色気は毛ほどもございません
私は自分に色気がなくて正解だと考えている。もし自分がボンキュッボンのナイスバディな美女だったとしたら、暗殺チームは自分を奪い合って崩壊していた可能性があるからだ。実際、32人の男性と1人の女性が孤島で共同生活をして男性が女性を取り合い、男性が次々行方不明になる事件がアナタハン島で起こっている。自が色気皆無の貧相な肉付きの女ということに感謝してほしい。テレビを見て、こんなこと起こるわけねえだろとため息をつくホルマジオを尻目に私はほかほかの温かいフォカッチャを食べていた。
グラマーな美女期待したらまな板女来たからがっかりしたぜ、胸と尻がないやつは女じゃねえ。はいはい、分かりました。おっしゃる通りです。女とみなされていないのなら、男の前でドン引きするくらい食べても何ら支障はないはずだ。“食べ過ぎだからもらってやるよ”なんて言われてもわたしは強欲な女なのであげるつもりは更々ない。肯定も否定もしなかったら、勝手に肯定とみなされて、私のフォカッチャがホルマジオの口に放り込まれた。なんてことだ。無言で睨み付けるが、効果はなかった。お前の物は俺の物、俺の物も俺の物ってやつか私は心が広いので許してあげよう。こんな感じで平和にのびのびと過ごしていたが、事件は起こった。
「ボスからの司令だ。“カルメーロ・アッバティーニを始末しろ”とのことだ」
リゾットの渋くて低い声がアジトに響き渡った。
「おいおい、イタリアの政治界の大物じゃあねーかよ。そんな奴取り付く島もないぜ」
ギアッチョの言う通り、彼はイタリアの政治界で超有名な人物だ。イタリアで彼の名を知らない人はいないだろう。
「……自然死にみせかけてほしい。報酬はいつもの倍払うことを約束する」
そんな有名人が不自然な死を遂げたということが世間にばれてしまえば大騒ぎになるからボスはそのような指示を出したのだと思う。なんて難しいミッションなんだろう。情報収集に適したスタンド使いは現在いないので、チーム全員でカルメーロ・アッバティー二に隙はないのかを探った。彼は財力がある。徹底的に外部に情報が漏れないように細心の注意を払っている。もし情報がメディア関係者に情報が漏れたとしてもそいつに金を握らせて黙らせているのだろう。一週間カルメーロ・アッバティーニについて嗅ぎ回って分かったことといえば、彼は女好きでパーティ後に最近人気の若手女優を持ち帰ったとか何とか。小規模出版社が刊行した雑誌の豆粒ほどの小さな欄にそのことが記載されていたらしい。“もしかしてその時警備が手薄になって、隙が生まれるんじゃあねーか?”誰かさんが欠伸をしながら呟いた途端、チーム全員が一斉にわたしの方を見た。
「……わたしはそんな美女じゃあないし
頼られても困ります」
とんでもない無茶ぶりである。わたしは女というカテゴリーに入るのか。あんなに色々言っておいてそれはないだろう。捜査の疲れを癒すためにパンにヌテラをたっぷり塗って食べる。こんなときでもヌテラは裏切らない。しっかりと美味しい。苦いエスプレッソを組み合わせればさらに最高だ。チームのメンバーは私の様子にあきれ、違う方向を向いた。それでいい。他を探せばいいのだ。きっと報酬はいつもよりも弾むはず。だから、そのお金でそっち専門の人を雇えば何とかなると思う。人には得手不得手があるのだから、しっかりカバーし合わないとダメだ。だがしかし、彼らは諦めが悪かった。
「今回の任務できそうか?ナマエ」
ピッツァを頬張っていると隣にいるプロシュートがそんなことを尋ねてきた。冗談だとしても笑えない。
「そりゃあよォ、誰からみても今回の任務はオメーには向いてねえだろうよ。でもオメーにしかできないんだ」
悟り口調でプロシュートは言う。リゾットは“今回の任務お前は参加しなくてもいい。別の手段で奴をおびき寄せる”と言っていたが、他のメンバーは多分わたしを使おうとしている。報酬が倍なら別の女を雇えばいいのに。ああ分かった。きっと別に人を雇うと報酬が減るからチームで一番女慣れしているプロシュートを使ってわたしを説得させようとしているのだろう。なんて人達だ。
「そんなこと言うのならプロシュートさんがやればいいんじゃあ……」
「男を口説くは専門外だ。こっち
見んじゃあねーよ。無理なモンは無理だ」
「私もじゃあ無理ですよ」
しばらく言い争っているととんでもないことが彼の口から出てきた。
「そんなこと言うな。これから
オレがてめーを教育するんだよ」
私を教育?そんなプリティ・ウーマンみたいにうまくいくわけがない。私は、食べようと手に取っていたピッツァを皿に置いた。
「……え?聞いてませんよ。そんなこと」
もう一度密かに深呼吸をして考えてみる。心の中でやはり首を振った。想像がつかない。私は頭を抱えた。
「嘘でしょ……そんな」
「オレたちの話し合いによって決まったんだよ」
「陰で、わたしのこと“胸なし尻なし色気なし”って言ってたクセに。都合のいい時はそうやってわたしを使うんですね」
ちょっと怒りながら私は言った。
「それは陰で言われても仕方の無いことですから私は全く怒ってません。実際にそうですからね。何とかして他所当った方がいいんじゃあないですか?」
こんな時は食事をしよう。とろとろチーズのかかったピッツァを食べる。美味しい。ハァと大きなため息吐かれたがそんなこと知らない。食べ物は私を幸福にしてくれる。
「ピッツァを死ぬほど食いたいと思わねえのか?」
やっと食べているピッツァではなく、プロシュートの方をナマエは見た。やれやれといった様子で彼は話し始めた。
「もし、任務が成功したらオレの金で好きなだけピッツァを食ってもいいぜ」
「……ピッツァ」
「男に二言はねえ。まぁてめーが断ればこと話はなかったことになるがよォ」
ナマエは逃すまいと間髪入れずに返事をした。
「もちろん、その話引き受けます。
食べすぎても怒らないで下さいね」
心做しかさっきよりも表情が明るげだ。どうしたのだろうか。
「私、プロシュートさんのこと正直苦手だったんですけど、ナマエたった今好きになりました。任務絶対に成功させましょう」
にっこりと太陽のように眩しい笑顔で手を差し出すナマエ。握手をするためにその手を差し出したのだろう。この発言でプロシュートの中のナマエの好感度がかなり下がった。プロシュートは心中で呟いた。“なんて、現金なヤツなんだ”と。こういう奴がギャングとして生き残っていくことをプロシュートは知っている。それでも何というかちょっと……小言を言おうとしたが、心の中で留め、煙草を吸うことにした。
煙草を咥え、煙を吐くプロシュートは誰もが認めるいい男である。ストレスを吐いた後、彼は用済みの煙草を灰皿に押し付けた。
「徹底的に教育してやるよ。
メローネに負けないぐらいな」
プロシュートはナマエの手を握った。交渉成立である。こうしていい男によるいい女になるためのレッスンが始まるのであった。