再会は少し早く訪れた1

*本編ルート(ガープ拾われ時空)での頂上戦争以前に白ひげ海賊団と接触していたら、のサッチ救済IF。
*今回はセーラ不在

◇◇◇


 エースがそれを見つけたのは偶然だった。
 少し前に寝ぼけてボヤ騒ぎを起こした罰に、とマルコの書類整理を手伝わされた。
 白ひげ海賊団という大規模な海賊船内では、備品や食料、そのほか隊ごとの仕事の割り振りや伝言等。とにかく書面で残しておくことが多い。
 それは隊長であるエース自身も逃れられないことで、白ひげに入る前はまさか自分に机仕事が向いてくるとは露ほどにも思っていなかった。
 エースとて頑張って仕事自体はこなしていたのだ。ニューゲートやマルコたちもその頑張りは認めてくれた。
 しかし、壊滅的に向いていなかったのである。
 そう経たないうちに他の仕事を任されるようになった。
 そのため、エースが書類を目にすることなどほとんどない。
 だからこそ、今日まで気づかなかったのだろう。
「・・・・・・なんだよ、これ・・・・・・」
 エースが手に取ったのは、情報収集の一貫にと管理されている手配書の山の一つだった。
 ある程度整頓の付いたところで二人で休憩をしていたときに、つい興味本位に見ていたのだ。
 やはりエースだって海賊だ。他にどんな強者がいるのかなど興味は尽きない。
 その一枚は、山とはまた別に置いてあった。
 紙自体は古く、随分と年季が入っていることがわかった。しかも顔写真がついておらず空白が目立つのだから(なんだこれ?)と思って見てみたくもなるだろう。
 そして、その奇妙な手配書を見下ろしてエースは目を見開いた。
 あまりにも見知った特徴が列挙されているのだから。
 ――銀髪に碧眼のエルフ。
(セーラじゃねぇか・・・・・・)
 エルフという種が、本来銀の髪も碧眼も持ち得ないことをエースは知っている。
 セーラのような特異的な者が他にもいるのであれば話は別だが。
 ――私だけ仲間はずれなんだよ・・・・・・悪いことをしたから
 銀髪の流れる姿がエースは好きだった。エースに限らず、サボもルフィも、ガープやダダンたちだって好きなはずだ。
 でも、セーラだけはその色を嫌っているようだった。
 エースたちがしつこく褒めて好きだと告げたから、子どもたちが大きくなった頃には自然と言葉を受け入れてくれていたけれど。
(セーラは自分だけだって言っていた・・・・・・なら、これはセーラのことだ)
 どうしてあの優しい母がその首に賞金をかけられているのか。
「ん? ああ、驚くよな。希望額なんて書かれるやつは早々いないよい」
「あ、ああ・・・・・・」
 マルコは、エースが驚いた理由をその金額のせいだと思ったようだ。
「なあ、これってなんで取ってあるんだ? エルフっておとぎ話だろ? しかも随分古いし・・・・・・」
「探してるんだ。その人を」
「え、なんで」
「エルフならオヤジの病気を治せるんじゃないかと思ってな。まあ目撃情報すら出てこないが・・・・・・」
 何年も探しているが見つからないのだと、マルコは落胆の声を漏らす。
 当たり前だ。セーラはもう何十年もフーシャ村で過ごしている。
 外に出る機会は故郷の森に向かう数年に一度の機会だけ。
(たしかにセーラならオヤジの病気も治せるかもしれねぇ・・・・・・)
 そして、エースが頼めばセーラは請け負ってくれる。
 ふわりと胸に期待が浮く。
 しかし、すぐにぶんぶんと首を振ってその考えを吹き飛ばす。
(ダメだ。セーラをこの船には呼べない)
 モビーで東の海に行くなど絶対に出来ない。
 しかし、千人以上もの船員がいる船にセーラを呼ぶことも出来ない。
 家族を信用していないわけじゃない。だが、どこから話が漏れるかなどわからない。
 悪意がなくったって人はポロリと零してしまうものだ。
 それこそ、幼少期のエースがセーラを自慢して回りたいような気持ちだったように。
(そりゃオヤジには長生きして欲しい・・・・・・でも、それでセーラのことを危険にさらしていいのかよ!)
 思わず手に力がこもり、手配書に皺が付く。
 よくみれば、名前の記入箇所には「異端のエルフ 虐殺者」と書かれていた。
 過るのは、これはセーラではないのではないか。という疑念。
 セーラとは天地がひっくり返っても結びつかない言葉。
(いや、でもエルフなら治療できんだから一緒か・・・・・・)
 見なかったことにしよう。エースはそう決めた。
 これは自分の心の中だけにしまっておく。
「・・・・・・ひでぇこと書いてあるだろ? でも、何かの間違いだと思うんだよい」
「え・・・・・・?」
 マルコは書類片手にそう言って懐かしむように笑った。
「昔、一度だけその人に会ったことがあるんだよい。ガキだった俺をその人が助けてくれてな・・・・・・もう何十年も前だが」
 ふいに視線が上がって、マルコの瞳は窓から海を眺める。
 太陽の下で光る今のような青海ではなく、夜に月を浮かべたような静かな水面を思わせる瞳を持つ美しいその人を思い出していた。
「聞けばオヤジも昔助けて貰ったことがあるっていうんだ。オヤジの身体のこともあるが、俺たちはまず、その人に礼が言いたいんだよい」
「オヤジとマルコが・・・・・・」
「虐殺なんて絶対にするような人じゃねぇんだ。でも、その特徴を持つ人を他に知らない。オヤジは政府の意向が絡んでるから嘘なんぞいくらでも書けるって言ってたよい」
 随分昔のことなのに、マルコは新鮮な親しみを持って微笑んで見せた。
 その表情が、礼を言いたいという言葉が嘘ではないことをエースに教える。
 無意識に手に力が入り、紙の乾いた音が立った。
(もし、二人を助けたのが本当にセーラなら・・・・・・それなら、)
 二人にだけなら会わせてもいいんじゃないか?
 オヤジは治療を受ける張本人だし、マルコは船医だ。
 治療自体は問題ないだろう。それに、その二人なら絶対に外に漏らさないと断言できる。
「なあ、マルコ」
「ん? どうしたよい」
 喉が渇いた感じがした。緊張しているのだろうか。
 エースはごくりと一度唾を飲み、意を決してマルコに向き合った。
「話があるんだ。他のみんなには内緒でマルコとオヤジだけに・・・・・・」
「どうした急に深刻そうな顔して」
 普段よりも血色の悪い弟分に、マルコは心配になって覗き込むようにエースを見る。
「・・・・・・おれ、この人のこと知ってるって言ったら・・・・・・」
 エースはカラカラの喉からなんとか声を絞り出す。
 普段から眠そうな瞳を目一杯見開き、マルコは弟からもたらされた言葉の意味を考える。
「・・・・・・そうしたら、どうする?」
 縋るように見てしまったエースの視線を受け止め、マルコは突然の吉報にただ驚き小さく弟の名を呼んだ。