政府職員とはじめちゃん3
・捏造パレード
某日、キャスター・メディアのマイルームにて。
「覚悟は良いわね?斎藤一」
「勿論。何時でも良いですよ」
手術台の上に下着のみで横になった男は、相も変わらずへらりと笑った。
そんな男を見てメディアは溜め息を落とし、施術をサポートするレオナルド・ダ・ヴィンチはくすりと笑う
「虚勢かと思ったが、どうやら本当に心が決まっている様だね。それもサムライの精神性というヤツかい?」
「というか、僕の気の持ち様ですかね。
こうすると決めれば、それを成すまで揺らがない。それが生き延びる鉄則ですよ」
「流石、大立ち回りを繰り返したのに大往生した激レア英霊は言う事が違うね。覚えておくよ」
「何ですかそれ。こんなマイナー剣士を激レアって」
ダ・ヴィンチは機材を準備しながら、斎藤の言葉に指を踊らせた
「戦いに出る者は、大概太く短く生きるだろう?
その点君は、何度も刀を振るいながら平穏な日常に戻り、最後には畳の上で息を引き取った。
…いや普通に居ないんだよそんな英霊。
きっちり大きな戦いに出ておきながら孫まで居るとか……君大分可笑しいな???」
「万能の人に可笑しい認識されるとか光栄だなー」
「私も貴方は大分頭が可笑しいと思うわよ。マスターの為に魔術回路の移植を思い付く酔狂なんて、そうそう見掛けないもの」
「わー、コルキスの王女にまで可笑しい認識されるとか光栄だなー」
斎藤の笑みが引き攣った所で、メディアは長方形のケースを載せたラックを押してきた。
留め具を外し、蓋を開ける。
中に入っていたのは、うっすらと青紫の光を纏う細い紐状のものだった。
無数にあるそれを一本つまみ上げ、斎藤に見せる。
「今から貴方に、これを移植するわ」
「ええ」
「前にも説明した通り、魔術回路の移植は臓器移植に近い。
だからこれは────貴方と一番相性が良いだろう彼女から、提供して貰っているわ」
「は、」
斎藤の表情が凍り付いた。
魔術回路の手配は此方ですると、メディアは言っていた。斎藤の身体に馴染む可能性を上げる為に、彼の霊基情報を取り込んだ魔術回路を作ると、そう聞かされていたのだ。
斎藤の霊基情報を基盤として魔術回路を作成し、それを増殖させる、と。
────彼女を材料にするなんて話は、一度も
「てめぇ、何でマスターを────」
飛び起きた斎藤が日本刀を喚び出す寸前、静かな声が空気を震わせた
『私が頼んだ。はじめちゃんの魔術回路の材料になりたいって』
奥の部屋から姿を現したのは、斎藤のマスターだった。
少女はコツコツと靴底を鳴らしながら手術台まで近付くと、小さな手で斎藤の肩を押す
『横になって。メディア、最初はどっちから?』
「右かしらね。…白露、貴女斎藤に説明してなかったの?」
『…此処まで怒ると思ってなかった』
「刹那ちゃん…君ホントそういう所だよ?
何で妖精眼に似た眼を持っててそうなるのかな…」
『千里眼持ちは清廉だけど非人間的って聞いた。多分同じ系統』
「判ってるならもう少し斎藤くんに寄り添いなさい。ちょっとこれはあんまりにも可哀想だ」
ダ・ヴィンチに言われ、静かに視線を向ける。
此方を瞳孔の開いた目で睨み付ける男と視線を合わせると、白露は口を開いた
『はじめちゃんが魔術回路を移植したいって言ってるのをメディアから聞いた。
それで、材料になりたいって私が頼んだ』
「……理由は」
今生に於いて、斎藤一が何を最も大切にしているか、判らないなんて言わせない。
何より慈しみ、護りたいものが自ら傷を作ったとなれば。そしてそれが自分の所為だとなれば、男は今すぐにでも腹を切りたくなってしまう。
全容を掴めずとも、どうして怒っているかはうっすら悟っているであろう少女は、静かに目を眇めた
『理由?そんなの』
菫青の瞳にちろりと、微かな焔が発露した。
普段より凪ぐばかりの瞳に浮かんだ色を読み解こうと、斎藤が顔を覗き込む前に、唸る様な声が鼓膜を震わせる
『貴方という存在を犯すのは、私が良いからに決まってるでしょ。
貴方は私のものなんだから』
「───────、」
やられた。
直感的に、そう思った。
とすっと心の柔いところを射貫かれた。
そんな────独占欲に塗れた声と言葉を投げ付けられたら、拒める筈がないというのに。
抵抗も出来ず、無言で台の上に身を横たえた斎藤を見下ろして、白露は満足そうに微笑んだ。
一連の流れを静観していたダ・ヴィンチがくすくすと笑う。
「おやおや、無敵の剣も主の前では形無しだねぇ」
「…こんなの、勝てっこねぇでしょ…」
まだ感情の複雑さなんかは理解出来ていない癖に、斎藤の身体を犯すのは自分が良い、なんて。
お前は私のものなんだから、なんて。
そんな事を言われてしまえばもう、堪らない。
冷たい焔の様な独占欲が、単純な愛の言葉よりもずっと深く刺さってしまって、斎藤は腕で目許を隠して動けなくなった。
重い、なんて思わない。
ただひたすらに、主からの執着に歓喜しか湧かなかった。
それでもプライドが邪魔するのか、弛んだ顔を白露の前で隠す男を見下ろして、メディアが鼻を鳴らす
「はいはい、御馳走様。
じゃあ────だぁい好きな主サマに見つめられながら、骨の髄まで犯されなさいな」
『………』
おっっっっっっっっっっっも。
はじめちゃんもだが、私も重…
今日の夢の感想はこれである。
なんだ、犯すのは私が良いって。
大分とんでもない発言をしてるの判ってるんだろうか。いや、判ってなかったんだろうな。
だって私、ずっと無表情だったし。
自分が出ているドラマを見ている様な気分だったけれど、起きてから冷静に考えると恥ずかしさと居たたまれなさが凄い。
前世の私、色々とアレ過ぎやしないか…
メディアって人もそうだけど、女の子が犯すとかホイホイ言うんじゃないよ…
布団の中で頭を抱えつつ、目の前ですやすやと寝息を立てる元凶を見上げた。
コイツだ、朝からステーキみたいな記憶見せてきたの…
私もやばいが、あの重い発言でアホほど喜んでるこの男もやばい。
やっぱりなぁ、重いんだなこの人…
溜め息を落とし、はじめちゃんが起きるまで抱き枕として過ごした。
『どう思いますか班長。朝からこんな夢見せられた私の気持ち』
「おっっっっっっっっっっっっっっっも…」
『正解。もう…自分が重いとかしんどくて…』
「あー…それな…自分が夢でやらかしてると居たたまれなさあるよな…」
「えー、あれすっごく嬉しかったんだけどなぁ」
頭を抱える班長と私を、本日はスーツと眼鏡姿であるはじめちゃんはヘラヘラ笑っていた。
一緒に書類整理するみっちゃんは苦笑している
「光忠、お前判る…?」
「刀としては、主に執着されるのが嬉しいのは判るよ。モノはどんな形であれ、主に触れて貰えるのが嬉しいからね」
「人の身を得た状態で言えば?」
「うーん……ちょっと、重たいかなぁ」
「『だよね』」
「あっはっはっはっ」
マスターとサーヴァントは、夢という形で記憶の共有をする事がある。どうやらはじめちゃんはあの記憶を私と見る事が出来て、大層嬉しかったらしい。
笑い声を上げながら、さくさくと書類を片付けていた。そんな彼の手が、二枚の書類を手にして止まる
「あ、班長。この演練って何です?あと現世遠征って」
「ああ、演練ってのは一部隊対一部隊の戦闘訓練だよ。相手はあちこちの本丸だったり、各部署の刀剣男士だったりする。
お前も大分周りに周知されたから、そろそろ表に出しとこうと思ってな」
『鬼神丸ちゃんの刀種は打刀?』
「そうよ。僕のは打刀と長脇差」
「刀装は竜胆が見繕ってやれ」
『はーい』
鍛刀した刀剣男士に持たせる為に、一通りの刀装は作ってあった。
デスクから黄金色の玉を何個か出して、付いてきたはじめちゃんに見せる
『鬼神丸ちゃん、刀装どれが良い?』
「一応資料は読み込んだけど、刀剣男士として戦うのは初めてだし…マスターちゃんのオススメとか聞きたいかな」
『私?投石ガン積み。槍兵は動く前に殺せって堀川さんが』
「わぁ、殺意高い」
「堀川くん…それ池田屋がトラウマなんじゃ…」
『それか…遠戦ナシなら盾兵かな。攻撃とかは馬と宝物でどうにかするとして、兵の数はどうしようもないし。
出来れば傷も負わずに戻ってきて欲しいから、やっぱり盾兵かなぁ…』
勿論お守りは極を持たせるつもりで。それでもやっぱり心配だし、そもそもお守りを切る様な怪我を負って欲しくない。第一サーヴァントのはじめちゃんにお守りが効くかも判らないし。
なので一番兵数の多い刀装が良いと口にした結果、目の前を薄紅色が過った
『え?……あ』
「……やめて。此方見ないで」
革手袋で口許を隠したはじめちゃんが、視線を他所に向けていた。
ただ、黒い手と短い髪から覗く目許と耳は真っ赤である。
彼からひらひらと舞っているのは誉桜。
サーヴァントではあるが、彼はルーンとやらで自身を刀剣男士に寄せているらしい。
つまりこれは、嬉しかったから舞っているという事で。
『桜出る程嬉しかったの…?あんな当たり前の事が…?』
「マスターちゃんならそう言ってくれるって判っててもさ!やっぱり言われたら嬉しいでしょ!?」
「ああ、判るよ鬼神丸くん。判っていても言葉にして貰えると、やっぱり嬉しいんだよね」
「だよね!?ほら!!マスターちゃんだって僕が好きって言ったら嬉しいでしょ!?
そういう事だよ!!僕はそれで桜が出ちゃう仕様なの!!!」
『……刀剣男士って大変だね』
「そうなんだよ。嬉しい事があると桜が勝手に出ちゃう時があるから…バレるとちょっと恥ずかしいよね」
「ほんとそれ…僕なんか最近しょっちゅう桜出ちゃうんだよね……それもそこのマスターちゃんが良く考えずに本音ばっかりぶつけてくるから…」
『オイ人を脳直の馬鹿みたいに言うな』
「脳直じゃん…脳直本音しか言ってこないじゃん…」
失礼な。
額を押さえたはじめちゃんに眉を寄せつつ、今日の仕事の確認を行う。
本日のノルマは富士札三枚と依頼札十五枚。
なんだか少し、少ない気がする
「そうだ竜胆、今日の演練はお前が引率な」
『良いんですか?』
演練会場は今まで行った事のない場所だ。
館内説明で耳に挟んだ程度。理由としては毎度お馴染み、私の霊力過多である。
「ああ。鬼神丸の戦い方も見ておいた方が良い。
鬼神丸も、刀剣男士の部隊戦闘を一度やっておいた方が粗が出なくて済むだろ」
「そうですねぇ。僕がやったのって燭台切ちゃんとの一騎討ちだけですし、集団戦闘を経験出来れば有り難い。
…というか、僕って刀装起動出来るのかな?」
『あ』
「僕達は装備すれば自動で刀装が起動してくれるけど…どうだろう、一度装備してみたら?」
「そうだね。マスターちゃん、なんか適当に選んで」
『はい』
差し出された黒い手に黄金色の玉を乗せた。
野球のボールくらいのそれを手にしたはじめちゃんが、居心地悪そうに口をもにゃもにゃさせる。
またひらひらと舞う桜の花弁を捕まえて、私は溜め息を吐いた
「僕のマスターちゃんがどんな時も盾兵渡してくる…」
『はいはい、鬼神丸ちゃんは一度私と愛してるゲームでもして桜のコントロール覚えましょうね』
何気無く口にした瞬間、はじめちゃんの動きが止まった。
それから白い肌が一瞬で真っ赤に染まる
「あい…、っ!?
待ってマスターちゃん、それはマスターちゃんが死ぬ。
一瞬で部屋が桜まみれになるよ!?窒息するよ良いの!?」
『嘘じゃん、私の命が人質に取られた』
愛してるゲームとは、名前そのままお互いに愛してると言い合うという、顕現したてで誉桜のコントロールが出来ない刀剣男士定番の感情制御トレーニングである。
え、なに?何をどうしたら盾兵持たすってだけで桜が出る程喜べるの?
愛してるって言ったら、私が死ぬ程桜出すの…?
はじめちゃん、言わないだけでぐちゃぐちゃ色々考えた結果、私の些細な言葉に物凄く反応する様になってない…?
「まぁ盾兵持たせるって言っただけで桜出してるもんな…確か桜って、めちゃくちゃ嬉しい時にしか出ないんだろ?
……うわ、なんか単純に喜んでるっていうより、ぐちゃぐちゃ考えた結果喜んでそうで怖いなソイツ」
『あ、やっぱり班長もそう思う?
鬼神丸ちゃんって、ヘラヘラした奥でぐっちゃぐちゃな感情持って生きてそう』
「あー…判る…だってお前の為に死ぬかもしれない施術受けるし、同じ痛みだね♡嬉しい♡とか考える奴だろ?おっっっっも…
可哀想な竜胆、こんなすんげぇ湿度の男を引っ掛けてるとか…前世で何したの?」
此方に可哀想なものを見る目を向けてきた為、仲良く話していた班長は一瞬で敵になった。
あんた他人事だと思ってそんな顔しやがって。
『前世で…聖杯っていうのを取り込んじゃったらしいです。鬼神丸ちゃんはそれに住んでるんだとか』
「え、曰く付きのモン取り込んじゃったの?」
「違いますよ。聖杯取り込んだマスターちゃんが僕を召喚して、その聖杯に僕が収まってる感じ」
「ああ、お前が曰く付きなのか」
『娘を曰く付き扱いすんなインテリヤクザ』
「父親を反社扱いすんな呪物」
「wwwwwwwwwwwwwww」
『「いやお前が原因なんだが???」』
度々思うがはじめちゃんは沸点が低い。
コイツしょっちゅう笑ってないか。というか原因お前なんだが???
「はい竜胆、演練に行く時に注意する事は?」
『えーと、雑面をする』
「そう。お前みたいな若いのは狙われやすい。
大丈夫だとは思うが、鬼神丸と光忠と…大典太かな。なんか悪いのが憑かない様に見張ってくれ」
「了解」
「オーケー、任せてくれ」
「任されよう」
はじめちゃんに後頭部で紐を結んで貰い、ひらひらした白い布で顔を隠す。
目の部分に開けられた穴から周りを見るそれは、確かに女の人がしているイメージがあった
『鬼神丸ちゃんってコートとスーツ、どっちが刀剣男士っぽい?』
「スーツ見たらコートは極っぽいよな」
『じゃあスーツかな。鬼神丸ちゃん、そのまま行こ』
「はいよ」
頷いたはじめちゃんの腰のベルトには、金色のプレートが飾られていた。
そこには盾の文字が彫られた丸が三つ。隣には、花柑子の文字を囲む馬と茶器のシルエットが刻んである。
『そういえば刀装三つって大丈夫…?打刀って極じゃないと皆二つじゃなかったっけ…?』
「そこはほら、特殊個体でゴリ押せ。そもそもソイツ、ステータスだって大分無理あるんだよ。
極150の光忠伸すレベルだぞ。初のステータス記載にしてはあるけど、向き合った相手には絶対極レベルだってバレるだろうし」
「そりゃ強いさ。だって僕完全体だもの」
ふふん、と得意気に言うはじめちゃんが可愛い。
でも本来なら謙遜してそうなのに、こんなにも自信たっぷりに振る舞っているのは、やはり私の唯一のサーヴァントだったからなのだろうか。
「このひよっこはアンタをどんだけ育てたのよ…」
「えー?レベル120宝具マスキルマ金フォウマ足跡マ絆マアペンドクラスコグラスコフルオープンコマコは宝具クリティカル全振りのグランドセイバーですが、何か?」
「何今の。スタバの呪文?」
『スタバって何?』
「ああ、お前現世行った事ないもんな。
カフェの注文だよ。次の現世遠征の時に鬼神丸と行ってこい」
そういえばさっきはじめちゃんが現世遠征について触れていたな。
後で細かい所を確認しておこう。
そう思いながら、隣に立つはじめちゃんを見上げた
『じゃあ私の無敵の剣。強い所を見せてね』
彼の剣は綺麗だから、楽しみだ。
目を見開いたはじめちゃんは、一度懐かしそうに目を細め、それから強気に口角を吊り上げた
「仰せのままに。期待しててよ、僕のマスターちゃん」
はじめちゃんに手を引かれながら、演練会場に向かう。ちらちらと視線を感じているであろうはじめちゃんは、そちらに目を向ける事なく歩いていく。先輩達の護衛刀も皆そうなので、これが正しい反応なのだろう。
私はといえば、視線が気になって仕方がない。
これって私が審神者に見えているんだろうか。先輩達の護衛刀をお預かりしているのだ、しっかりしなければ。
背筋を伸ばしてせめて可笑しくない様に振る舞っていると、くすりと笑う声がした
「そんなに気張らんでも良いでしょ。気楽に行こうや」
『でも、今の私は皆の審神者代わりだし』
「鬼神丸の言う通りだよ、ちび。んなに気ぃ張らずに自然にしとけ」
「そうそう。ほら、あっちの審神者はへし切長谷部に怒られているだろう?
大丈夫、自然体で良いんだよ。君に可笑しな所はないさ」
先輩達の同田貫さんと日向さんに言われ、肩の力を抜く。
日向さんの言う通り、少し離れた所で中年の男性がへし切長谷部に凄い剣幕で詰め寄られていた。
いや、何したんだろうあの人。
興味をそそられつつ、受付を終わらせる。
『うわ、強い部隊ばっか』
「どれどれ……ああ、レベル高いのばっかだね」
演練は休憩を挟みつつ、振り分けられたグループ内の部隊と戦闘するのがルールだ。
本来は審神者証に記載された審神者レベルなるもので相手を選ぶが、政府職員は審神者証を持っていない為、刀剣男士のレベルが選考基準になる。
我等書字班の護衛刀は皆極開花済みなので、相手は軒並み上級ランク。
というか極開花の中に特99のはじめちゃんが入ってるの面白いな。
『鬼神丸ちゃんのレベルでちょこっと対戦相手の総合レベルは落ちるんだろうけど…』
「なんだろう、騙してる感じが…」
「えー、二人ともひどーい。僕ってば顕現したての新人なのに」
ヘラヘラしながら言うはじめちゃんを、みっちゃんと共に無言で見つめた。
いやあんたが一番レベル詐欺。特のフリした極とか最悪なんだが。
私達の視線の意味を察していながら、はじめちゃんはヘラヘラしている
「竜胆、俺達は第五演練場だそうだ。そろそろ移動しよう」
『はい』
大典太さんに促され、全員で移動を開始した。
個別に分けられた演練場に入れるのは、刀剣男士とその主のみ。付き添いをする事の多い政府職員はその限りではない。
政府職員の職員証をカードリーダーに翳せば、演練場に繋がるゲートが開いた
「へぇ、随分ハイテクだねぇ。あちこち和装が居るから、機械的なものじゃなくて呪術でどうにかしてるのかと思ってたよ」
『適材適所ってヤツだよ。呪術も魔術も仙術も使ってるって聞くし』
「特に政府関連は歴史修正主義者に解析されない様に、定期的に術式を組み替えてるって話だよ」
『警備部とか大変そう』
細かいペースは知らないが、結構な頻度で政府関連の建物の結界を張り直していると聞く。
機材類も定期的にアップデートしているし、セキュリティ関係は大変そうだ。
ゲートを潜った先、青空とだだっ広い平野が現れ、思わず声が漏れた
『演練場ってこんななんだ…』
「ああ、マスターちゃんも僕と一緒で初めて?お揃いだね」
『ん。お揃い』
隣のはじめちゃんと笑いつつ、周囲に目を配る。
点在する岩が複数。それ以外は馬が走りやすそうな開けた戦場だ。
《審神者様は演練場中央へお越し下さい》
『行ってくるね』
「ああ、気を付けてね」
「え、僕着いていっちゃダメなの?」
「僕らは此処で待機だよ、鬼神丸さん」
「えー…」
ごねて日向さんに宥められているはじめちゃんに笑いつつ、演練場の中央へ向かった。
対戦相手はにこやかな男性だった。
互いに軽く会釈をし、直ぐに捌ける。
手も握らずただ名乗って戻ったというのに、出迎えたはじめちゃんは心配そうな顔をしていて思わず笑ってしまった
『鬼神丸ちゃん、顔』
「いやだって護衛も無しに知らない奴と対峙させるとかナイでしょ。…はい、コレ持ってて」
『ん?』
難しい顔をしたはじめちゃんに手渡されたのは、小さな刀だった。
丸に九枚笹の家紋が金色で小さく彫り込まれた、黒い柄の刃先に布を巻き付けた小刀。それを眺める私に、はじめちゃんは打刀を見せてきた。
鞘の側面、本来は埋まっているであろう小柄櫃が空っぽだ
「僕の刀装具。小柄だけどちょっと細工してあって危ないから、布で巻いてるの。
…何かあったらそれに霊力を込めて。
前はマスターちゃんが僕を強引に引き寄せるのも出来たけど、魔術刻印のない今のあんたじゃ出来るか判らないからね」
こそりと落とされた言葉に首を捻る。
魔術刻印ってなんだ。刻印って事は、刺青…?
肌に書き込むとか怖いなと思いつつ、小柄を袖の内側に固定した。
それを見たはじめちゃんが満足そうに頷いて、へらりと笑う
「じゃ、行ってきますかね。マスターちゃん、エール頂戴」
『頑張って鬼神丸ちゃん。…皆も、勝ちを願ってます』
「ああ。格好いい所を見せないとね」
「おう。さて、斬り込み隊長は俺で良いんだよな?」
演練場の舞台に上がる皆を見送っていれば、ぽんと頭に掌が乗せられた。
見上げれば不言色が在って、ゆるりと細められる
「見ててね僕のマスターちゃん。あんたの剣が無敵だって事、証明してやるよ」
『────うん、信じてるよ』
はじめちゃん、と口だけを動かせば、はじめちゃんは眼を見開いたままでにいっと嗤った。
……あれ。もしかして、対応ミスった?
「串刺しといくかぁ!!!!」
相手の刀を打刀で弾き、左手で抜いた長脇差で胸を一突き。吐血した相手を蹴って長脇差を引き抜くと、背後から斬り掛かった極短刀の首を振り向き様に一閃。
幾ら刀剣男士とはいえ、朗らかに笑っている印象の子供の首が飛ぶという衝撃的な光景に、思わず言葉を失った。
きろりと不言色が周囲を確認して、大太刀と鍔迫り合いをするみっちゃんを見付けると、にいっと歯を剥いて嗤った。
たん、と革靴が地を蹴る。
大太刀の背後を取ると、遠慮も何もなく鬼神丸国重を振るった。
呻き声を上げた大太刀の隙を見逃さず、みっちゃんが素早く斬り捨てる。
「ありがとう鬼神丸くん!」
「お気になさらず。さぁて次は…っとぉ!」
はじめちゃんが打刀を手に背後に身体を向けた。その瞬間、極短刀の刃が鬼神丸に叩き付けられる。
奇襲を防いだはじめちゃんの背後に、小さな影
「甘いっ!」
『鬼神丸ちゃんっ!』
「──────盾兵、出ろ」
背中に振り下ろされた白刃を、展開した盾兵が防いだ。一瞬で消えた盾兵の背後から突き出された長脇差が、刀を弾く。
大きく腕を上げた状態となった極短刀をみっちゃんが斬り伏せる間に、最初に奇襲を掛けた極短刀が距離を取る。
その背後から音もなく迫っていた堀川さんが、静かに刀を振り下ろした
「闇討ち、暗殺、お手の物ってね」
「あんれま、獲物取られちまった」
「僕の相手を斬っておいて良く言いますね」
「だって僕の初陣よ?マスターちゃんに格好良いトコ見せたいじゃない」
「判るよ鬼神丸くん、主には格好良い所を見て欲しいよね。初陣なら尚更」
「でしょお?燭台切ちゃんってば判ってるぅ!」
『………』
相手を斬り捨て、その場で和やかに会話しているのが普通に怖い。
だって彼等の足許に倒れているのだ。血塗れの刀剣男士が。
演練の仕様で傷は治るけれど、それでも今の彼等は重傷なのである。
何とも言えない表情であろう私の許に、戦いを終えた刀剣男士達が戻ってきた
「マスターちゃん見てた?誉取ったよ」
『凄かったよ鬼神丸ちゃん。皆もお疲れ様でした』
「あれ、なんか浮かない顔してんね。どうかした?」
『…いや、凄かったなって』
ダイナミック斬首とか生まれて初めて見た。
他の皆の落ち着き様から考えても、きっとその程度は良くある事なんだろうというのがまた地味に怖い。
ああ、彼等は人じゃないというか、私と感覚が違うんだな、と改めて感じた。
二、三、四戦と演練を終え、午前の最終戦。
相手は細身の短髪。雑面を着けていて顔は判らないが、背が高いので、恐らく男性だろう。
『宜しくお願いします』
「此方こそ」
差し出された手を握り、そこで感じた霊力に違和を覚えた。
……この霊力、何処かで。
違和感を探る前に手は離れ、男性は直ぐに戻っていった。
遠ざかる背中を暫し見つめてから、私も舞台を降りる。
戻った途端、此方をずっと見守っていたのだろうはじめちゃんに秒で絡まれた
「マスターちゃんどうしたの。なんであの男をずっと見てたの」
『疑問符付けて怖い』
「何かされた?可哀想にじゃあ斬ってくるね?」
『疑問符付けないで怖い』
「鬼神丸さん、落ち着いて」
目を見開いたまま口角だけ上げるはじめちゃんに、苦笑いした堀川さんが声を掛けた。
此方を疑う様に眉を寄せるはじめちゃんのスーツをそっと引き、耳を寄せて貰う
『あの審神者の霊力、なんか引っ掛かる。警戒しておいて』
「了解。周りには伝える?」
『……良いや。だから、鬼神丸ちゃんが護って』
後で要注意人物の霊力を纏めた札を確認するが、思い出せないという事は大して嫌な思いはしていないという事だろう。
そんな中途半端な状態で、先輩達の刀剣男士に頼るのも気が引ける。
故にそう判断すれば、はじめちゃんは満足そうに笑った
「勿論。僕があんたの剣だもの」
『…戦闘中に喚び出したらごめんね』
「良いよそんなの。マスターちゃんの安全が大事だし」
そう言ったはじめちゃんは、皆と共に舞台に上がった。
戦闘開始を告げるアナウンスの後、演練場は一気に砂煙と轟音に包まれる。
遠戦の始まった戦場を見つめていれば、隣に音もなく人の気配が現れた
「鬼神丸国重」
長い着物の袖に指先を隠したまま、小柄を握る。
視線は戦場から動かす事なく、男の言葉に耳を傾けた
「初の姿でありながら、戦闘能力は極開花済みの刀剣男士をも上回る。
戦闘スタイルも異様だ。二刀流の刀剣男士なんて、聞いた事がない」
『最近顕現する様になった安宅切も、杖と刀の二刀流でしょう。彼は二例目です』
「御冗談を。杖と刀では違うでしょうに」
袖に隠したブラックリストの霊力を纏めた札に触れ、隣の男と照合を掛ける。
────一つ、霊力が符合した。
ただそれは、性別が合わないもので。
『…以前、何処かでお会いした事がありますか?』
「さぁ?……ただ、私は」
小柄に霊力を流す。
男が大きく腕を振るう。
呪をたっぷりと込められた短刀は、桜を纏いながら現れた無敵の剣に防がれた
「彼を、一目見た時から欲しいと思っていますよ」
『御冗談を。この刀は私のものです』
「うげぇ。マスターちゃん、コイツ妙なモン使いやがるんだけど」
『祓うよ』
ぱん、と柏手を打つ。鬼神丸に絡み付いていた闇色の呪を、私の霊力で押し流した。
ついでに守護の梵字をはじめちゃんの背中に書けば、男が大仰な仕草で手を叩いた
「流石は紫様。付喪神の呪をそうも簡単に祓うとは、やはり霊力の質と量は一流だ」
『紫様…?』
聞いた事のない名称に首を捻る。
はじめちゃんは打刀を鞘に納め、腰を低くしていた。
此方の様子に気付いたのか、舞台の喧騒が収まっている。
駆け寄ってくる足音を聞きながら、男はひらひらと手を振った
「では今日はこれにて。また御会いしましょう」
「逃がすかよ!」
抜刀された鬼神丸が切り裂いたのは、此方に駆け寄ってくる中に居た太刀の刀剣男士だった。
そちらを見れば、先程まで太刀の刀剣男士が立っていた場所に、男が佇んでいる。
何らかの術による場所の入れ換えだろう。
舌打ちしたはじめちゃんがそちらに鋒を向けると、男の足許から闇色の霊力が噴き出した。
「それでは、御機嫌よう」
闇色に包まれ、男は消えた。
それを睨み付けながら、即座に端末に緊急信号を打ち込む。
演習場内全域に警報が鳴るのを聞きながら、着信状態になった端末をスピーカーにした
『班長、演練中、審神者に呪を纏った短刀を向けられました。鬼神丸により怪我人は無し。
審神者は逃亡。審神者が演練に連れてきていた刀剣男士達はそのまま置いていった様なので、制圧します』
《判った、急いでそっちに向かう!》
『承知しました』
《聞こえるか鬼神丸、生け捕りにしろ!
光忠、堀川、鬼神丸が皆殺しにしない様に見張れ!!》
「………」
「オーケー、任せてくれ」
「了解しました」
私の傍で鋭い目をしているはじめちゃんをそっと見上げる。
念の為にもう一度守護の梵字を書き込んで、臨戦態勢の彼に指示を出した
『鬼神丸ちゃん、敵刀剣男士を戦闘不能にして下さい。情報を吐かせたいので生け捕りで』
「……一振残せば十分じゃない?」
『駄目。審神者が沢山刀を所持すればするだけ、刀剣男士っていう監視の目は増えるんだよ。
…見た感じ自我はないかもだけど、使い道はある。だから、生け捕りして』
「……へーへー、了解ですよ、と」
物凄く嫌そうな顔で了承したはじめちゃんは、此方に向かってきた薙刀を一太刀で斬り捨てた。
「マスターちゃんはそこの岩影に隠れて、防御出来るものがあればそれを使ってて。
なければこのまま僕が護衛に残るけど」
『大丈夫、結界張っとく』
「はいよ。…んじゃまぁ、お仕事しますか」
溜め息を落とした後、すっと不言色が温度を喪っていった。
たん、と革靴が地を蹴る。
次の瞬間には遥か遠くに黒の背広は移動していて、あっという間に敵を斬り伏せた。
駆け回る薄花の短髪を目で追いながら、先程の言葉の意味を考える。
『……紫様、ねぇ』
関係あるとすれば、私の職員名か。
視界の端で、黒い腕に結ばれた菫青の組み紐が揺れた
襲撃
刹那→政府職員(マスター)
前世の自分のヤンデレ部分に引いてたら、不審者に襲われた。
職員なので緊急時対応はちゃんと出来る。
斎藤一→護衛刀(サーヴァント)
マスターが自分の嬉しかった過去を共有してくれている事に喜んでいたら、不審者に襲われた。
組織に所属していた為生け捕りの重要性は理解しているが、それはそれとして折りたい。
班長→保護者兼上司
斎藤の湿度の高さに日々引いてる。
娘を演練デビューさせたら警報が鳴ったので、頭を抱えながら爆速で電話した。
燭台切光忠→保護者の護衛刀
斎藤の湿度の高さに日々引いてる。
刹那の演練デビューに付き合っていたら警報が鳴ったので、取り敢えず敵を斬り伏せた。
1/10
prev next△トップページへ