知るたびに恋


「それ胃袋掴まれてない?」


新しいマンションの隣の部屋の名前ちゃんのことを話したときに高知に言われた。

『胃袋を掴まれる』美味しいものを作ってくれた人を好きになるみたいなことらしい。
名前ちゃんを知るきっかけにはなったけど、美味しいものを作ってくれるから好きになるわけじゃなくて、ご飯をきっかけにその人がどんな人かを知って好きになっていくんだと俺は思う。

名前ちゃんのご飯は確かに美味しいけど、ご飯以外でも偶然会って話したりとか、メッセージのやりとりとかを続けていくうちに気になる女性になったんだから。


「名前さんは俺らのこと知ってるの?」
「んー、仕事の話はしないから分かんない」
「ファンだったらどうする?」
「そうだったら全然嬉しいけど」


どんな仕事かを話したことはないけど、その日は何時なら家にいるとかいないとか、たまに数日家を空けることもあるとかを話してどんな仕事かを聞いてこないからもしかしたら知ってくれてるのかもって思ったり。

名前ちゃんの仕事帰りっぽいとき会うことがよくあるけどしっかりメイクして、お洒落な格好の彼女に会うのがちょっと楽しみだったり。
普段のままの彼女にも会ってみたいけど。


「お隣さんから進展しそう?」
「どうかなー」
「進展したら教えてね」
「内緒にしとくね」
「なんでだよ!」
「AHAHA!」



____



まさか高知とそんな話をした日の夜に名前ちゃんと会うと思ってなかった。
声をかけた名前ちゃんはすっぴんを隠すために持っていたコンビニの袋を顔の前に持ってきていたけど、すっぴんよりも服装に目がいった。
いくらマンションとコンビニの距離が近くても女の子が1人で夜に出歩くのはよくないし、足が出てる。

なんで上は長袖なのに下は短パンなのか。
俺もそういう格好をしないわけじゃないけど夜にそんな格好で出歩いちゃダメなやつ。

服装は見られても気にしてないけどすっぴんを見られるのはやだらしい。
俺は意識されてるのかされてないのかちょっと分かんない。一緒にエレベーターに乗るのを嫌がられたけど駄々を捏ねたら乗ってくれて俺に甘いなぁとかちょっと嬉しい。

俺から1番遠い位置に行くから追っかけて隣に並んでみる。縮こまってるからかそんなに身長が低いとは思わないけど今はちっちゃく見えて可愛い。
隠したいのか俯く顔にお隣さんの距離とは思えないくらい近づいて名前を呼べば息を呑むような声が名前ちゃんの口から漏れ出た。


「すっぴんもかぁわいいね」
「そう言えば何でも許されると思ってる」
「ほんとに思ってるよ」
「ずるい男だ」


俺の言うこととか、やることに返してくる反応が可愛い。
いつからそれが好きに変わったか分からないけど話すたびに好きが増えていく。
俺のことを知っていても、知らなくても初めて会ったときの名前ちゃんの言うこと、やることは変わらなかったんじゃないかなって思う。

明日の約束を取り付けた名前ちゃんが部屋に入るまで見届けて来ていたメッセージにおやすみを送った。

意識してもらえてるとは思うけど、どうやって好きを伝えていこうか。
とりあえずすっぴんを見てしまったから俺のすっぴんも見てもらおうかなとちょっと楽しくなった。

*前

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