マスターとはじめちゃん
・捏造オンパレード
・主人公の思考回路が若干普通じゃない
私は平安時代より続く陰陽師の一族の出身である。
何でも安倍晴明に連なる由緒正しき陰陽師なんだとか、蘆屋道満に連なる方だとか。京を護ったとか護らなかったとか。いやどれでも良いけれど。
その家は、彼曰く地獄だった。
理由は簡単、私は家の直系として産まれたが────その家の女児は、代々家の信仰する神の生贄となるのが決まりだったからである。
術を修め、純潔を守った十五の娘を新月の晩に神に捧げる。
彼曰く、非常にトチ狂った価値観を、平成の世であるのにしっかり護り通していた屑ども。
確かに今になって思えば時代錯誤も甚だしい。何故あの家だけ平安だったのか。
良く考えると基本着物と狩衣だ。テレビなんてものは存在せず、水も井戸から汲んでいた。電気もない。ただその代わりに動物に化けた手紙が屋敷の中を動き回っていたり、紙の式神がえっちらおっちら桶を運んだりしていたけれど。
「あれ、此処ってテーマパーク?」とは、聖杯によって、私なんかよりずっと現代に詳しかった幕末の人の発言だ。当時の私には判らなかったけれど、今は判る。彼処はテーマパーク。行ったら二度と帰れない感じの。
色々あってジブリ(やみのすがた)から逃げ出した私達は、ふらふらと放浪していた所をとある男に拾われた。
根無し草を拾い上げた男の名は、マリスビリー・アニムスフィア。
かれこれ一年くらい前の話である。
頭を撫でられている感じがする。
後頭部を優しく撫でるものと、背中をぽんぽんと叩くもの。
何時もの感覚に、ゆっくりと意識が引き上げられていく
「刹那ちゃん、おはよ」
低くて甘い声が耳朶を擽る。
目蓋を持ち上げると、不言色の瞳がゆるりと細くなった
『……ぁじめちゃ、おぁよ』
「はい、おはよう。ゆっくり眠れたかい?」
『ん』
私の返事にくすりと笑って、髪を整える様に指を滑らせる。
硬い指先の感触にすり寄れば、また小さく笑う声が聞こえた
「あと五分したら起きようね」
『んー』
たかが五分、然れど五分。
この起床前の五分がとんでもなく至福なのである。
太い首に顔を埋め、ぐりぐりする私の頭をそっと撫でる手。
優しいけれど、寝ない様に背中を叩いてくるので、睡魔が増す事なく起きていられるのである
「そろそろ五分経つよ。起きられそう?」
『ん。ありがとはじめちゃん』
「いえいえ、役得なんでお気になさらず」
にっと笑ったはじめちゃんの腕が離れ、私はゆっくりと身を起こした。
『犬神!』
「余所見すんなよ!!!」
キメラと命名された、ライオンの身体に蛇の尻尾を持つ敵性生物に、魔術刻印に刻まれた大型の犬をけしかける。
犬神に気を取られたキメラの首を、鮮やかな一閃が斬り落とした。
振り下ろした刀が向きを変え、逆袈裟でもう一体を斬り捨てる。
『アグニ!』
はじめちゃんの背後から飛び掛かろうとするキメラに、炎を司る神の梵字を向けた。
宙に展開した術式から生み出された炎が、開かれたキメラの口に飛び込む。
「■■■■■■■■■■■■!?」
粘膜を炎で焼かれるのはさぞ苦痛だろう。
痛みに悲鳴を上げるキメラの首が、輝きが一瞬駆けて胴と離れた。
「あーやだやだ、煩いったらない」
血を拭い、冷え冷えとした輝きを宿す日本刀を鞘に納める。
それから暫し辺りを窺って、敵の気配がないと判断した所ではじめちゃんが振り向いた。
「お疲れマスターちゃん、ご無事?」
『うん。お疲れ様はじめちゃん』
〈戦闘終了だ。お疲れ様刹那ちゃん、藤丸くんとの合流ポイントに向かってくれ〉
『了解』
スーツ姿の彼に駆け寄り、上から下まで確認した。
念の為魔術で怪我がないか視て、ほっと息を吐いた。
『流石にバーサーカー三体は胆が冷える…』
「そぉ?ナイスフォローだったけどマスターちゃん」
『動物は火が怖いって、教えてくれたのははじめちゃんでしょ』
「僕の知識が役立った様で何より」
『あと生き物は剥き出しの粘膜が弱いから、拷問なんかはそこを針で刺しなさいって教えてくれたのははじめちゃんでしょ』
「ごめん待ってそれは覚えてて良いけど口に出しちゃダメなヤツ」
『?』
獣の口を焼くのと人の口を焼く事の何が違うのだろう。首を捻り、はじめちゃんを見上げた
『家では出来の悪い子の舌に煙草を押し付けていたけれど』
「それは拷問です。しかも虐待です。やっちゃ駄目」
『出来の悪い子は目玉に針を刺されていたけれど』
「それも拷問です。虐待です」
『出来の悪い子は夜に大人の上で跳び跳ねる訓練をしていたけれど』
「もう良い忘れろ。あの家の事は金輪際思い出すな」
はじめちゃんは頭を抱えてしまった。
何か彼が嫌がる事を言ってしまっただろうか。首を傾げつつ、差し出された手を握る。
「うーん、マスターちゃんももう少し年相応になれないかね…盾の姉さんだって人間らしくなってきてるんだし、マスターちゃんも藤丸ちゃんや他の人ともっと話してみたら?少しは感化されそう」
『ない。マシュはそうあれかしと願われたモノでしょ。産み出されて、彼と出会って、心が産まれた』
マシュの事情は知っている。
英霊を宿し、デミ・サーヴァントとして稼働させる為に造られたデザインベビー。
この歳まで純粋であれ、無垢であれという願いを受けていたアレは、聖杯と似た様なものだ。
『無垢であれと願われたアレと、神の贄たれと祈られた私。
マシュにはドクターとダ・ヴィンチと藤丸が居るでしょう。私には貴方。
成長速度は人数の差と、自分を大事にする人間と関わってきた時間の差と、個体差であると考慮して』
カルデアの正式なマスターは藤丸だ。理由は召喚システム・フェイトの核を担う大盾を持つマシュと、彼が契約をしたから。
故に、サーヴァントは基本彼の味方である。
勿論二番手である此方が軽んじられているとは言わない。
ただ、感じるのだ。
『ドクターはマシュが大事。だから、あんまり話をする気が起きない。
あの人、マシュを優先する。同じくらい傷付いてる藤丸に、マシュを頼むって言う』
ダ・ヴィンチは、多分私の聖杯が気になっている。
藤丸は同じマスターとして、人として私と会話をする。
マシュは先輩の同僚として私を扱う。多分、同類だと思われている。
…ただ、ドクターは
『ドクターは、いざって時に私を藤丸の代わりにしそう』
「ああ、うん。判る判る。藤丸ちゃんが使えなくなったらさ、マスターちゃんに盾の姉さんとの再契約とかさらっと持ち掛けそう」
『……正直、私とマシュが契約したら事故りそう』
器と人形じゃ中身なんて育つ筈もなく。
それぞれが人と組んでいるから良いのであって、私とマシュで契約なんてすれば、軋轢しか生じないだろう
『あとは……藤丸の盾にされそうだなって』
「──────、」
無言で刀の柄に伸びた手を止める。
その顔を見上げ、びっくりした。
『…今すぐって訳じゃないのに怒るの?』
「お前がそう悟った時点で罪だ。斬る」
はじめちゃんは不言色の双眸をギラギラさせて、吐き捨てる様にそう言った。
ダ・ヴィンチ曰く、聖杯と同化している故か、私は他人の本音に気付きやすいらしい。妖精眼に似たそれを人の感情の機微に疎い私が持っている辺り、皮肉が効いているけれど。
…故に、何となく感じた他者からの感情を口にして、こうやってはじめちゃんが怒るのは、残念ながら初めてではないのだ
『はじめちゃん』
「……なに、マスターちゃん」
『…はじめちゃんは、私が盾にされそうって言ったから怒ってる?』
はじめちゃんが怒ったのは、その言葉を私が口にした時だ。その一言がいけなかったのかと訊ねれば、革手袋に包まれた黒い手が、私の肩に乗せられた。
「…僕がマスターちゃんに怒ってる訳じゃないっていうのは、判るね?」
『うん』
「…僕はね、優先順位を付けた事に怒ってる訳じゃないんだ。人間誰しもそうするから。
ただ、僕が何より大事にしているものを、いざって時に盾にしようなんざ……僕からすれば、到底許せる事じゃねぇ。…判る?」
『…ドクターにとって私は大事じゃないけど、はじめちゃんにとって私は大事?』
与えられた情報を基に仮説を組み立てれば、はじめちゃんは嬉しそうな顔で頷いた
「良く出来ました。
そう、俺はお前が可愛くて仕方無い。だからね、お前には────出来るだけ傷付かず、笑っていて欲しいんだよ」
『ねぇ、藤丸』
「どうしたの、刹那」
夜、はじめちゃんの言葉を思い出し、たまたま見掛けたコーヒー片手の藤丸に声を掛けた。
藤丸立香。正真正銘の一般人で、確か献血をして魔術的素養が見付かってしまい、カルデアに拉致された補欠のマスター。
どんな状況であろうが一般人のままで居る彼の傍に近付くと、そっと訊ねた
『藤丸は、マシュが可愛くて仕方無い?』
「んぐっふ」
藤丸の喉がごぎゅりと妙な音を立て、盛大に噎せた。コーヒーを誤飲したのだろうか。まだ若いのに。
『誤飲は、背中を叩くと良いってはじめちゃんが』
「ごほっ、うえっ、だいじょぶ、誤飲っちゃ誤飲だけどそうじゃないから…!!!」
『そう?』
とんとんと背中を叩くと、直ぐに掌を向けられた。
「誤飲は年寄りがぽっくり逝く原因だからね、若くてもマスターちゃんも気を付けなよ。…頼むから気を付けて。口に何か入れたまま考え事とか絶対しないで。良いね?」とははじめちゃんの言。
そういえば何で私はあんなに釘を刺されたのか。まだ十六なのに。
「あーびっくりした。…それ、斎藤さんが刹那に言ったの?」
『ん。…サーヴァントがそうなのか、性別でそう思うのか、それともはじめちゃんが特殊なのか、気になった』
「あー…」
納得したらしい藤丸が、目尻に浮かんだ涙を指で払った。
その手を捕まえ、眺めた。
藤丸の指は私より太いが、はじめちゃんより細い。はじめちゃんの手は大きくて、筋張っていて、ゴツゴツしている。
『……藤丸って感じの手。ぽかぽか』
「どういう意味?あとこれお宅のセイバーに俺が間男判定されて死にそうで嫌」
『間男』
「浮気相手的なヤツ。斎藤さん来るとさ、健全なボディタッチが一気に修羅場になるよね」
『…私とはじめちゃん、何時結婚したんだっけ。
困った、覚えてない。
ケッコンキネンビは大事って清姫が言ってたのに』
「待って存在しない記憶をそのまま捏造するの止めて???
しかもなにそのチョイス。怖いしか出ないんだけど」
『わたしとますたぁの結婚記念日です♡って清姫に、召喚された日を指差された事が』
「こわいこわいこわいこわい」
怖いも何も、自分が契約するサーヴァントだろうに。せっせっせーのよいよいよい、と手遊びをしながら、口を動かす
『でも清姫と結婚って事になると、藤丸って重婚してる事になるのかな』
「唐突に怖い事言い出したなこの人」
『正妻はマシュで、他のサーヴァントは皆側室…?』
「俺何時から男女混合大奥開いたっけ?」
『私は一夫一妻制だった』
「思いっきりイチャついといて側室居たら、カルデア大奥で死人出そう」
『右見ても左見ても死人なのに?』
「ブラックジョーク止めなさい。サーヴァントの皆に失礼だろ」
そう窘められ、目を瞬かせる。
藤丸の目は真剣で、言葉に嘘はなかった
『…サーヴァントを死人と言うのは、失礼?』
「…それを、俺達が言うのはダメだよ。本当は眠ってる彼等を喚び出して、世界を救う為の戦いなんかに引き摺り出してるんだから」
…世界が滅びれば、サーヴァントの生きた記録も消える。だからサーヴァントが今を生きる人類に力を貸すのは当然だと思うのだが、違うのだろうか。
止めた手を、今度は藤丸が動かし始めた
「じゃあ、斎藤さんの事を死人だって思った事は、ある?」
問われ、視線を宙に向ける。
今日とは違い、月のない夜。
青い魔力の渦に呑み込まれながら生きたいと願った私に応え、手を握ってくれた、あのひと。
────こんなクソみてぇなトコから絶対に逃がしてやる。
無敵の一ちゃんに任せな!!
喚ばれた瞬間に魔力の渦に身を晒され、きっと訳も判らない状況だったろうに、私を安心させる為に笑って見せた、あのひと。
あの獣みたいな笑みを見た時、感じたのは
『────……私より、ずっと人間だと思った』
「…それが、サーヴァントのみんなだよ」
ふわりと笑った藤丸に、静かに目を細めた。
焚き火の灯りが蒼い眼に映り込み、ゆらゆら揺れている。
…こんな男の傍に居れば、そりゃあマシュが人間になる訳だ
『そうやってサーヴァントをたらし込んでるのか。勉強になる』
「待って!!!!すんごい誤解を招く表現されたんだけど!?!?!?」
「でも手ェなんか握っちゃって、随分仲良さそうじゃない?」
「ヒョッッッッッッッッッッ」
『はじめちゃん。お帰り』
「ただいまマスターちゃん、マスターちゃんの一ちゃんですよっと」
私の背中にべったりと大きなものがくっつき、手遊びをしていた手が大きな手に絡め取られた。
頭に顎を乗せてきた為はじめちゃんの顔が見えないが、向かいの藤丸の顔色が青い。
どうしたんだろう、コーヒーに薬でも盛られたんだろうか
「なぁに、盾の姉さんや他のサーヴァントに飽き足らず、僕のマスターちゃんまでたらし込もうって魂胆?」
「違いますぅ斎藤さんが見回りで目を離した隙にそちらのマスターが近付いてきたんですぅ!!!」
「あ?なに??マスターちゃんから目ェ離した僕が悪いって???」
「違いますぅ逃げなかった俺が悪いんですぅ!!!」
「あ゙???
俺のマスター見ただけで逃げるとかテメェふざけてんのか熊じゃねぇんだよ丁重にもてなせや」
「めんっっっっっっっどくさいな斎藤一!!!!!」
頭上でぽんぽんと言葉が飛び交い、ぽけっとそれを聴く。
はじめちゃんはわざと低い声を出したっぽい。それくらいは判る。だって私のセイバーだから。
でも藤丸は青ざめているのに楽しそうだ。顔色悪いのに。
言葉も勢いが良いのに、怒ってないのは何故なのか。
…人間とは、やっぱり複雑で難しい。
はじめちゃんに寄り掛かって、楽しそうな二人の声に耳を傾けた
「貴女はまだ人になったばかり。だからそんなに焦らなくて良いの」
そう言ったのは、アイリスフィールだった。
私と似て、けれど違う人。
聖杯に人格を宿した存在。生きながら、モノに変わってゆく定めのホムンクルス。
『……十六年も生きているのに?』
「物心ついた時から魔術の腕を鍛えていたのでしょう?
だったら、貴女がセイバーを喚んだその日が貴女の産まれた日。だから、まだ一歳よ」
柔らかく微笑まれ、目を瞬かせる。
聖杯の先輩が一歳だと言うのだから、間違いはないのだろう。なら私は一歳だった…?
『…でも、私ははじめちゃんに嫌な思いをさせる。それは良くない』
ふとした発言で彼を傷付ける自分が嫌だった。
その時は何とも思わず口にして、はじめちゃんの表情が曇った事で傷付けた事に気付く。
そして彼から怒った理由は聞けても、どうして傷付いたのかを教えて貰えた試しはない
「…斎藤さんは、貴女が大事なのよ」
『…うん』
「だから、例え貴女の言葉で傷付いたとしても、それは貴女を嫌う理由にはならないの。まだ一歳の貴女になら、尚更」
そっと、純白の衣に包まれた。
頭を撫でられ、はじめちゃんとは違う温もりと香りに目を瞬かせる
「大事な人が少しずつ人間性を獲得していくのは、嬉しい事よ。
それで自分が傷付いたとしても、それは傷にはならないの。私がその言葉を受け止める事で、大事な人がどんどん成長していく礎となれるのなら、とても嬉しい。
こんな事も言われたなって、何時かは笑い話になるんだから」
『…アイリスフィールも、そう思ったの?』
彼女が時折見つめているエミヤというアサシン。
彼からは何となく、アイリスフィールの気配がする。恐らくは生前の関係者だろう。
名前は出さずに聞けば、紅い瞳がゆるりと細められた
「ええ。彼も随分人らしさを失った人だった。
でもそんな彼を好きになった。愛してしまったから、どんなに酷い言葉を投げ付けられても、傷にはならなかったのよ」
『………あい』
新たなワードが出てきた。
大好き、までは判る。
しかし、愛とは。
悩み出した私の頭を、嫋やかな手が撫でる
「大丈夫よ、きっと直ぐに理解出来る様になるわ」
「あー、僕を置いてお散歩に行ったマスターちゃんじゃな〜い。
お帰りぃ、二時間も僕をほったらかして得た自由時間は楽しかった?」
部屋に戻ると、はじめちゃんが五割増しでヘラヘラしていた。なんだかとっても怒っている様だ。
『ただいま。はじめちゃん探したけど居なかったから、探しに行ってた』
「えっ、僕副長に呼び出されたからちょっと行ってくるねって言ったじゃない…副長の部屋、角曲がった先なんだけど…」
『角曲がった』
「…どっちの?」
『出て左』
「右なんだよなぁ………あー、うん。これは僕が悪いな。ごめんよマスターちゃん、方向音痴なのに部屋に置いていって」
そう、私ははじめちゃんを探して部屋を出たのだ。
けれど土方歳三の部屋には何故か黒髭が居て、肝心のはじめちゃんは見付からず。
青にも灰にも見える頭を探していた所をマリーに誘われ、その後アイリスフィールに会ったのである
『アイリスフィールが部屋まで送ってくれた』
「OK、後で菓子折り持ってくわ。
それで、マスターちゃんは僕を何で探してたの?」
『今日のおやつ何食べたいか聞こうと思って、でもマリーとクッキー作ったから、一緒に食べように』
「あ、迷子になった先でクッキー作ったのかぁ…王妃さんにも菓子折り持ってかなきゃな…そもそも端末で連絡くれたら良いんだけどな…マスターちゃんの端末ってばいっつもテーブルで留守番してるもんな…
てかあれだな?これって“(迷った先でクッキー作った後)はじめちゃん(を食堂で)探したけど居なかったから(副長に呼び出された事をすっかり忘れてカルデア内を方向感覚死んでるのに)探しに行って(迷子になって聖杯の姉さんに送り届けて貰っ)た”だな…?
いや僕副長に呼び出されたんだってば…食堂なんか一回も行ってねぇよ今日…何で僕の周りのヤツって自分の傍に僕が居て当然みたいに思ってんの…?どうせ何でアイツ傍に居ねぇの可笑しくね?みたいに首捻ってでけぇ声で名前呼ぶんだろ…?それで飛んでくると思ってんだろ…??
聞こえなかったら行かねぇよお前ら僕を何だと思ってんの…???」
額を押さえたはじめちゃんの頭を撫でておく。彼が良くやる仕草。
今日も頭が痛い様だ、生前は頭痛持ちだったんだろうか
『魔力要る?』
「ん?魔力………ああ、マスターちゃんに撫でて貰ったから治ったよ。ありがとね」
『どういたしまして』
へらっと笑ったはじめちゃんにテーブルまでエスコートされた。
席に着いた所で、魔術で収納率を弄ったポーチから紙袋を取り出す。
『一緒に食べよう』
「じゃあ御相伴に預かりましょうかね。クッキーなら紅茶が良いかな。ちょっと待ってな、用意するよ」
『クッキー、お皿に出す』
「ん、お願いね」
戸棚から紅茶セットを取り出すはじめちゃんと一緒に、小皿を二枚運ぶ。
ティーポットに水を注いだかと思えば、指抜きグローブを嵌めた指先が文字を描いた
「カノ」
『…おお』
一瞬で沸騰した液体に声を漏らせば、はじめちゃんが笑った
「いやいや、このくらいマスターちゃんなら朝飯前でしょ」
『理論は似てるけど、術式と神秘の密度が違うから』
私の扱う刻印魔術は梵字を描き、炎だったり犬神だったりを喚び出す魔術だ。
はじめちゃんが使ったのはルーン魔術。しかも影の国の女王、スカサハ直々に教わっているので、神話の時代に用いられていた原初のルーンである。
その時点で私の魔術とは威力が段違いであるし、使い方によっては霊基の変更や改造まで出来るらしいので、最早違法。
魔術回路を移植した事で魔術を使えるはじめちゃんも、私の魂と同化した聖杯の魔力をリソースとし、ルーンで霊基を拡張しているらしい。
テーブルに置かれたティーポットに、茶葉が投入される。
上へ下へと忙しい茶葉を眺めていると、砂時計を置いたはじめちゃんが笑った
「茶葉が踊るのってなんか眺めちゃうよねぇ」
『踊る』
「上下左右に動くでしょ?それを踊ってるって言うのよ」
『…熱湯の流れに弄ばれている、ではなく』
「はは、凄い喩えするじゃない。良いと思うよ、面白くて」
へらっと笑ったはじめちゃんに、ゆっくりと瞬きする。
はじめちゃんは否定をしない。
変な事を言っているであろう私の言葉を受け止め、笑うのだ。
茶葉が動き回るティーポットを見つめる目は、穏やかだった
『……アイリスフィールに、言われた』
「ん?」
『…斎藤さんは、貴女が大事なのよって』
さらさらと落ちる砂時計を見る。
残り半分を切ったそれは、止まる事なく進んでいく
『だから、私の言葉で傷付いたとしても、傷にはならないって。
…でも、私ははじめちゃんを傷付けるのが嫌だ』
アイリスフィール曰く一歳の私は、人の感情の機微というモノに疎い。その癖に相手が嘘を言えば気付いてしまうのだから、始末に負えない。
『はじめちゃんに悲しい顔して欲しくないし、させたくない。
でも、私ははじめちゃんに悲しい顔をさせる。
……なら、話をしなきゃ良いのかなって思った』
簡単な事だ。
はじめちゃんの表情を曇らせるのが私なら、私が彼に関わらなければ良い。
そう思った。実際今日は土方にはじめちゃんが呼び出されたから、はじめちゃんと離れる訓練には丁度良いと考えた。
『……けど』
はじめちゃんは穏やかな目をしていた。
全てを赦し、受け入れてくれるその眼を見つめながら、口を開く
『………さびしい』
「うん」
『…はじめちゃんと、話したくて。
何時もみたいに、声聞きたくて。傍で、笑ってて欲しくて。頭撫でて欲しくて。
……二時間、なのに。さびしい。…私、役立たずになった』
役立たず。出来損ない。
そんな言葉は白露で当たり前の呼び名だった。鍛練に耐えられない子は役立たず。魔術を指導役の言うレベルで扱えない子は、出来損ない。
……私はきっと、離れるという鍛練に耐えられない役立たず。
目を伏せた時、向かいに座っていたはじめちゃんが立ち上がった。
そのまま大きな身体に包まれ、目を丸くする
「…役立たずなんかじゃねぇよ」
大事な話をする時の低い声と共に、大きな手が優しく後頭部に触れる。
撫でてくれる感触に、おそるおそる広い背中に手を回した
「お前の言葉で傷付いた事なんかない。そりゃあ返しに困る事もあるが、刹那と離れてぇなんて、一度も思った事ねぇよ」
『……傷付いてないは嘘』
「んー…傷付くっつーか、ちょっとショック受けるっつーか…そういうのはあるさ。そりゃあな、俺だって人間でしたし?ご立派な性格もしてねぇモンで。
けどな、それがお前の言う傷付けた、だとして。
その傷は、直ぐに瘡蓋被っちまうんだよ。…大事な大事な、傷痕になるんだ」
『…傷痕が、大事?』
「そ。お前が俺に傷を付ける度、お前は少しずつ配慮とか思いやりとか、そういうモンを学んでいく。
俺の傷は、お前がしまったって顔をしたその時に、もう薬を塗られてんのさ」
首もとに顔を埋め、深く息を吸い込む。
はじめちゃんの匂いが肺いっぱいに広がって、何だかとても落ち着いた
「この傷痕は、お前が人間らしくなっていく過程だ。可愛くて堪らねぇお前が成長していく為の糧になれるなら本望。
だから…離れてくれるな。
これからもずっと、傷痕をくれよ。俺だけに」
きゅっと抱き込まれ、蟀谷に頬を擦り寄せられる。
…甘えても、良いのだろうか。
首もとにぐりぐりと顔を押し付ければ、柔らかい声が笑った
「はは、じゃあ仲直り…仲直り…?って事で。ティータイムと洒落込みますか」
『……ふふ』
腕の中で目を閉じる刹那を、静かに眺める。
俺にしがみつきすぅすぅと眠る姿は、仔猫の様で愛らしい
────私ははじめちゃんを傷付けるのは嫌だ
此方からすれば、願ってもない傷だというのに。
そんな下らない事を思い悩み、勝手に俺から離れようとしたマスター。
恐らくマスターちゃんの過去を知らない人間が聞けば、彼女を即人でなしと判断するであろう言葉を投げ掛けられた時。
俺が返事をどうするか考えていると、確かにこの子は表情を固くして、何処を間違えたかを訊ねてくる。
俺としてはそのしまった!という顔が可愛いので、傷付いたも何もないのだが。
今回は言われた方ではなく、言った方が覚えている上に気にしていたらしい。
距離を取ろうとした様だが、日々の甘やかし作戦が上手く行った様だ。マスターちゃんは二時間俺と離れる事も耐えられず、すり寄ってきた。
「……可愛い僕のマスターちゃん」
お前が俺を糧として、人間性を得ていく姿は堪らない。俺から得た経験値を元に、誰かと当たり障りのない会話を成立させている姿はとても心が満たされる。
嗚呼、でもまだだ。
まだ足りない。
お前を形作るもの全てを、俺に出来れば良いのに。
そう考えながら艶やかな黒髪に指を通し、ふと思い至った
「……そうか。マスターちゃんってば、飯食うよなぁ」
あの家から連れ出した時は、聖杯の知識をフル活用して俺が飯を用意していた。
それどころか、魔術以外何も知らないこの子の衣食住全てを、俺が。
…そうだ、あの時はきっと、今よりずっと。
刹那の身体は俺で充たされていたのだ。
「……弓兵の旦那か、紅閻魔の女将さんか。バーサーカーは話が通じんし、その辺りだろうな」
食堂担当と言っても差し支えないサーヴァント達を思い浮かべ、師事しやすそうな人物をピックアップする。
今のマスターちゃんは腕に覚えのあるサーヴァント達の料理に慣れてしまっているから、戦場仕込みの俺の料理では満足出来ないだろう。
それなら料理自慢のサーヴァントに教えを乞い、スキルを身に付けるのみ。
それで少しずつ、俺が料理を与える様にすれば良い。
一年前程とはいかずとも、この華奢な身体を俺が与えるものだけで構成する事が出来れば────
「……嗚呼、喉が渇く」
可愛くて堪らねぇこの子には絶対に聞かせられない声が、小さく溢れた
足りない主と可笑しな騎士
白露刹那→マスター
サーヴァントは斎藤一のみ。
新月の夜に神様(聖杯)に鍛え上げた十五の娘を捧げるという儀式を続ける家に産まれたのが運の尽き。
生贄にされ、聖杯の中に放り込まれた。
そこで生きたいと願い、相性の良さから魂に取り込んでしまった聖杯を通じて斎藤一を召喚。家を出奔。
マリスビリーに拾われ、カルデアへ。
身に合わない魔力生成装置を魂に抱え込んでいる状態なので、魔力過多で苦しむ事が多かった。
しかし斎藤の霊基拡張により、求められる魔力が増えた事で魔力過多に陥らなくなった。
人間性が欠落している所為で、人を怒らせる事が多い。人の舌に煙草を押し付けるのも、猛獣の口の中に炎を投げ込むのも何の躊躇いもなく出来る。違いがいまいち判ってなさそう。だって家の人間がやっていたので。
ただ聖杯と同化している事で妖精眼に似たものを持っているので、自分の発言が人を傷付けているのは察している模様。
どの辺りでぶった切ったかは判っていないが、以後気を付けたい気概はある。
不意打ちジャックナイフの被害に一番遭っているであろう斎藤を案じたものの、本人から「気にしないでもっと傷を頂戴♡」と言われびっくりした
斎藤一→サーヴァント
刹那が生きたいと願い、召喚したサーヴァント。魔力の坩堝の中に召喚され、良く判らんがマスターを助けるべきと考えどうにか救出。
意識を失ったマスターは知らないが、白露の人間を皆殺しにした。
ただ一騎だけのサーヴァントだからか、マスターを護る為なら文字通り何でもする。
本来の斎藤一には存在しない魔術回路を移植し、スカサハに師事して原初のルーンを習得。
これから料理を習おうかと考えている。
マスターの髪の先から爪先まで自分が管理して自分が与えた物で構成したいタイプ。
彼女が向けてしまった人でなし発言を、「ああ仔猫の甘噛みね。いっぱい噛みな〜?」くらいの感覚で受け止めている。
悪意がない(というか思った事を言っただけ)というのを理解しているので、「あ、そう思った?実は僕も〜」とか思っていたりする。此方はナチュラルに性格が悪い。刹那の人でなし発言は、彼女の本音を探るのに便利と考えている節すらあり。
でもこれで人間性を獲得したら刹那の本心は見えづらくなりそうなので、妖精眼も欲しいなと思っている。
習得した技術をルーンでスキルとして己の霊基に貼り付けていくので、彼の存在は酷く不安定。本来なら既に崩壊するレベル。
ただ聖杯という巨大リソースと契約している様なものなので、可笑しな規模の霊基が安定してしまうという悪循環。
土方や沖田は、どんどん霊基を歪にしていく斎藤に思う所がある模様。
藤丸→マスター
カルデアの正式なマスター。
相方のマスターが人間歴一年なので、割りと振り回されるが妹だと思って接する。
しかし過度な接触はセイバーストップが入るので注意。
アイリスフィール→サーヴァント
過程は違うが結果の似ている刹那を気に掛けている
マリー→サーヴァント
刹那が幼い子供に見えている
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