海色と雨

岩泉一先輩。青葉城西高校男子バレー部副主将でエース。学校のアイドル及川先輩の幼なじみ。男前で頼りになるザ・日本男子。好物は期待を裏切らない揚げ出し豆腐。そんな岩泉先輩に私は去年恋をしました。

その日はまさに梅雨間近というような不安定な天気だった。朝は青空が少し覗いていて、傘は要らないだろうと思い、家を出た。お昼を過ぎたあたりから段々雲行きが怪しくなり、遂には今日の最後の授業だったはずの体育は屋内競技に変更になった。

「うわー凄い雨。」

体育も終わり、昇降口に来て思わず呟いた。傘は持ってきていないが、鞄の中に折り畳み傘がいつも入っているので、それを取り出して帰ろうとした。
しかし、鞄の中を探っても一向に傘らしきものは無い。お気に入りの海色の折り畳み傘は今日私を雨から守る気はさらさらないらしい。もう一度、昇降口の外を見ると、心なしかさっきより雨脚が強くなった気がする。あいにく相合傘してくれそうな友達はみんな部活かバイトでいない。雨に濡れて帰るかもう少し雨脚が弱まるまで待とうか考えあぐねていた時だった。

「傘、忘れたのか?」

突然後ろから低い声が降ってきた。振り向くとそこにいたのはあの有名な及川先輩の幼なじみの確か、岩泉先輩。同じクラスの渡君がそう呼んでいたのをいつか聞いた気がする。

「はい。折り畳みも無くて、もう少し雨宿りしてから帰ろうと思います。」

その返事に岩泉先輩は自分の持っている黒い傘を差し出して答えた。

「これ、使え。この様子じゃ今帰ったほうがいいと思うぞ。雨脚が弱まるとも限らないし。」

「でも、それじゃあ先輩の傘が、」

「部室に予備がある。心配すんな、ほら、持ってけ。」

そう言って再度私に傘を差し出す。正直とてもありがたい。危うく濡れ鼠になるところだった。

「ありがとうございます。助かります。明日、お返ししますね。」

「おう、気をつけて帰れよ。」

ニカっと少年のように笑って第三体育館へ向かう先輩に胸が高鳴ったのは言うまでもない。

あの後、何故か傘は及川先輩から岩泉先輩に返され、その後も学校内で見かければ会釈する程度の知り合いにはなった。そのたびに私の胸が高鳴っているのも言うまでもない。
そんな私の片想い歴は1年。そして岩泉先輩は今年卒業だ。学校で岩泉先輩に会えるのはもうあと1年を切っている。

「ねえ、なまえ。3年生の先輩が岩泉先輩に告白したんだって。」

私が岩泉先輩に片想いしていることを知っているこの友達は、こうやって時々岩泉先輩の情報をくれる。

「いいの?このまま何もしないでいたら、いつか岩泉先輩に彼女できるよ?なまえ、耐えられるの?」

耐えられないだろう。そんな状況に耐えられるほどこの気持ちはコンパクトではないのだから。

ガタリ、と椅子から立ち上がる。

「いってくる」

そう言って、教室から駆け出した。

「なー岩泉、誕生日に告白されるってどんな気分なんだ?」
「あ?まぁ、日付は関係なく、告白ってすげー勇気いることだと思うし、それを俺相手にしてくれるんだから、ありがたいことだと思うけど。」
「岩ちゃんはヘタレだから告白もできないもんねー」
「潰すぞ、クソ川」
「岩泉、イケメン。」

階段下から聞き覚えのある声がする。
そうだ、今日は6月10日。岩泉先輩のお誕生日だ。おめでとうございますも言わなくちゃいけない。

「岩泉先輩!!」

叫んだ私の声に岩泉先輩は階段を登る脚を止めた。
ここまで沢山走った私の脚は限界だったのかもしれない。岩泉先輩のところへ行こうした脚は階段を上手に降りることはできなかった。
落ちる、そう思った時、私の体はがっしりと誰かに受け止められた。

「あっぶねー。大丈夫か?そんなに急いでどうした?」

受け止めてくれた岩泉先輩の声に、私の心のダムは決壊した。

「岩泉先輩、好きです、お誕生日おめでとうございます、付き合ってください!」

腕の中で叫んだ言葉は支離滅裂で、でも精一杯の私の気持ちだった。

「花巻、さっきの答え訂正するわ。」

少し後ろにいたピンク色の髪の毛の先輩に岩泉先輩が静かに言った。

「最高にいい気分」

私を抱きとめている腕の力が少しだけ強くなった。







岩ちゃんhappybirthday!

2015.06.10


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