残酷な意識
それは、長い長いプロローグだと言われれば納得してしまうような傍観感覚。
ある日、私という意識は、リザ・ホークアイの中に生まれた。生まれたという表現はひょっとしたら正しくはないかもしれない。産みの親がいたわけでもなく、私は無から自然発生した。リザ・ホークアイ本人ではないのだと思う。私には、リザ・ホークアイとは別の自我があった。同じものを見て同じように感じて育っているはずなのに、まるで私は彼女とは違った。だが、彼女のことなら彼女の両親より理解出来た。シンクロ状態とでもいうのか、彼女の思考は常に私の意識に流れ込んできた。
***
イシュヴァールで初めて、そして沢山、人を殺した。一人の男を追って入った軍は、間違っていた。その彼もまた、自分と同じように間違いを犯したのだと理解していた。軍人は戦争に駆り出されるものであり、戦場とは人を殺す場所であるとも。それでも、やはり何もかもが間違っていた。だから私は、彼の理想に光を託したのだ。
戦場から帰還すれば東方司令部勤務となり、彼ーーロイ・マスタングーーのお守りをしつつ主に書類業務をこなす、上辺としては平穏な日々が続いた。ある日リゼンブールへ国家錬金術師の勧誘のために赴き、二人の兄弟に出会った。金髪に金色の瞳で片手片足を失った兄と、鎧の姿をした弟だ。彼がその目に火を付けた彼らはやがて彼を尋ねて東方司令部へ現れた。
そうして三年が経ち、列車ジャックの件で久しぶりに再会した彼らはまた随分と成長していた。
それから
***
そう、恋なんてする余裕も無いほど。けれど確かにリザ・ホークアイはロイ・マスタングと惹かれ合っていたし、恋愛的には薄くても何か別のとてつもない絆が二人の間に存在していた。
「願わくば…私も、貴方の幸せの助けになりたい。貴方に触れたい。一度でいいから私を見て欲しい。貴方の瞳に映りたい。名前を呼んで欲しい。名前……私は、誰?」
私は誰?
私という意識は、日々見慣れたその背中に、光を宿し上を見据える強い双眼に、優しい物腰や
リザ・ホークアイの中のどこかにポツンと落とされたまるで服のシミのようなあるかないか分からないような存在だったが、ただその恋慕だけが、私のアイデンティティだった。
「貴方のことが大好きなのが私です」
そう言ったのは、リザ・ホークアイではなく、私だったのです。