恋愛小説


竜二さんの部屋で竜二さんは陰陽術の書物を読み、私は家から持ってきた小説を読む。
これが最近の私たちのお家デートであった。
私が今読んでいるのは先日友達から借りた(無理やり渡されたともいう)恋愛小説だ。
あまりこのジャンルには手を出したことがなかったので、すごく新鮮だ。しかしやはり恋愛小説。読み進めていくうちにだんだん恥ずかしくなってきてついに私はパタンと勢いよく本を閉じてしまった。
「どうした?そんなに顔赤くして」
そんな私を疑問に思ったのか竜二さんが聞いてきた。
「え?なんでもないですよ。なんでも。気にしないでください。」
必死に誤魔化してもやはり竜二さん。
「何読んでんだ?」
「あ!」
ひょいっと私の手元から本を奪い、私が読んでいたページに目を通していく。
「ふーん・・・お前こんなのも読むんだな。以外。」
「いや、あの先日友達から無理やり渡されて、その、最近人気の恋愛小説だからって・・・」
「で、読んでるうちに恥ずかしくなったと。」
「はい・・・って竜二さんは恥ずかしくないんですか?それ。」
私が読んでいたシーンは結構濃厚なキスシーンで。
「・・・やってみるか?」
「え?」
「だから、経験がないから第三者目線で見てしまって恥ずかしいんだろ?じゃ、経験すれば読み進められるんじゃないのか?」
「な、なんですかその理論!?意味分かんないです!!」
「分からんでもいい。お前は読書家だからな。実は先が知りたくてたまらないのに恥ずかしくて読めない。そこで俺が登場だ。どうだ一石二鳥だろ?」
「か、完全な俺様理論ですよそれ!」
そんな攻防のさなかもどんどん壁際に追い詰められ遂に逃げ道はなくなった。
「俺様上等。ちょっとお前黙っとけ。」
ふっと不敵に笑った竜二さんに見惚れた次の瞬間に私は呼吸困難に陥った。
今までも何度かキスはしたことはあったが今回のようなものは初めてだった。
触れるだけの優しいそれではなく、貪るような求めるようなそんなキス。
そろそろ酸素も限界で、私は竜二さんの着物の衿を無意識に握っていた手で胸を叩いた。
「はぁ、はぁ」
「・・・で感想は?」
唇を離した竜二さんは私を自分の胸にもたれ掛けさせ肩を抱いて聞いた。
「・・・今度、あの小説を読んだらこっちを思い出して恥ずかしくなりそうです。」
「ははっ!そりゃ、光栄だな。」
「もう、ほんとに意地悪なんですから。」
「褒め言葉でしかないぞ。それ。」
「ふふ、」
そんな穏やかな空気が流れるなか、ふとずっと頭に引っかかっていたことを思い出した。
「ねぇ、竜二さん。さっき一石二鳥って言ってましたけど、どういう意味なんですか?」
「・・・あぁ、あれか。お前はなんだかんだで続きが読める、で俺はお前にキスができる、だから一石二鳥だろ。」
恥ずかしげもなく平然と言ってのけた竜二さんにまた顔が赤くなる。だからちょっと仕返ししてみたくなった。
「じゃあ、一石三鳥ですね。」
「は?」
「だって、私も竜二さんとキス、したかったから。」
しばらくの沈黙の後、竜二さんの顔がちょっと赤くなる。
「おま、ちょ、はぁ」
効果音をつけるならガバッと私を力一杯抱きしめて
「紫。」
「はい。」
「好きだ。」
「私も好きですよ。」
「ん。今こっち見んなよ。」
「何でですか?」
「何でも」
「ふふ、分かりました。」
いつもとちょっと違う竜二さんが見られてさっきの恥ずかしさが全然気にならなくなっていた。
「なぁ、もう一回キスしていいか?」
「え!?」
「拒否権無し」
「竜二さんっ」

二度目のキスは甘くて優しくて幸せなものでした。
(竜二さんのせいであれから1ページも進まなかったじゃないですか!)
(お前今度から恋愛小説は俺の前だけで読めよ。)
(何でですか?)
(何でも)


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