白雪姫にご挨拶

いつもは行かない図書室。古本の匂いで充満した室内に、最もこの部屋が似合わなそうな男と入る。

「お前、図書室に何の用があるんだよ。」

「課題に必要な資料が此処にあってさー」

「ふーん。てか一人で行けばいいだろ。」

「岩ちゃん酷い!徹くん一人じゃ寂しい!」

「キモイぞ。キモ川。」

「今二回キモイって言ったからね!」

「うるせぇ」

じゃあ、俺資料探してくるから、岩ちゃんは適当にブラブラしててーと、結局及川はどっかに行った。
とりあえず、バレー関係の本でも見るか。
この高校の図書室はさすが私立とでも言うのか、とにかく広く色々な本がある。スポーツ関係の本も豊富で、時々暇つぶしに此処に来ると思わぬ掘り出し物に出会えたりする。
スポーツの棚に行こうと足を進めると、二つほど手前の棚に見慣れた後姿を見つけた。
一番上の棚の本を取ろうと少し背伸びして手を伸ばす姿に思わず口元が緩む。
なまえの手が届かない本を後ろからそっと取る。

「お前、童話とか読むんだな。ほら、これだろ?」

「一くん!?あ、ありがとう。」

驚いた顔で振り返った梓に本を手渡した瞬間―

パシャッ

控えめなシャッター音が静かな図書室に響いた。

「岩ちゃんが女の子に手出してる貴重な瞬間ゲット!!マッキ―とまっつんに送ろうっと!」

「バカ!!消せ!クソ川!!」

思わず声量を上げて及川は罵倒すると、なまえが控えめに俺の袖を引いた。

「一くん、ここ図書室だから。及川くんも。」

「悪い、なまえ。」

「ううん。」

「うん。ごめんね。…って、え?なまえ?一くん?君たちどういう関係なの!?」

そういえば、彼女がいることを及川には話していなかったかもしれない。

「どういう関係って、見れば分かるだろ。」

「え?え?まさか、岩ちゃんの彼女…?」

まだ、彼女と言われるのに慣れていないのか梓は顔を真っ赤にしている。

「さ、3年5組のみょうじなまえです。」

「まじ・・・?」


これ以上ここでこの話を続けるのは危険だと判断し(声量的に)俺たちはとりあえず図書室を出た。

「えっと、なまえちゃん、だっけ?」

「気安く名前を呼ぶなグズ川」

「ひどっ!岩ちゃんいつもに増して辛辣!…違うよ!そんなことじゃなくて!ほんとに岩ちゃんの彼女なの!?岩ちゃんのどこがいいのさ!絶対俺の方がかっこいいよなまえちゃん!」

失礼なことをつらつらと言い続けるこいつに無償にボールを投げつけたいが、今は手元にボールがない。

「バレー馬鹿だし、バレーのことしか考えてないよ!いいの!こんなのが彼氏で!」

及川が言ったそれは実の所俺も考えていたことだ。どうしたって俺はバレーが最優先で、これからなまえに寂しい思いをさせることがあると思う。いや、絶対させる。それでも、俺はなまえを手放したくは無い。

「いいの。寂しくないって言ったら嘘だけど、私は一くんが好きだから。一くんが大切にしてるバレーを私も大切にしたい。一くんが頑張ってるなら応援したい。蔑ろにされてるなんて、そんなこと、今までもこれからも絶対に思わない。だって、バレーに一生懸命な一くんも私の好きな一くんだから。」

あぁ、もう。こいつは俺をどうするつもりなんだろうか。この場に及川がいなかったら、抱きしめていただろう。ジャマ川だ。まじで。

「…あぁー…なんなんだろう…岩ちゃんほんと、うらやましいよ。いい彼女だわー。先に会っとけばよかたー」

及川の冗談だと分かってはいても、堪忍袋の緒は切れかけてしまう。

「ねぇ、なまえちゃん。岩ちゃんより先に俺と出会ってたら俺の彼女になってくれたー?」

「おい、クズ」

とんでもない発言に思わず罵声が飛ぶ。いや、いつもだけど。

「もしも、もしも及川くんと先に出会ったとしても、いつか一くんと出会うなら、私は一くんを好きになるよ。」

俺は、とんでもない女を好きになってしまったようだ。とりあえず、及川がいようがいまいが抱きしめておこうと思う。





フォルダ漁ってたら見つかったストック岩ちゃん
妹が描いたイラストに添えた文でした。

2015.06.11


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