06
「授業だぞコレ!!」
「緑谷少年!!」
勝己の一撃はあまりにも強力だった。
爆破による映像の乱れが収まった先、映ったのは大きく抉り取られたビル。
定点カメラには尻餅を着いた出久が映った。…良かった、特に怪我はなさそうだ
────思えば多分最初から、勝己に当てるつもりはなかったんだろう。
幾ら戦闘訓練でも、相手を殺すレベルのものを先生の制止も振り切って当てたとなれば、除籍は免れないからだ。
だからきっと、最初からあの一撃を出久に当てる気はなかった。
アレに意味があるとすれば────出久の個性を引きずり出す、その一点だろう。
まぁやり過ぎだけど、本人に当てる気がないならセーフか…?セーフ…???いやセウト…???
私は正直そう思った。
だが周りから見ると、勝己はヤバいらしい
「先生止めた方が良いって!爆豪相当クレイジーだぜ!!殺しちまうぜ!!?
なぁ、白露もそう思うだろ!?」
急に切島くんに話を振られて驚いたものの、緩く首を振っておいた
『ボコりはすれど、殺しはしないよ。
そんな事すれば大変な事になるって、今の勝己だって判ってるでしょ。
だから今のも当てなかったんだろうし』
「今も大変な事してんだよ!!」
「何でそんな落ち着いてんの!?お前ら幼馴染全員クレイジーなの!?」
上鳴くんの言葉に眉を寄せた。
勝己がクレイジーなのは元からだし、しれっと出久がクレイジーなのも前からだ。でもそこに私を混ぜるのは止めてほしい。
『そもそも面白ェモン見せてやるって言ってきたから、誰が相手でも一回はあれブッパしてそうな気もする』
「ヤベェよ!!!なんでそんな冷静に死刑宣告してくるんだよ!!!」
「やっぱり爆豪クレイジーじゃねぇか!!」
『ちゃんと威力は加減してたかもよ?』
「「そうじゃねぇ!!!」」
「刹那ちゃんは爆豪ちゃんのクレイジーさに慣れちゃってるのね」
『まぁ長くつるんできたしね』
確か父さんと勝己のパパさんが元々友達だったか何かで、私達が産まれる前から親交があるんじゃなかったか。
アルバムでもお腹の大きな母さんと勝己のママさんの写真もあるし、赤ちゃんの私と勝己が並んで寝ているものだってある。
そう考えると付き合いが長いな…お腹の中に居る頃から接点があるのか…
『産まれる前からつるんでるし、最早双子…?』
「何それ詳しく」
「ハイ授業に集中しようね!!
…爆豪少年、次それ撃ったら…強制終了で君らの負けとする。
屋内戦において大規模な攻撃は、守るべき牙城の損壊を招く!
ヒーローは勿論、敵としても────愚策だ、それは!大幅減点だからな!!!」
オールマイトの警告を聞いた勝己が頭を掻き毟った。
何事かを叫んで、出久に飛び掛かる。
先程の高火力を封じられるなら、恐らく次に狙うのは殴り合いだろう。
一直線に突っ込む勝己のタイミングを計り、出久がカウンターを狙って両腕を突き出した。
その瞬間────左手が爆炎を放つ。
軌道変更をして出久の頭上に身体を浮かせた勝己は、重力に従い落下する最中、捉えた背中に左手を向けた。
自らの背後に向けた右と合わせ、両手から爆炎が上がる
「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう一回…考えるタイプには見えねぇが、意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには、左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ才能マン、ヤダヤダ…」
轟くんや八百万さんの言葉を聞きながら、静かに目を細めた。
確かに勝己はセンスの塊だ。大体何をやっても出来る。下手すれば、見ただけで自分のものにする事も可能だ。
確かに彼は、才能に恵まれている。
でも何より────勝己がそうあれるのは、自らの才能を磨くストイックさがあるからだろう。
己の個性を何処までも精密に使いこなそうとする、そんな繊細さがあるのだ、あの男は。純粋に尊敬出来る、直向きさが。
痛みに呻く出久の腕を捕らえ、連続爆破で遠心力を生む。
そのまま思い切り、出久をコンクリートの上に叩き付けた
「リンチだよコレ!テープを巻けば捕らえた事になるのに!」
「ヒーローの所業に非ず…」
「緑谷も凄ぇって思ったけどよ…戦闘面に於いて爆豪は間違いなく────センスの塊だぜ」
何とか立ち上がった出久は勝己に背を向けた。
行き止まりである壁に背中をへばりつけた姿に、これでもまだ個性を使わないのだろうかと眉を寄せる。
「逃げてる!」
「男のする事じゃねぇけど仕方無いぜ。しかし、変だよな…」
勝己が怒鳴っている。
多分、此処までしても尚個性を使わない出久の姿は、自分を侮辱しているとしか思えないんだろう。
釣られる様に出久も怒鳴って、それにまた勝己が大きく口を開ける。
音声はなくとも伝わる異様な雰囲気に、切島くんが困惑した声を漏らした
「爆豪の方が、余裕なくね?」
双方が拳を構える。
大きく振りかぶった二人に、制止を求める声が飛んだ
「先生!!ヤバそうだってコレ!!先生!!!」
「双方…中止………」
オールマイトが訓練を止めようとして、留まった。
その瞬間、勝己の拳が出久の顔面を捉え────出久の拳は、何故か真上に放たれた。
『なんで…』
そこで漸く、出久の狙いが判った。
上の階────五階のお茶子ちゃんの階まで個性で吹っ飛ばし、強制的に浮かせるものを産み出したのだ。
飯田くんによって片付けられた部屋で、お茶子ちゃんが彼に勝つには、他に方法がなかっただろうから。
倒れる出久は、腕でどうにか顔を庇っていたらしい。
お茶子ちゃんが核に飛び付いた所で、勝利宣言が響いた
「ヒーローチーム、WIIIIIIIIIN!!!!」
『………………勝ち…?』
呆然としている勝己と、動かなくなった出久を無言で見つめる。
勝ったヒーローチームは双方膝を着き、敵チームはほぼ無傷。
…いやこれ、勝己のメンタル大丈夫?
ていうかこれ、下手すれば出久が天井ぶち抜いた時点で核爆発して、街ごと御陀仏では…???
戻ってくるなり講評で八百万さんにボロクソ言われている勝己を尻目に、ゆっくりと肩を回す。
私怨丸出し、大規模な破壊は論外とザクザク刺されているのに、勝己は何処か呆然とした様子。
まぁ確かに、出久が今まであんな凄い個性を隠していた理由は気になるけど…隠されてそんなに傷付くのか。出久に負けるのはそんなに嫌か。
これは純粋に勝己のプライドがエベレストな所為でこうなっているのか、それとも出久には死んでも負けたくない理由があるのか。
…ああ。無個性だと思ってたから、ずっと見下していたから、負けたくないのかなぁ。
「さて気を取り直して第二戦!
ヒーローがBコンビ!敵はIトリオ!
此処だけ三人だ!敵側のチームワークと、ヒーロー側の攻略法が試されるぞ!」
私か。
一度大きく伸びをして、隣で沈黙する男の肩を軽く叩いた。
のろのろと紅い目が此方に向けられた所で、腰の手榴弾を一つ取る。
『コレ、一個貰うね』
「あ…?」
『なーんか相性悪そうな人居るからさ。お守りに』
じゃ、と背を向ける。
強奪した手榴弾を袖に入れ、尾白くんと葉隠さんと合流した。
「尾白くん、刹那ちゃん、私ちょっと本気出すわ。手袋もブーツも脱ぐわ」
ビルの四階、核を前に葉隠さんが全て脱いだ。いやこれ、良いのか?
透明人間としては正解だろうけど…女の子だよ…?良いのか…?
『じゃあ…どうしようか。私が得意なのは中、遠距離からの吹雪か、凍らせる事』
「私はコレ!透明化!」
「俺は近距離向きだから、核の防衛に向いてると思う」
『じゃあ…葉隠さんが偵察、私が迎撃にしよう。尾白くんは最後の砦って事で』
「俺は良いけど、白露さんは大丈夫なのか?相手は障子と轟…男二人だぞ?」
『隠れて凍らせれば、可能性はなくもない。それに私が突破されたら、尾白くんが迎撃する間にこっそり葉隠さんがテープ巻く方が良いと思う。
私だと巻き込みかねないし…』
寧ろ男との組手は勝己で慣れている。
力で敵わない相手に如何に立ち向かうか、勝己との組手はそれがメインだし。
ただ……轟くんから妙に嫌な予感はするけれど。
「屋内対人戦闘訓練────開始!!!」
オールマイトの声が聞こえた瞬間、咄嗟に両手の平を床に押し付けた。
『二人とも、跳んで!!』
「「!?」」
イメージは円柱。
素早く氷の壁を作り上げた直後、パキパキと高い音が聞こえてきた。
私の氷の音ではない。現に円柱の一部に罅が入った。恐らくは相手側の攻撃によるものだろう。
氷で囲んだお陰か、二人はどうやら無事らしい。核も無事だ、よかった。
ほっと息を吐いて、二人を見る。
「白露さん、凄いな!」
「もしかして轟くんも氷!?氷対決!?」
『いやこれ完全に分が悪いわ…』
空気が冷えた気がしたからそれに合わせて氷を出したが、何回もやられたら無理だ。
おまけに今のも一部押し負けている。罅が入ったのはその証拠。
まぁ、幸い此方は全員無事。
彼方は凍らせてから二人で乗り込むか…いや、これだけやってくる相手だ、もしかしたら一人でゆっくりやってくる作戦か。
尾白くんに出来るだけ音がしない様に穴を開けてもらい、円柱を出る。
再び穴を氷で塞いだ所で、彼女を見た
『これもう葉隠さんは靴履こうか。凍傷になるよ』
「靴を履いた状態で偵察って出来る?」
「やってみるね!」
『じゃあ私も一緒に行ってくる』
「うん、応援が必要なら呼んでくれ」
『オーケー』
葉隠さんと共に部屋を出て下の階に向かう。ビルの中はやっぱり全部凍り付いていて、滑り止めのしっかり効いた靴に感謝した。
「刹那ちゃん、足音がする。階段の方」
こそりと囁かれ、頷く。
『足音は?』
「一人だと思う。…あ、轟くんだ!」
『判った。……葉隠さんは尾白くんの所に』
「了解!刹那ちゃん、ファイト!」
『ん』
これは予想通り最悪のパターンでは?
いや、最悪は障子くんも来る事か。じゃあ二番目に悪いパターンかな。
ふう、と息を吐く。
それから一気に、真下に向けて吹雪を放った
────バキバキと、氷の壁が目の前に聳え立つ
その後ろから出てきたのは、半身を氷で覆う様な戦闘服のクラスメイトだった
「やっぱりお前が来たか」
『あれ、バレてた?』
「避けられるとしたらお前だ。だから、お前が真っ先に向かってくるのは予想してた」
どうやら、個性把握テストで此方の手の内はバレている様だ。
腰を落とし、低く構える。
たん、と凍った床を叩けば、轟くんの足に私の氷が襲い掛かった。
だが捕らえる前に氷で割られ、轟くんが此方に駆けてくる。
恐らく接近戦は悪手。触れられれば秒で氷像だ。
そう判断し、掌を口許に翳す。
ふう、と息を吐き出して────部屋中を舞う吹雪を産み出した。
「!?」
私の個性は雪女。雪女と言えば、吹雪の夜に出るのが定番だろう。
私の戦闘服も主にこの戦い方を想定しているので、雪に溶け込みやすい様に白を基調としてある。
…ぶっちゃけ顔を腕で覆う轟くんも、戦闘服が全体的に白いのでめちゃくちゃ見辛いが、まぁ大丈夫。赤い髪を隠さないでほしかった。
吹き荒ぶ吹雪の中、テープを伸ばした。
このまま、轟くんに触れない様に巻き付ける。
たん、と床を蹴り、飛び掛かった。
だらりと伸ばされた
『!!!』
何かを考える余裕もなかった。
気付いたら、袖に入れていた手榴弾を目の前に叩き付けていて。
……爆発したそれを、氷が一瞬で掻き消していくのが見えた
「……チッ、外したか」
慌てて距離を取る。
追加で吹雪を増やし、それからぞっとする視線を思い出した。
此方を捉える灰色が、酷く冷たくて。
ドッドッと恐怖で暴れる心臓を宥めながら、氷の礫を作り出す。
それを吹雪に混ぜて飛ばしてみれば、直ぐに避けた上に此方に氷を走らせる始末。無理だ。レベルが違いすぎる。
これは一旦外に出て、窓から侵入して尾白くん達と合流した後、本格的に籠城した方がいい。
吹雪の威力はそのまま、手頃な部屋の窓に向かう。
それを氷で叩き壊し、外に出た。
『尾白くん、聞こえる!?』
《白露さん、大丈夫か!?》
『予想以上に轟くんが強い!籠城戦に切り替えたい!今からそっちと合流する!』
二階の窓から、四階の核がある部屋に飛んで入ろうとした所で────がしりと、腕を掴まれた。
『え?…っ!?』
《白露さん!?》
ぐん、と重さが増して、体勢を崩す。
吹雪を止めた所で、肌色の何かにしっかりと包み込まれた。
「着地するぞ」
落ち着いた声の後、着地の震動が身体を貫く。
ゆっくりと肌色の覆いが外れた先、マスクで口許を隠したクラスメイトが見えた。
『障子くん…』
「すまない、少々荒い捕まえ方をした」
『いや、受け止めてくれてありがとう』
どうやら跳んでいた障子くんに捕獲されてしまったらしい。
そっと降ろして貰った所で、いつの間にか左手に巻かれた確保テープに苦笑いした。
「悪いが、テープを巻かせて貰った」
『油断したなぁ…轟くんをどうにか凌がなきゃって焦ってた』
「いや、俺も巻き込まれない為に外に待機していただけだからな。褒められたものじゃない」
《ヒーローチーム、WIIIIIIIIIN!!!!》
『…あーあ、負けちゃった』
「今回は色々と相性が悪かっただけだ。気を落とすな」
『ありがとう障子くん、優しいね』
私の初めての戦闘訓練は、黒星で終わってしまった。
講評では、核の防衛や轟くんへの妨害などは工夫が見えたものの、障子くんを忘れて動いた事が最大の失敗であると言われてしまった。
それはそう。というか純粋に轟くんが強すぎて無理。初手でビル凍結はレベルが違いすぎる。
勿論MVPは轟くんだった。
講評が終わり、見慣れた影の傍に並ぶ。
無言で紅い目が私を上から下まで往復した。
その視線の意味を知っている私は、笑って無傷を報告した
『怪我はないよ。痛めてもない』
「………」
『手榴弾、ありがとね。役に立った』
「……おう」
『あれって学校に書類出せば新しいのくれるのかな?』
「元々予備があっから問題ねぇ」
『そう?じゃあ帰りに何か奢るね』
覇気のない声の勝己をちらりと見上げて、そのまま黙って隣に立っていた。
個性を使った上に氷漬けのビルの中で動き回った所為か、肌寒い。
ポーチからカイロを取り出し握っていれば、片手を大きな手に包まれた。
何時もの個性を使った後の動きだが、今日はお互いグローブをしているので感触が判らない。
勝己はモニターを見たままだ。
それでも何となく、じんわりとした温もりが伝わる様な気がして、ゆるりと目を細めた。
「────お疲れさん!
緑谷少年以外は大きな怪我もなし!しかし真摯に取り組んだ!
初めての訓練にしちゃ、皆上出来だったぜ!」
それから恙無く訓練は終了した。
ビルから出た所で、オールマイトが皆に声を掛ける
「相澤先生の後でこんな真っ当な授業…なんか拍子抜けというか…」
「真っ当な授業もまた私達の自由さ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば!
着替えて教室にお戻り!」
そう言い残すや否や、オールマイトは砂埃を巻き上げる速度で去っていった。
急いでいる、という峰田くんの言葉に内心同意する。めちゃくちゃ時間ないなあの人。スケジュールをカツカツに詰めてるんだろうか。
見えなくなった影から隣に目を向けた。
皆が動き出した中、俯く勝己の手を取り、歩き出す
「………」
勝己の様子に気付いたんだろう、振り向いた切島くんが口を開こうとしたので、そっと口許に指を添えた。
頷いてくれた彼にごめんと手で謝って、勝己を連れていく。
うーん、落ち込んでる勝己の手を引くなんて何時振りだろう。
小学校の時とか?確か私を雪女だから敵だ、なんて言ういじめっこ達をシメてくれて、でもやり過ぎだって怒られた時だった筈。
その時も、俺は悪くないのにって怒りながら落ち込んでいた。
すたすたとビルの建ち並ぶ道を歩きながら、俯く勝己をこっそり窺う。
淡い金髪から覗くのは、思案している紅い色。
どうやら何かを考えている様だ。
それなら私に出来るのは、たった一つである。
HRが終わったところで、さっと鞄を手に取った。
目の前のたんぽぽ頭が立ち上がり、此方を向いた所で笑いかけた
『さ、帰ろう。今日こそは道を覚えたって証明するからね』
「……今日の朝道間違えたろが」
『大丈夫大丈夫。校内は行ける筈』
「お前の自信はどっから来んだよ…」
鞄を持って扉に向かえば、そこで葉隠さんと切島くんに声を掛けられた
「あれ、二人とももう帰っちゃうの?」
「今から今日の訓練の反省会しようぜってなったんだけど、お前らも参加しねぇか?」
『ごめん、今日は用事があるからやめとくよ。また次の機会に』
笑って皆に手を振っていたら、先を歩き出した勝己に教室から連れ出された。
少し進んで、それから足を止めた勝己に首を傾げる。
ちらりと私を見下ろした勝己は、先を歩けと顎で促した
「お前がちゃんと道覚えたか、見てやんよ」
『…ふふ、任せて。行き帰りなら完璧だよ』
「ハッ、どーだか」
再び私が先導する形で進む。
どうやら会話が出来る程度まで持ち直した様だ。
その事にこっそり安堵して、靴箱に向かう。曲がろうとして、大きな手に腕を取られた
「オイ、靴箱は一列向こうだ」
『えっ』
靴を履き替え、校舎を出る。
校門を出ようとした所で、背後から声を掛けられた
「かっちゃん!!刹那ちゃん!!」
「ああ?」
『出久』
そこには、まだ戦闘服を身に纏ったままの出久が立っていた。リカバリーガールに治してもらえなかったのか、左腕の傷はおろか、右腕も固定された状態だ。
「これだけは君に…君達には言わなきゃいけないと思って…!」
出久は何か躊躇う様に一度目を伏せて、それから真っ直ぐに此方を見た。
「────人から授かった個性なんだ」
合っていた筈の出久の目は、少しずつ下がっていく
「誰からかは絶対言えない!言わない…でも、コミックみたいな話だけど本当で…!」
「………!?」
「おまけにまだロクに扱えもしなくて…全然モノに出来てない状態の借り物で…!!」
俯いている所為だろうか、出久は気付いていない。
どんどんイラつきだした勝己を見ないまま、出久は言葉を並べていく
「だから…使わず君に勝とうとした!
けど結局勝てなくて、ソレに頼った!
僕はまだまだで…だから────」
そこで漸く、出久は顔を上げた。
その顔は以前とは違う強い表情で、思わず目を見開く
「何時か必ず僕のモノにして────僕の力で、君を超えるよ」
…出久、変わったなぁ。
前までは勝己にこんな事、言えもしなかっただろうに。
そうなるとやっぱり、その授かった個性とやらが出久を変えてくれたんだろうな。
…だって、それなら辻褄が合うのだ。
急に出久が超パワーを使える様になった理由も。
無個性だった筈の出久が、個性がないと難しい雄英のヒーロー科に入れた理由も。
その力に、どう見ても出久が振り回されているのも。
いや、正直個性授けるとか意味判んないけど。
…でも出久が言うなら、きっとそうなんだろうな。
静かにそう思っていれば、隣の影がゆらりと動いた
「何だそりゃ…?借りモノ…?ワケ判んねぇ事言って…これ以上コケにしてどうするつもりだ…なぁ!?」
一歩出久に近付いて、勝己が怒鳴る
「────だから何だ!?
今日…俺はてめェに負けた!そんだけだろが!!そんだけ…」
『………』
「氷の奴見てっ!敵わねぇんじゃって思っちまった!クソ!!
ポニーテールの奴の言う事に納得しちまった…クソが!!クッソ!!!
なぁ!!てめェもだ…!デク!!!」
目許を乱暴に拭い、その手を振り下ろす。
私から見えるのは、勝己の背中だけだ。
怒鳴る声が微かに震えているのを、静かに聞いていた
「こっからだ!!俺は!!
こっから!!…良いか!?
俺は此処で────一番になってやる!!」
────今まで勝己は、一番だった。
それが此処に来て、強い同級生を見て、認識が変わったんだろう。
ぐっと目許を荒々しく拭いながら振り向いた勝己が、私の腕を掴んで歩き出した。
「俺に勝つなんて二度とねぇからな!クソが!!」
『じゃあね出久、また明日』
「えっ、あっ、うん…」
ひらひらと手を振っていると、物凄い勢いで校舎から何かが飛び出してきたのが見えた。
砂埃を巻き上げるそれはオールマイトで、大きな手が勝己の肩を掴んだ
「爆豪少年!!!」
『お疲れ様です、オールマイト』
「白露少女、お疲れ様!
言っとくけど…!自尊心ってのは大事なモンだ!!
君は間違いなくプロになれる能力を持っている!!
君はまだまだこれから────」
「放してくれよオールマイト、歩けねぇ」
強引に足を止められた勝己は、真っ直ぐにオールマイトを見据え、言い放った
「言われなくても!!俺はあんたをも超えるヒーローになる!!」
「あ…うん……」
オールマイトはたじろいで、ぱっと手を放した。
笑みを浮かべたままで固まった彼にさようならと手を振って、勝己の一歩前に出た。
ゆっくりと手を引きながら、スマホを弄る。
『勝己、今日はモス行こ。ハンバーガーのクーポン今日までなんだよね』
「…おばさんに怒られんぞ」
『勝己が半分食べてくれればバレないよ』
鼻を啜る音と、ふっと笑う声が混ざって聞こえた。
それを背中で聞きながら、私も笑う。
勝己はきっと、泣き顔を見られたくないだろうから。
心配しているのを、態度に出されたくないだろうから。
だから私は、振り返らない。
私に出来るのは、何時も通り接する事だけだ。
「……刹那」
『ん?』
繋いでいた手にぎゅっと力を込められる。
低い声は、私に向けて静かに宣言した
「…俺は、もう負けねぇ」
『うん』
「……見てろ。俺が一番だ」
隣に勝己が並んだ。
目と鼻は赤いし、まだ声も湿っているけれど、もう涙は止まった様だ。
真っ直ぐに此方を見下ろす紅い目を見つめ、強く頷いてみせた
『ちゃんと見てるよ。
だって────ナンバーワンのサイドキックにしてくれるんでしょ?』
私の言葉に、充血した目は丸くなった。
それから、ぐいっと口角が上がっていく
「…ハッ、上等ォ!」
殻を破れ
刹那→爆豪に対して判定がガバ。
威力を加減しようがアレはダメなヤツ。
轟と戦うと地獄の氷結合戦になるのでしんどい。無事負けた。
信じられないけど、出久が言うならそうなんだろうなぁと思っている。
爆豪→メンタル殴られたけど無事復活した。
緑谷の言う事は信じがたいが一旦保留。