08
クックヒーロー・ランチラッシュの食堂は何時だって混んでいる。
私がオムライス、勝己がビビンバ丼を頼んで席を探していると、遠くから声を掛けられた。
「爆豪くん、白露くん!」
『ん?』
「席なら此処が空いているぞ!一緒にどうだろうか?」
『飯田くん。良いの?じゃあお邪魔しようかな』
「おい」
『だってこんなに混んでちゃ空いてないよ』
「チッ」
文句のありそうな勝己を黙らせ、手を挙げる飯田くんの許に行く。
因みに勝己が拒否したのは、単に飯田くんが嫌という訳ではない。いや、それもあるかもしれないけど。
一番の理由としては、飯田くんのグループに出久が居るからだろう
「刹那ちゃんと爆豪くんやん!今日は学食なん?」
『そうなの。ごめんね、お邪魔して良い?』
「ええよええよ!一緒食べよ!」
「ひえっ…かかかかかっちゃん…!!」
「あ゙?」
『勝己、距離あるんだから絡まないで』
四角いテーブルの真ん中に座る三人。お茶子ちゃんの隣が並んで二つ空いていたので、そこに座らせてもらう事にした。勿論お茶子ちゃんの隣には私が座る。
彼女の向かいは飯田くんなので、勝己からは覗き込まなければ出久は見えない布陣だ。
出久にうるさい勝己も、これなら問題ないだろう
『今日のヒーロー基礎学って何するんだろうね』
「前回が戦闘訓練だったからな…今回も戦闘面を伸ばす為のものじゃないか?」
「うーん、私は救助系もやってみたいなぁ。ヒーローって戦うだけやないし」
「どれもやってみたいけど、僕はプロヒーローの戦闘技術とか教えてほしいな」
お昼を食べながら、次の授業について好き勝手に意見を述べる。
四人で話しているというのに隣の男が沈黙を保っているので、ちらりと目を向けた。
『勝己は?』
「なにが」
『勝己は次の授業どんなのが良い?』
「戦闘訓練」
「爆豪くん!次はあんな自己中心的な暴走は控えるべきだぞ!」
「ぁあ?るっせぇなクソメガネ!デクが俺の前に立たなきゃ良いだけの話だわ!!」
「ブレへんね爆豪くん…」
「ははは…流石に戦闘訓練は……困る………僕のコスチューム…コスチューム抜きでかっちゃんと当たったら流石に死ぬ…」
「ブツブツうるせぇクソナード!!!」
『隣で怒鳴る勝己がうるさいんだよなぁ…』
「ぁ゙あ゙!?」
ほんっとにコイツは出久が絡むとうるさい。一見細く見える肩を叩き、そのままビビンバ丼に目を向けた。
今日は視覚の暴力みたいな赤ではなく、美味しそうな見た目のそれ。
スプーンを突っ込んで一口食べた。美味しいと頬を緩めると、隣から無言でオムライスが奪われていく
『オムライス美味しいでしょ。今度頼む?』
「一口でいい。…もう良いんか」
『もしかして待っててくれた?ごめんね、好きなだけどうぞ』
「察しろや」
『勝己は言葉足りないんだよなぁ』
じゃっじゃっと七味をぶちまけていく勝己に味覚イカれてんなと思っていれば、隣と斜め前から視線を感じた。
見れば、飯田くんとお茶子ちゃんが不思議な表情を浮かべている。
飯田くんは勝己の七味地獄に引いているんだろう。ただお茶子ちゃんが、何処かキラキラした目で此方を見ているのが気になった
「爆豪くん!過度な刺激物の摂取は消化器系に重大な疾患を引き起こすぞ!!」
「るっせー!!俺が何を食おうが俺の勝手だろ!!!」
「えっ、前から思ってたんやけど…もしかして、爆豪くんと刹那ちゃんって付き合ってるん?」
『付き合ってないよ。幼馴染』
必ず聞かれる事なので、もう慣れっこである。
こそこそと聞かれた言葉に笑いながら否定すれば、お茶子ちゃんの隣である出久は聞こえたらしい。
またかと言わんばかりに苦笑している
「かっちゃんと刹那ちゃんは家がお隣さんだから…」
「えっ、少女漫画やん…」
『良く見て。アイツの怒った顔全然少女漫画じゃないから』
「聞こえてンぞコラァ!!!」
『ホラ』
耳を塞ぐがやっぱりうるさい。
何時もより賑やかな食事になったが、まぁたまには良いだろう
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった」
午後、相澤先生の言葉に瀬呂くんが手を挙げた
「ハーイ!何するんですか!?」
「災害水難何でもござれ────
その言葉でぱっと後ろに目を向けた。
此方を見たらしいお茶子ちゃんと目が合って、二人で笑う。
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめー!これこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場ケロケロ」
「おい、まだ途中」
浮わつきかけていた空気が、先生の睨みによって即座に落ち着いた。
相澤先生は怒ると怖い。それがこの短期間で浸透した結果だろう。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には、活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。
訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。
以上────準備開始」
私の戦闘服は特に救助活動を妨げる事はないだろうと考え、着用を選んだ。
周りも大体その考え方の様で、バスの前に集まった皆も戦闘服だった。
ただ出久だけは体操服で、どうしたのだろうかと首を傾げる。
彼の戦闘服は見た感じ、救助行動を阻害するものには見えなかったけれど
「デクくん体操服だ。コスチュームは?」
「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから…」
察した。
聞こえているだろうに、隣にやって来た男はフルシカトを決め込んでいる。
別にあの時の事を蒸し返すつもりもないが、まぁ何とも…
つん、と肘で小突けば面倒そうに見下ろされた。
そういえば、今日はあの威圧的なアイマスクがない。
籠手とグローブも左手に装着していなかった
『今日アイマスクは?あと籠手とグローブも』
「置いてきた」
『いや理由よ』
「救助訓練って決まっとんだ、攻撃重視の籠手二個も要らねぇだろ」
『グローブとアイマスクも?』
「おう」
『…アイマスク、威圧感あるもんね…ちょっとビビるよね…』
「あ?」
『ファットガムも黒いアイマスクだけどさ、あっち愛嬌あるじゃん…
勝己はちょっと、全面的に圧が凄いもんね…膝のヤツも膝で殺す為の存在っぽいし…』
「俺に愛嬌求めんなや」
『膝で殺すを否定してほしかったな』
嘘でしょ、マジで膝で殺すの?
試しに触ってみると、予想以上に頑丈さを追求してあった。
あ、これは膝で殺るわ。
飛ぶ時とか足癖悪いもんね、勝己…
「バスの席順でスムーズに行く様、番号順で二列に並ぼう!」
「飯田くんフルスロットル…!!」
『ホイッスル吹いて手招きしてるwwwwwwサザエさんじゃんwwwwwww』
「アカン刹那ちゃんwwwwwサザエさんやめてwwwwwwww」
噴き出した私の発言に巻き込まれたお茶子ちゃんが笑いだす。
隣で呆れた顔をして立っている勝己と、苦笑いで済んでいる出久が信じられない。
なんだコイツら、何故アレを見て笑わない?もしかしてお笑いしらないの???
「────こういうタイプだったくそう!!!!」
「意味なかったなー」
バスは旅行なんかで使われる二列タイプではなく、市営などで使う馴染みのある席順のものだった。
バスの中腹に当たる位置は座席が向かい合う様に設置されていて、中央を挟んだ前後は両端に二列ずつ。
向かい合う席の後ろ、二列席の勝己の隣に座った私は、長い袖の皺を伸ばした。
『救助訓練って具体的に何すると思う?』
「…避難し損ねたモブの救助とかだろ」
『モブ……ビルが崩れて取り残されちゃった人とか?』
「他にもあんだろ。
水難事故で助け出しても心肺停止してっかもしんねぇし、火災で煙吸ってっかも知れねぇ。
倒壊に巻き込まれて足やら腕やら千切れてりゃあ、応急処置しなきゃなんねぇ。
山岳地帯なら遭難したモブの救助、雪が降ってりゃ視界不良を想定した捜索……チッ、クッソめんどくせぇ、てめェで助かれや…」
『訓練の時は優しい声かけしようね…』
「そもそも俺の個性じゃ救助は向いてねぇ。二次被害起こすぞ」
『それは…ほら、学校だから。最低限の経験はしておきましょうねってヤツだから…』
指摘が的確過ぎて何も言えねぇ。
脚を組んだ勝己に苦笑いして、何気無く足許に置かれた籠手と、そこに乗せられたグローブを見る。
『勝己のグローブってどうなってんの?』
「質問下手か」
『汗をこう…こう…ほら、えーと…………吸収するの?』
「おー」
『へぇ、この腕のゴツゴツも吸収素材なの?』
「おー」
『めんどくさくなってるじゃん』
グローブがもう重い。自分のグローブを外して着けてみたが、ブカブカだし重たいしで大変だった。
ほぼ脇まであるそれを着け、掌を開閉させてみた。
グローブの生地が厚いからか、反発が結構ある。あとあれだ、勝己の汗ってニトロっぽい物質だからか、甘い匂いがした。
本人からもするけど、これは汗を吸うからか香りが強い気がする。
手を抜いて畳んで返せば、私のグローブを眺めていた勝己が口を開いた
「薄っぺらいな。ホントに保温効果あんのか?」
『暖かいよ。手首と足首にも湯たんぽみたいに温かくなるヤツ仕込まれてるし。
だからこのコスチューム着てれば、身体に霜が降りないんじゃないかって思ってる』
「油断するとやらかすのがお前だぞ」
『判ってるって』
グローブを受け取って、手を通す。
上腕まで裾を伸ばした所で、切島くんの声が飛び込んできた
「派手で強ぇっつったらやっぱ轟と爆豪だな」
「ケッ」
前方の皆から話を振られた事に気付くと、頬杖を付いた勝己が窓の方に顔を向けた。
そんな彼を見る事もなく、梅雨ちゃんがしれっと言う
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
「ホラ」
『ぶふっwwwwwwwwwwww』
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだ様な性格と認識されるって凄ぇよ」
「てめェのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!!」
『wwwwwwwwwwwwwwww』
息が出来ない。まって、笑いすぎてしんどい。
今までこんなに勝己がイジられているのなんて見た事がない。
というかクソを下水で煮込むって何?どっからそんなワード持ってきたの上鳴くん。
笑いすぎたあまり背中を丸めて震えていれば、それすらも気に障るのか、立ち上がっていた勝己が怒鳴った
「おいコラクソゲラ!!!てめェもずっと笑ってンじゃねぇ!!!」
『勝己wwwwwwwちゃんと座らないとあぶないよwwwwwww』
「笑うのやめて注意しろや!!!」
『むwwwwwwwりwwwwwwwww』
「低俗な会話ですこと!」
「あっはっは!私こういうの好きだ!」
和気藹々とした空気の中で、静かな声が響く
「もう着くぞ。いい加減にしとけよ…」
「「「「ハイ!!!!」」」」
「すげー!!!USJかよ!?」
門の前に立ち、あまりの凄さに圧倒された。
階下中央に広場があり、そこから通路が伸びている。
何も知らない人が見ればテーマパークに見えるだろう
「水難事故、土砂災害、火事……etc.
あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。
その名も────
良いのか名前。それ出るとこ出られたら負けない?
そんな名前を付けたらしい、宇宙服を模した戦闘服のヒーローを見て、出久とお茶子ちゃんが声を上げた
「スペースヒーロー13号だ!
災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー私好きなの13号!」
相澤先生と話し始めた13号。
会話を終えると、13号は此方に向かって指を立てた
「えー、始める前にお小言を一つ二つ…三つ……」
増える…
呟く数に合わせて指も立っていく
「四つ…」
結局四つになったのだろうか。
13号は数えるのを止め、己の手に目を向けた。
「皆さん御存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。
どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性が居るでしょう」
そっと目を伏せた。
私の場合、全身を氷漬けにすれば簡単だ。
それか顔だけでも凍らせてしまえば良い。
…そんなにも簡単に、この力は人を殺める可能性を秘めている。
「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で、一見成り立っている様に見えます。
しかし────一歩間違えれば、容易に人を殺せるいき過ぎた個性を個々が持っている事を、忘れないで下さい。
相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います」
そこまで口にすると、真剣だった声音が明るくなった
「この授業では…心機一転!
人命の為に、個性をどう活用するかを学んでいきましょう。
────君達の力は、人を傷付ける為にあるのではない。
救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな。
以上!御静聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!ブラーボー!!」
紳士的にお辞儀する13号に拍手を贈る。
今からどんな訓練を行うんだろう。
期待に胸を膨らませていた所で────
「一塊になって動くな!!13号、生徒を護れ!!」
「え?」
相澤先生から鋭い声が飛んだ。
先生の視線の先────真っ黒な靄から、次々と人間が出てくるのが見えた。
「何だアリャ!?
また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
そう呟いた切島くんに、ゴーグルを付けた先生がぴしゃりと返す
「動くな!!あれは────敵だ!!!」
次から次へと現れる人影に、思わず一歩下がった。
すると暖かいものが、背中をとん、と支えてくれる。
ゆっくりと視線を上げれば、紅い瞳と視線が絡んだ。
背中に手を添えた勝己は、静かに言う
「ビビってんなよ」
『………!』
ぎゅっと掌を握り締める。
そうだ。私はヒーローになるのだ。
それならば────戦うべき相手を前にして、臆してはいられない。
息を深く吐き出す。
そして前を睨み付けた私から、一度背中を叩いて温もりが離れた。
「
ヒーローの学校に乗り込んで来るなんてアホ過ぎるぞ!?」
「先生!侵入者用センサーは!」
「勿論ありますが…!」
「現れたのは此処だけか、学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういう事出来る
未だ現れ続ける敵で埋められていくセントラル広場を見下ろして、轟くんが呟く。
「校舎と離れた隔離空間。そこに
これは────何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
「13号、避難開始!
学校に連絡試せ!センサーの対策も頭に入れてある敵だ、電波系の
上鳴、お前も個性で連絡試せ」
「っス!」
相澤先生が此方に背を向けた。
真っ直ぐに向かっていくのは、セントラル広場に面した階段。
その背に慌てた様子で出久が声を掛ける
「先生は!?一人で戦うんですか!?
あの数じゃ幾ら個性を消すって言っても!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」
「────一芸だけじゃヒーローは務まらん」
出久の言葉を遮って、相澤先生は13号に顔を向けた。
「13号!任せたぞ!」
先生は捕縛布を操り、一気に階段を飛び降りた。
単身飛び込んだ先生に、遠距離攻撃の出来る敵達が照準を合わせる。
しかし向けられた指からは何も出ず、捕縛布によって互いの頭を激突させた。
次に立ちはだかった異形系の敵の攻撃も躱し、脚を掬って投げ飛ばし、その巨体で仲間も巻き込み潰した。
それを横目で見つつ、飯田くんの誘導に従ってゲートに向かう。
「凄い…多対一こそ先生の得意分野だったんだ…!!」
「分析してる場合じゃない!早く避難を!!」
先頭を行く13号の後ろを走っていた、その時。
「させませんよ」
目の前に────闇が、広がった
「初めまして、我々は敵連合。
僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは」
ゆらりと靄が揺れた
「平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」
一瞬、何を言っているのか判らなかった。
けれど靄の敵は、至極当然といった体で言葉を続ける
「本来ならば此処にオールマイトがいらっしゃる筈…ですが、何か変更あったのでしょうか?
まぁ…それとは関係なく…」
13号が指先のキャップを外した。
個性を使おうと、手を構えて────
「私の役目は、これ」
次の瞬間、見慣れた淡い金髪と赤い髪が靄に襲い掛かった。
派手な爆破と、硬化した腕による一撃が放たれる。
「その前に俺達にやられる事は考えてなかったか!?」
「危ない危ない…そう、生徒と言えど、優秀な金の卵…」
『…?』
ゆらりと靄を揺らした敵に、ダメージを食らった様子はない。
今の発言は煽りか、それとも…
「ダメだ!退きなさい二人共!!」
そこで13号が手を構えたまま、動けないでいるのに気付いた。
13号の個性はブラックホール。指先を向けた先を吸い込む強力なもの。
つまり────不意の一撃を食らわせた二人が、射程圏内に入ってしまっている。
『勝己!!』
これもう私と轟くんで靄を固めて割った方が良くないか。
ばっと金髪が振り向いた瞬間、闇がぶわりと広がる。
それは私達を包み込む様に襲い掛かり────
「刹那!!!」
此方に伸ばされた濃緑と橙のグローブを最後に、闇に染まった
会敵
刹那→飯田がツボ。
爆豪→直ぐに噴き出す幼馴染を、生きてるだけで楽しそうだと思いながら眺めている。
お茶子→刹那に巻き込まれて笑う人。
緑谷→幼馴染のツボが判らない。