃんの筋力はB。…ゴジラ?
因みにステータスは魔力A以外、通常通りだ。
魔改造はあくまで戦闘メインの為、基本ステータスに影響はないそうで。瞬間的にルーンでEXまで跳ね上げるのは可能らしい。
…まぁ、筋力Bな時点でゴリラなのだけれど


「…測定不能で出しておく」


『ありがとうございます。…セイバー、直せる?』


「んー、ちょいと中身を視て…ああ、圧倒的な負荷で機械がショートしてんな。
…マスターちゃん、工房出して良い?それか投影魔術で工具出すか」


『却下。それなら八百万って人に造って貰う』


手の内を曝すなど有り得ない。
故に却下すれば、元々通ると思っていなかったんだろう。はじめちゃんは頷いた


────第三種目、立ち幅跳び


『セイバー』


「抱えて跳べば良いのね?了解。通常?それとも空気蹴る?」


『えっ、何それかっこいい』


「じゃあ格好良いトコ見せちゃおっかな」


宣言通り、はじめちゃんは空中で空気を蹴って移動してみせた。
何でも空気中の魔力を固め、足場として利用しているのだとか。動きは沖田さんの縮地をモデルにしているそうで。ほんとに何でもアリだなコイツ。
足許の魔力を固めるなど簡単で、飽きない限り続けられるという発言から、此処も測定不能となった。
ずっと興味津々な視線を感じるが、はじめちゃんは一度もそちらを見ない。見たら最後、絡まれるというのが判っているのだろう


────第四種目、反復横跳び


流石に殆ど出ていないので、これは自分で出てみた。


『無理…普通にしか出来ない…』


「んー、まぁねぇ…マスターちゃんって身体は脆いもんねぇ…」


苦笑いするはじめちゃんに、お疲れ様と頭を撫でられた。
今回の記録は一番下。トップは葡萄みたいな頭の人で、めちゃくちゃな記録を出していた。
なんだあの高速移動。ちょっとこわい。


────第五種目、ソフトボール投げ


麗日という女の子が測定器を浮遊させ、∞になったのを見て顎を擦る。


『かっ飛ばすか、魔術で浮かすか』


「二回あるんでしょ?試しにどっちもやったら?」


『じゃあかっ飛ばして』


「はぁいはい。セイバーちゃんに任せな」


へらっと笑い、はじめちゃんは手元に打刀を召喚した。
その瞬間に意図が判り、思わず肩に手を乗せる


『待って待って待って待って!!!!使い方ぁ!!!!!』


「えー?バットも刀も似た様なもんじゃないの」


『刀は!!!大事にして!!!!!!』


「ウケるwwwwwwwwwwマスターちゃん必死すぎwwwwwwww」


ゲラゲラ笑いやがるアホが絶対に刀をバットにしない様に、打刀を取り上げぎゅうっと抱き締めた。
そんな私を嬉しそうな、ちょっと悲しそうな、そんな複雑な顔で見たと思えば、はじめちゃんは手元に黒地に青紫とオレンジのラインが入ったバットを投影した。


「これで良い?」


『……うん』


「まったくもう、マスターちゃんったら頭硬いんだから」


『絶対にそういう問題じゃないからね???
…副長と村正に見付かったらどやされるよ』


「わー嫌な面子ぅ、黙っとこっと。…さて、やりますか。
マスターちゃんトス上げてね、僕が適当に打つから」


『はーい。…初めてなんですけど、コツとかある?』


「だぁいじょうぶだいじょぶ、僕も初心者だし。適当に放ってくれれば振り抜けますよ。どんな角度でもね」


『…ああ、確かに』


抜刀自在をこんな事に使うなとも思うが、便利なので黙っておく。
ちょっと離れた所に立ち、私はボールを掲げた


『いくよー』


「はいよー」


ほいっとボールを放る。緩い弧を描いたボールに黒い影が迫った


「そぉらよっと!!!」


思い切り振り抜かれたバットが測定器を吹っ飛ばす。
綺麗に飛んでいったそれに、思わず拍手した


『わー、めっちゃ飛んだ』


「はーいセイバーちゃんホームラン」


『うぇーい』


「うぇーい」


ハイタッチしていると、先生が手元の測定器を覗き込みながら言った


「…925.7m」


『うわ、めっちゃ飛んだね。流石私のセイバー』


「でしょー?僕ってばマスターちゃんの無敵の剣だもの。こんなの朝飯前よ」


ふふん、と得意気なはじめちゃんが可愛い。
格好良いのに可愛い私のセイバーは最強である。
にこにこしつつ、渡された測定器に梵字を描く。


『そーら飛べ』


「わぁ、やる気な〜い」


ぺいっと投げたボールがその場でふよふよと浮かぶ。数秒見つめた先生が、何処か諦めた様な顔で言った


「…測定不能」

















色々やった結果、見事テストで一位をもぎ取った。
勿論私ではなく、はじめちゃんのお陰である


『さっすが私のセイバー!!!大好きー!!!』


「わぁ、マスターちゃんったらだいたーん。僕も大好きよマスターちゃん♡
…でも、人目がある所でやんちゃしちゃダメでしょ?
どうすんのよスカート捲れたら。見た奴斬らなきゃじゃない」


『ぶれねぇwwwwwwwww』


飛び付いた私をしっかり抱き締めつつ注意してくる辺り、斎藤一である。
しかもやんちゃと言うのはスカートでジャンプした事であって、ハグではない辺り斎藤一である。
しっかりスカートを押さえる腕に笑いつつ、ぎゅうっと太い首を抱き締めていると、クラスメイトに話し掛けられた


「ねぇねぇ、その人って白露の個性なの!?めちゃくちゃ凄くない!?」


桃色の髪に肌の、角が生えた女の子だった。
確か名前は芦戸、だったか。酸が個性だった筈。


『うん。セイバーは私の個性。めちゃくちゃ凄いの』


「あんれま、マスターちゃんったら僕の事好き過ぎ」


自分のサーヴァントを褒められて、嫌な気分になるマスターなんて居ないだろう。
故に笑顔で返せば、更にクラスメイトが増えた


「なぁなぁ、あの空気蹴るのってどうやってんだ!?」


赤い髪の男の子、確か切島だったか。個性は硬化。
魔力の話をするべきか。ちらりと視線を送ると、瞬きが二度。方針が決まった


『そのまま。空気(という名の魔力)蹴ってる』


「そうそう。あれって実は目に見えない速度で一回空気蹴ってんのよ。それで固めた空気を蹴って進むの。見えないだろ〜?(適当)」


「すっ、凄ぇ…!!カッケェっす!!!」


「あはは、素直な子だねぇ。騙されない様に気を付けな?」


口から出任せ作戦は無事うまく行った様だ。
へらりと笑うはじめちゃんは私を離すと、鞄を持った。そっと手を差し出される


「さぁてマスターちゃん、仲良く帰るとしましょうか。そろそろ出ないと、タイムセールに間に合わなくなりますよ」


『あ、それは困る。じゃあ、また明日』


「えー!?やっと話せたのにぃ!!!」


「用事あるなら仕方ないよな、また明日な!」


ひらひらと手を振り、教室を出る。
校門を出た所で、音声遮断をした


『…怪しい奴、居た?』


「矢鱈と此方を窺ってる子と、多分僕の倒し方を考えてたんだろうなって子と、めちゃくちゃ周りを見てる子かな」


『んー、はじめちゃん倒そうとしてるのは爆豪でしょ。めちゃくちゃ周りを見てたのは緑のモジャモジャ…緑谷だっけ?
……あと一人が判んないな』


爆豪は判りやすい。二人組の測定は大概ペアだったし、はじめちゃんを一番意識していたから。
緑谷も、クラスメイトの個性の使い方なんかを良く見ていたと思う。ただあの指ぶっ壊し個性は理解出来ないが。ステラ的な個性なんだろうか。
緩く繋いだ手からじんわりと温もりが伝播する。
きゅっきゅと握ると、不言色がゆるりと細くなった


「…次の生くらいは、穏やかに生きて欲しかったんだがなぁ」


『世界に召喚されたっぽいじゃない。抑止力側だろうし、穏やかとか無理』


「……一ちゃん、マスターちゃんのそういうリアリストなトコ好きだけど嫌いだなぁ」


『そもそもサーヴァントが召喚された時点で穏やかとか、無理』


「夢も希望もねぇな」


『そんなもん藤丸に全部あげちゃったよ』


「なんて返しにくいコメントを…」


『ラインアウト斎藤もマスターには気を遣う様で』


「何よその渾名。そりゃマスターちゃんには気を遣いますよ。だぁい好きですから」


きゅっきゅと手を握り返しながら紡がれた言葉に、私は笑った。








世界を跨いで










刹那→マスター
世界を救った後、これまでの無理が祟って死んだ人。座に登録され、ぼんやりしていたら世界に抑止力として召喚された。
魂に聖杯を抱え込んでいる為、魔力は無尽蔵。ただ身体能力は低い。
聖杯が刹那に意思に関係なく魔力を生み出す所為でカルデアでは苦しんでいたが、斎藤が維持するだけで魔力を食うレベルの霊基になった事で、その苦しみから解放された。
刹那が喚べるのはグランド鯖のみ。
魔術は刻印魔術。梵字を刻んで効果を発揮する。
斎藤以外は藤丸のサーヴァント
斎藤以外は簡易召喚。長くは留まれない

斎藤一→サーヴァント
世界を救った後、これまでの無理が祟って死んだマスターの遺灰を飲み込んで消えたサーヴァント。
座に登録された刹那の宝具的な扱い。ポジションはお竜さんと同じ。
沢山頑張ったマスターを、自分が生前過ごした日本家屋を再現してもてなしていたら、召喚された。
本霊達はのんびり座で寛いでいる。
藤丸のサーヴァントに色んな事を教わっていたのは、一人で何でも出来る様になる為。
自分が何でも出来る様になれば、刹那をサポート出来る上に、彼女が魔力を生成しすぎて苦しむ事がなくなると考えたから。
得た知識やスキルを刹那の聖杯を利用して霊基に貼り付ける姿は、サーヴァント達からは大体健気と傲慢の二種類に分かれていた。
健気と断じたサーヴァントからは可愛がられ、傲慢と断じたサーヴァントからは何時か身を滅ぼすぞと警告されていた。
因みに彼が警戒しているクラスメイトはスパイの彼
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