乱されて恋
夜にどうしてもアイスが食べたくなることがあるのは私だけじゃないはずだ。
保存が効くものもあったらいいかなと副菜とか作ってみたり、たまにとかジェシーくんと話しておきながら手間のかかる料理にも挑戦してみたりしてる私は単純すぎるなと自分で思う。
今日はもう遅いから渡すのは明日にしようと作ったものを冷蔵庫に仕舞う。
冷凍庫を開けてから今日の買い物のときにアイスを買おうとして忘れたことに気づいた。
自分の中での買いに行ける時間帯と買いに行けない時間帯があって、今はまだ買いに行ける時間帯だ。
メイクも落としてしまってすっぴんだけど歩いて5分もかからないコンビニに行くのに軽くでもメイクするのが面倒くさくてそのまま行くことにした。
コンビニから出るときにジェシーくんに明日は家にいるかをメッセージで聞いておく。
こういうときのために連絡先を交換したんだからいいよね。
彼から仕事何やってるって言われることも聞かれることもなくて、ファンだと言わないままお隣さんを続けているけど後からファンから料理をもらっていたと知ったら気持ち悪がられるだろうか。打ち明け方が分からなくてそのままでいるのだけど。
「名前ちゃんだ」
「ん!?」
マンションの入り口で会ったのはまかさのジェシーくんでアイスの入った袋を顔の前に掲げて隠す。
なんで会いたくないときに会ってしまうのか。今はちゃんとした格好もメイクも何もしてない普段すぎる私で恥ずかしすぎる。
「AHAHA!どしたの?」
「いや、あの、今、見せられる顔してないので」
「えー?すっぴんてやつ?」
「そうなんです。あの、先にエレベーターに乗ってもらえます?」
「やあだよ。一緒な階なんだから一緒行こ?」
「私もやあです」
「ほらほら、いつまでもエレベーター開けたままにしちゃうよ?」
これはもう私が乗るまで待ち続けるやつだと観念して乗り込む。できるだけ体を小さくしてジェシーくんとは対角になるように乗ったはずなのになんで隣にいるんでしょうか彼は。
コミュ力がすごいとはいろんなメディアで聞いて見て知っているつもりだったけど、メンバー以外でこんなに距離感がバグっているのは知らなかった。
「名前ちゃん」
「ぇ、ひぇ、」
呼ばれて反射で見た先には思っていた以上に近い頬がくっつくんじゃないかってくらいの距離にジェシーくんの整った御尊顔があって息を呑む音が大きめに出てしまった。
「すっぴんもかぁわいいね」
「そう言えば何でも許されると思ってる」
「ほんとに思ってるよ」
「ずるい男だ」
AHAHAと会ったときよりも豪快に笑ってくれるようになったのを嬉しく思うのと私だけすっぴんを見られて悔しいのと。ジェシーくんに会うと毎回感情を掻き回されてる気がする。
「さっき送っちゃったんだけど、明日部屋にいる?」
「え、あ、ほんとだ。お昼からだから朝はいるけど寝てるかも」
「作ったもの渡そうと思ったんだけど、寝てるならドアノブにかけとくね」
「え、今貰っちゃダメなやつ?」
「渡せるものもあるけど明日まで漬けておきたいものもあって。明日がいいかな」
「んー、じゃあ起きる」
「えっ、ドアノブにかけとくのヤダ?」
「名前ちゃんに会えるなら起きるよ」
「そ、ですか」
「うん。くるとき電話してね」
私が部屋に入るまで見送ってくれるジェシーくんに手を振って別れる。
ぽこんとメッセージが届いたそれはジェシーくんからのおやすみのメッセージだった。さっきも言ったんだけどなと嬉しい気持ちになりながら、おやすみのメッセージを返しておいた。
____
『……ぁい』
「んは、苗字名前です」
『んふ、あい、おきました』
「持ってきたよ」
『いま、でます』
全部ひらがなで聞こえるふにゃふにゃした声が寝起き特有のものでしかなくて悪いことをしている気分だ。
鍵の開く音がして開いた扉の向こうにいたジェシーくんは髪の毛ボサボサで口の周りにちょっとだけ無精髭を生やしていて昨日とは逆だなと思った。
「おはよう」
「おはよう。ありがとう、起きてきてくれて」
「んーん、これでおあいこだね」
「え?」
「名前ちゃんのすっぴん見ちゃったから、俺のすっぴんも見せちゃう」
眠いって顔してじゃーんみたいに自分の顔の横で手を広げて見せるものだから笑ってしまう。
すっぴんだけど、昨日の私のすっぴんとはまた違っておあいこというよりジェシーくんの方から貰ってるものの方が多い気がする。
「私のすっぴんの方が負けてるかも」
「じゃあ俺の勝ちー」
「んふふ、こちらでお許しください」
「はい。いただきます。これって仕事に持ってってもいいやつ?」
「いいよ?でも漬けの方は保冷剤入れないと危ないかも」
「やった。ありがとう名前ちゃん」
「こちらこそありがとう。お仕事までゆっくり休んでね?」
「うん。いってらっしゃい名前ちゃん」
「、いってきます」
まだ出会って1ヶ月くらいしか経ってないのに、距離の近いジェシーくんの言葉や行動や仕草に私の心は持っていかれてしまった。
私は1人の男性としてジェシーくんが好きだ。