パークホテル


ローマのマリオットパークホテルで、モールツ=ウマナイは考える。
ローマ広場の一角にあるマリオットパークホテルの角部屋スイートルームの隅っこにあるデスクで、モールツ=ウマナイ氏は考える。世界のエネルギーについて。世界中の人々を動かす幸や不幸のエネルギーについて。
ウマナイは不幸な男だった。
ウマナイは気付いていた。人々が幸や不幸のエネルギーに操られ動かされていることに。自分もまた幸に縛られ不幸に踊らされていることに。人々もまたそれに気付き、幸や不幸のエネルギーを日々の原動力としていることに。
ウマナイは反骨心溢れる男だった。
ウマナイは我慢ならなかった。人々が幸や不幸のエネルギーを消費し蝕まれていることが。自分もまた、幸を取り込み不幸をひり出すサイクルの中にいることが。我慢ならなかったのだ。ウマナイは、律儀な男だから。規則と秩序を重んじる男だから。だからぁ。
ウマナイの友人知人は口を揃えてこう言う
「やつの話は長い割に情報量が少ない。言葉を変えて同じことを繰り返すんだ。面倒くさいよほんと。付き合ってらんない。そうそう、こないだなんかさぁ、2週間ぐらい前なんだけど。あれ、2週間前だっけ?1ヶ月前だっけ?たしか携帯変える前だから3週間か1ヶ月ぐらい前だっけ。いやでもまだ寒かったからそんなに前じゃない?俺と後輩と居たんだけど、あ先輩も居たっけな。どうだっけ。でも先輩と後輩あんま仲良くないからどっちかだったと思うんだけど。後輩か、後輩だわ多分。待ってちょっとライン見返すわ」
気が付くとそこは原生林だった。20メートルはあろうかという巨大な木々の葉で空は見えない。根元が太く上に伸びるにつれ細くなるヤシの木のようなのが鬱蒼と生えたジャングルだ。変な虫も沢山飛んでいる。巨大なトンボやガガンボが飛んでゴキブリやダンゴムシが這いまわっている。私はいかにもステレオタイプな原住民といった佇まいの人間に囲まれ、歓迎を受けていた。中央には地面から立ち上るキャンプファイヤーと鍛冶屋が私への捧げものを
「あ、あったあったこれこれ。長いよね。土人とキャンプしたよ。でいいじゃん。辟易としちゃう。」

敬意がないのだ。人間関係とは敬意によって成り立っていると考えるウマナイは敬意のない人間と付き合うのが怖かったのだ。彼らの声は不気味な防災無線のサイレンのようにウマナイを警戒させた。律儀だからぁ。
モルツは決してうまくないと考える。規則と秩序を重んじるからぁ。
とても怖かったのだ。深夜に鳴る電話の音が。薄く開いたドアの向こうから聞こえる囁き声が。遠くで鳴る金属音が。不幸だからぁ。鳴り響くアーバンソーゥ。

そんな怠惰と自尊心の間で揺れ動くウマナイを救ったのもまた、幸と不幸と不吉の象徴である救急車のサイレンだった。言い訳をぉ。探しているからぁ。例えばぁ。僕がディズニーランドだったとしてぇ。
ピーポーピーポーピー「人間の尊厳!」ポーピーポ「人間の尊厳!」ピーポーピーポーピー

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