↑のおまけ
エースが手紙を書こうと思ったのは、なにも島で見かけた藍色のレターセットのせいではない。
以前からずっと手紙を書こうと思っていたのだ。しかし、何を書いたらいいのかも分からぬし、手紙の作法などエースは知らない。
コルボ山にいた頃、チラリと盗み見た「エースより上の息子からきた手紙」というものは、ビッシリと便箋を埋めていた気がする。
果たして、机に向かうことのできないエースがそんな長文を書き上げられるのか疑問だ。
しかし、そろそろセーラに何か連絡を入れたいと思っていた。
セーラ自身は余裕があったらでいいから、などと慎ましやかなことを言っていたが、エースは知っているのだ。
手紙が届いたらセーラがどんな顔で喜ぶか。
パッと陽が差したような花のような笑みで、細い指の柔い力を更に緩めて大事に大事に触れて封を開ける。
その一連の動作が、その手紙の向こうの主をどれだけ愛しているかが透けて見え、エースはもちろん、サボもルフィもその時は面白くない顔でセーラを待つしかない。
遊んでおいで、と送り出され、セーラは自室に戻ってしまう。
いつもなら我先にと外へ飛び出すエースたちだが、セーラがあの状態ではどうにも素直に外に行けない。
はっきり言って嫉妬していたのだ。紙の向こうの、顔も知れぬ誰かに。
あの手紙の方が自分たちよりもセーラに大事にされてる気がして、ヤキモチを焼いて、わざとセーラを困らせて気を引くような事をやったりもした。
しかし、ダダンからの「ガキだね〜お前たちは」の一言でなくなったが。
あの時のババアの鼻で笑う顔が思い出され、ぶんぶんと頭を降って遠くへやる。
きっとセーラはエースからの手紙でもあんな風に大事にしてくれるだろう。
確信がある。
それなら、これはいい機会なんじゃないだろうか。
店頭に並べられたレターセットを手に取る。
藍色に紙を染めた、それ以外はシンプルなものだ。
エースの大事なあの人を思い起こす色。
ふっと自分の表情が和らぐのが分かった。
バッと周囲を見返して、見知った顔がいないことを確認してそそくさと会計に持ち込む。
自分のものになったレターセットを、弾む心のまま大事に抱えてエースは船に戻った。
まさかその浮き足立つ様子を物陰からサッチに見られているとも知らず。
結局書くことに悩んでマルコに相談したが、確かにセーラなら何でも喜んでくれるだろうと容易に想像できた。
とりあえず、元気でやってること、セーラ(ついでにダダンたちも)は元気か、この前みた春島の花の様子を書いて送った。
たまたま通りがかった店で、押し花というものを見つけ、花が好きだったセーラの顔が浮かんでつい買ってしまったものだ。
ただの自己満足だったが、こうして手紙で送るならもっと色んな種類を買っておけばよかったな〜、と悔やむ。
しかし、出来上がった手紙を前にすると随分と充足感に満たされた。
「へへ、セーラ喜ぶかな」
まさか船内で、己に「故郷にいる架空の年上婚約者」が出来上がっているとも知らず、部屋で一人ご満悦なエースだった。
このあと、部屋を出たらめちゃくちゃ問い詰められた。
(だ、ダダ〜〜〜ン! エースから手紙!!)
(なに〜? 珍しく大声出してると思えばついにあいつも送ってきたか……で、なんて書いてあんのさ? どうせお前のことばっかだろうあの母親離れの出来ないガキは……)
(ダダンたちは元気かって書いてあるよ)
(全くあいつときたらよ〜〜〜! で? 元気でやってんのかい?)
(ふふ、ダダン嬉しそうだね・・・・・・エースも元気でやってるみたい。この前は春島に行ったんだって……わっ綺麗な押し花!)
(押し花なんて買う柄じゃねーだろうに)
(可愛いね〜。ガープが送ってくれた本を読む時の栞代わりにしよう)
((サボは月一で送ってきやがるし……果たしてエースはどんな頻度で送ってくるもんかね……))