トライアングルメッセージ
平成が遺言を残し静かに死を待つ年になっても、街は気忙しく、相も変わらず黒ずみだらけの浮浪者達は裏通りに跋扈している。
私はそんな現象的喧騒を記録的記憶に留めたくて能動的行動をとっていた。
そんな私がある時、駅前の喫茶店でコーヒーを啜っていると、突然後ろから声を掛けられた。
「久しぶりね。斎藤君」
「ああ、びっくりした。誰かと思ったよ」
彼女はこの店の常連で、血糖値でしか食事を語らない食事療法狂いのセラピストの坂下さんだ。そして、僕の名前は斎藤ではなかった。
「ごめんね、突然。この子がどうしてもっていうから」
坂下さんの隣にはもうひとり女がいた。彼女はコーヒーカップのふちについた口の形をじっと見つめながら小さくお辞儀した。
「ええ、それで、なんです?」
「ほら、ちーちゃん」
「あ・・あの、あなたはこれから選択を迫られる事になります」
「ええ、それはこのまま話を聞き続けるか、強引に会計を済まして逃げ出してしまうか、という事ですね?」
「まはっ、斎藤君おもしろいわ」
「ち、違います。あなたはこれから友人達とお出かけするのでしょう?だから、その時に選択を迫られて」
「なぜ君がこれから僕が友人と待ち合わせていることを知っているのかな?」
「そ、それは。見えるからです」
「見える?」
「この子ね。見えるのよ。オーラが」
「僕だってあなた方の怪しいオーラは見えますよ?」
「や、はっ、だぁ!斎藤君ったら。どストライク空振り三振よ」
「ほ、本当なんです。あなたのオーラが私には見えていて。そのオーラが私に語りかけてくるんです」
「へぇ、それは難儀なことで」
「斎藤くん!いい加減にしなさい!」
「み、見上君はその選択を間違えると死んでしまいます」
「え、見上くん?」
「何で私の名前を?」
「だ、だから。オーラが……」
「私の高校2年生の時の英語の先生の名前は?」
「え、江沢先生です」
「………………。分かりました。信じましょう。それて、私はどうしたらいいんですか?」
「ちょっとぉ!ちーちゃん、彼の名前見上くんっていうなら教えてよぉ」
「す、すみません。あだ名か何かかと」
「わ、た、し、は何をすればいいのですか?」
「あ、あの、とりあえずライン教えてもらえませんか?」
「…………。あまり気が進みませんが……」
「グループライン作ったわよ」
「な、何かあった時すぐに連絡取れないと、あ、あなたが死んでしまうかもしれないので」
「…………」
「…………」
「わかりました。ラインは教えますが、私は不必要な時には返信は返しませんよ?」
「そ、それで大丈夫です」
「では、私はもう友人との待ち合わせ時間なので行きます」
「気をつけてね。見上君」
あの日、私はこうして友人との友好的交遊に出掛けたのだ。
そして、わたしはやはり人生における大きな選択を迫られることとなった。
その日、一人の男が時間軸を歪めた事によって、世界の姿は大きく変貌することとなり、私はそれに巻き込まれたのだ。
喫茶店で会ったちーちゃんは、まだ彼女すらいない私の娘であった。
私と彼女らとの奇妙な戦いはここから始まったといえよう。
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