01



・「雪梟」とは様々な環境が違うバージョン。
・珍しく家族と上手くいってる刹那。
上記の注意事項を許容出来る方はお進み下さい。










小さい頃を思い出すと先ず浮かぶのは、淡い金髪だ。
たんぽぽみたいな頭の、真っ赤な目の男の子。
その次に浮かぶのは、緑の髪のちょっと気弱だけど、優しい男の子。
昔は三人で良く遊んでいた。
お店のディスプレイのテレビで流されるヒーローを見て感化され、公園でヒーローごっこをして遊んだりしていた気がする。大概私が拐われた一般市民なのは、大層気に食わなかったけれど。


…何時からだっけ。


赤い目の男の子が、私の手を引いてずんずん先に行く様になったのは。
緑の髪の男の子が、その後ろを泣きそうな顔でそっと着いてくる様になったのは。










「おはよう刹那。コーヒーで良い?」


『おはよう母さん。父さんも優輝もおはよう』


「おはよう刹那」


「おはよ姉ちゃん!行ってきます!!」


「あ、コラ優輝!ドアそんなに強く閉めないで!あと飛ぶな!!」


中学の制服を身に纏い、二階の自室から降りてきた所で、ランドセルを持った弟が慌ただしく、そして文字通り飛び出していく。飛び立ったあと、茶色い羽根が数枚フローリングに落ちた。
それを私はのんびりと見送って、ソファーでコーヒーを飲む父さんは苦笑い。
羽根を拾う母さんがプリプリ怒っているのも、毎朝の事だった。


「まったく…なんであんなにギリギリまで寝るのあの子は…」


『優輝、寝起き悪いからね』


「ギリギリまで寝たいんだろうね」


大きな翼を揺らしながら苦笑する父さんと笑って、母さんが用意してくれた朝食に手を合わせる。
ニュースを見ながら食べ、歯を磨いて父さんにひらりと手を振った


『行ってきまーす』


「ああ。気を付けるんだよ」


『はーい』


そのまま母さんと共に玄関に移動して、靴を履く。
扉を開ければ、家の塀に寄り掛かってスマホを見ていた幼馴染が、ゆっくりと顔を上げた。


『おはよう勝己。母さん、行ってきます』


「おはよう勝己くん。二人とも行ってらっしゃい」


「っス」


会釈した勝己と並び、手を振る母さんに振り返して歩き始めた。
隣を歩く勝己を見上げれば、視線に気付いたらしい彼に静かに見下ろされた


「なんだよ」


『勝己、今日やる?』


「あ?」


『個性練』


私の個性は雪女。雪女っぽい事なら大体出来るという曖昧なものだ。
勿論凍らせる事も出来る。だけど溶かすのは出来ないので、勝己に爆破で壊して貰えると楽なのだ。
それを何度も付き合って理解している勝己は、僅かに口角を上げた


「やるに決まってんだろ」


『判った。最初に的当てしよ。そんで最後に全力ダッシュ』


「ハッ、また秒で全部撃ち落としたるわ」


『やめてよ。一週間前のはショックだったんだから』


一週間前、勝己の提案で初めて的当て訓練をやってみたのだが、それはもう酷かった。
ヒョロヒョロと糸の切れた凧の様に飛ぶ氷の的を、馬鹿にした顔で撃ち落とした勝己。夢に見る程腹が立った。


『あれから練習したんだよ。今日は一分目指すからね』


「三十秒保ったら褒めてやるよ」


『とても馬鹿にされてる…?』


「良く判ったなへなちょこ」


『許さない』


今日は窓閉めてやる。
意地悪く片方だけ口角を吊り上げた勝己を睨めば、大きな手で髪をぐしゃぐしゃにされた。
ふわりと、甘い香りが鼻先を擽る


「拗ねんな。めんどくせぇ」


『頭撫でれば許されると思うなよ』


「あー?じゃあ今俺の手に頭押し付けてる馬鹿は何しとんだ?」


『………』


「ふは、間抜け面」


何時も顰めっ面をしている男が噴き出す様に笑ったもんだから、何も言えなくなった。
笑いながらぐしゃぐしゃにした髪を、優しい手付きで直して、勝己は最後に頭にぽんと掌を乗せる。


「オラ、とっとと歩け。遅れんだろが」


『……勝己はもう少し優しく話せればなぁ』


「あ?」











授業が終わり、鞄を持って立ち上がる。
友達に手を振って教室を出ると、向かいの廊下から見慣れた金髪が歩いてくるのが見えた。


『勝己、帰ろ』


「ン」


そのまま一緒に階段に足を向ける。
靴箱で履き替えた所で、後から来たクラスメイトに声を掛けられた


「刹那、また明日ねー!」


『うん、また明日』


ひらりと手を振り校舎を出る。
何時も通りの道で、ぽつぽつと言葉を交わす。
その途中、思い出した様に勝己は言った


「そういやお前、アレどうした」


『アレ?』


「進路調査表。お前んトコ先に配られたんだろ」


そう言われ、はたと思い出す。
来週までに提出するその紙の事を脳裏に浮かべ、隣の学ランを見上げた


『勝己は?雄英?』


「たりめーだろ」


『そっか』


前から勝己はヒーローになりたいと言っていたし、折寺唯一の雄英合格者になりたいとも聞いていた。
私も一応ヒーローを目指しているが、これは…どうするべきだろう。雄英以外のヒーロー科を目指すべきか?


『勝己』


「なんだよ」


『………』


どう言うべきか。
出来ればオールマイトやベストジーニストなど、トップヒーローを輩出してきた雄英に行きたい。
でもなぁ…勝己は頑固だ。
この男が自分だけが雄英に行くという目標を立てているのなら、それを妨害するものを容赦なく潰しに掛かるだろう。
それがたとえ女でも、幼馴染でも。


『……決めかねてる』


「あ?」


『決まったら、言うね』


雄英には行きたい。でも勝己と喧嘩はしたくない。
そんな宙ぶらりんな考えの私を見抜く様に紅い目は静かに此方を見つめ、そして、ふいと逸らされた。











家には母屋と、細い通路で繋がった円柱型の建物がある。
それは翼を持つ個性である父が、将来生まれる子に自分の個性が遺伝した時を考え作った演習場だった。
翼の個性は子供にはあまりにも魅力的で、ついつい遠くへ飛びたくなってしまうから、迷子になりやすいらしい。おまけに飛ぶのに慣れない内は、ふらふらして危ないのだとか。
色んな人からアドバイスを貰いつつ建てたらしいが、弟が使う以外は専ら私と勝己の訓練スペースになっている。


「オラもっと飛ばせや!!」


『これ体幹維持すんのキツいって!!』


三階建ての高さの吹き抜けの建物内を、個性を使って飛び回る。
雪女という個性は曖昧だ。
現在の私に出来るのは、雪を混ぜた風を吹かせる事と凍り付かせる事ぐらい。
文献などを漁ればもっと雪女っぽい事を出来る様になるかもしれないが、現在の私が出来るのはこの程度。
そして今行っている個性練は鬼ごっこだ。ルールは簡単、飛んでくる勝己から逃げるだけ。攻撃はナシ。
ただし鬼はめちゃくちゃ速い。


「オイスピード落ちてんぞ!!あと十秒逃げられねぇなら腕立て追加だからな!!」


『いーーーーーやーーーーーー!!!!』


ごうっと掌から吹雪を噴き出して、必死こいて逃げる。
天井付近まで飛んでいた為、角度を変えて真下に向かう。腕時計の残り時間は七秒。このまま逃げたい。
少しでも距離を取る為に、最後の力を振り絞り、吹雪を噴き出す。あと五秒。
その瞬間BOM!と背後から爆破が起こり、勝己が加速した事に気付いた。


残り一秒。
擦れ違い様、たん、と肩が叩かれる。


『あ』


あっさり私を追い抜き、爆破で衝撃を和らげつつ着地した男は、間抜けな顔のまま突っ込んでくる私を笑った。


「残念だったなぁ?腕立て追加だ」









個性練を終え、リビングに向かう。
最後の腕立てで一気に疲れ果てた私を笑いながら、勝己は額の汗をタオルで拭った。


「あら、お疲れ様。…刹那、随分疲れてるのね?」


『罰ゲームの腕立てで死んだ…』


「あと一秒逃げりゃあ良かったんだろ」


『勝己がタッチするのがいけない』


「鬼ごっこのルール知らねぇんか???」


呆れた様に言う勝己と眉を寄せる私を見て、母さんはからからと笑う


「ほら、二人共お風呂入っておいで。勝己くんはお風呂上がったら此方来るでしょ?コーラ冷やしてあるよ」


「ありがとうございます」


『じゃあまた後でね』


「ン」


二階の私の部屋に向かっていく勝己を見送り、お風呂に向かう。
手早くシャワーを浴びて髪を乾かしリビングに戻れば、既に勝己がソファーに座っていた。
その隣には弟が座り、にこにこしている。母さんはキッチン側のテーブルで雑誌を開いていて、父さんはその傍でスマホを弄っていた


「兄ちゃん、今日も姉ちゃんと個性練してたの?」


「おー」


「姉ちゃん強かった?」


「俺のが強ェわ」


「兄ちゃんが強いのは当たり前じゃん!俺は姉ちゃんが強くなったか知りたいのー!」


何を聞いてるんだあの弟は。弟ならせめて姉を応援しろ。
ソファーの後ろから白い頭を小突けば、母に似て垂れ気味の目が丸くなった。


「姉ちゃん!」


『この薄情者め』


「えー?だって姉ちゃんより兄ちゃんの方が強いじゃん!」


「おー、よう判ってんじゃねぇか」


『優輝、コーラ抜きね』


「なんで!?!?!?」


『せめて形だけでも姉ちゃんの方が強いとか言えよ』


「だって兄ちゃんのが強いじゃん!」


「たりめーだろ」


『優輝、おやつ抜きね』


「なんで!?!?!?!?!?」


冷蔵庫からコーラを取り出し、氷を入れたコップに注ぐ。
三つの器を満たした所で、トレーがさっと持ち上げられた。
すたすたと運んでいってくれた勝己の背を追い掛けソファーに戻り、隣に座る。


『ありがとう』


「おう」


テレビに映っているのはオールマイトの特集で、ゆっくりとコーラを手に取った。
どんな時でも笑顔を絶やさず、その拳で救けるヒーロー。
その存在だけで安心感を与える、平和の象徴。


「オールマイトかっけぇ!」


「お前もオールマイト好きなんか」


「うん!やっぱヒーローって言ったらオールマイトだもん!」


「優輝はほんとオールマイト好きね」


「刹那もオールマイト好きなんだっけ?」


父さんに問われ、目を瞬かせた。
オールマイトを嫌いな人なんて、そうそう居ないだろう。ただ一番かと言うと、その辺りは意見が割れそうだが。


『そうだよ』


まぁそんなに熱狂的でもないかもだけど。
個人的にはホークスの方が好きだしな。オールマイトが好きな勝己と優輝の前では言わないが。
ぼんやりと特集を見つつコーラを飲み終わった所で、勝己が立ち上がった。


「刹那」


『はーい。じゃあ私達勉強してくるね』


「えー!?姉ちゃん達もう行っちゃうの!?」


『ごめん優輝。私ら受験生だからさ』


むっと顔を歪めた優輝の頭を撫でる。
不服そうだったが、勝己が髪をぐしゃぐしゃにすると、仕方なさそうに引き下がった。


「判った。刹那、寝ない様にね」


「頑張れ二人とも」


『はーい』


「御馳走様でした」


シンクにカップを下げに行き、二階に向かう。
部屋の扉を開け、ローテーブルに広げてあった参考書に向かった


「この間の模試の結果見せろ」


『模試?…はい』


前回の模試の結果通知を勝己に渡した。
紅い目が紙面に向けられたかと思えば、開いていた英語の問題集を奪い取られた。
代わりに目の前に放られたのは、数学の雄英過去問集。
顔を引き攣らせた私に勝己が舌打ちを溢した


「馬鹿が。得意分野伸ばすより苦手克服の方が点数伸びんだよ。数学やり殺せ」


『………得意分野を伸ばそう!ってCMでも言ってるのに…』


「そりゃ全体的に点数取れてねぇヤツの基本方針だ。
90取ってる教科の10より、70取ってる教科の30伸ばしの方が効率的なんだよ。
つーかお前の苦手はただ時間掛けてねぇだけ。公式頭に叩き込め。問題読み殺せ。応用って言葉にビビんな。数こなしゃあ問題ねェ」


丸めた結果通知でぺしぺしと額を叩かれ、口を閉ざした。
問題集の青い表紙に目を落とし、それからちらりと勝己を見上げる


『…私、まだ何処受けるか決めてないよ』


紅い目が細められた。
じっと此方の思考を探るかの様に見つめたかと思えば、下唇を突き出してそっぽを向く


「雄英の偏差値は79だ。そんだけ取れりゃ何処だって選べんだろ」


『…そうだね』


…勝己は私が雄英を受けたいって言ったら、どうするんだろう。
結局言えないままで、シャーペンを握った。








物語の前日譚








白露刹那→個性は雪女。
本来雪女っぽい事は大体出来る。今出来るのは凍り付かせる事と、掌から吹雪を起こす事。
爆豪はお隣さん。近すぎる隣の部屋から侵入されるのは毎日。
短編「雪梟」と基本構成は一緒だけど、両親が結婚して直ぐこの家に住んだ事でルートが変わった。
当サイトで珍しく家族関係が良好な刹那。

爆豪→個性は爆破。
お隣さんは自室の窓を跨げば行ける距離。お互い好きに行き来する。

優輝→弟。小学校五年生。
個性は父親譲りの翼。飛びたがるけど飛ぶのは下手。

父→個性は翼。
おっとりしている。

母→個性は氷結。
しっかり者。旧姓は氷叢