ひたぎ電気合管所
夜明けの入電で目を覚ました。
バイブレーションの振動だ。
いちにっさん、にーにっさんのリズムだ。
「いち」と「さん、にー」のところでモーターが回ってアクセントをつける
自分で選んで設定したのに、鬱陶しいパターンに感じる。
慌てた様子のセンター職員曰く、郊外で中規模の停電が発生しているらしい。
原因はまだ不明だが住所が送られてきた。
すぐに行け、ということである。
是非もないことである。
この鬱陶しい状況に反抗して髪を整えようかと思った。
それとも、センターに反抗しようとしたのだろうか。
しかし、電気が通らず不安になる人々の顔を浮かべて、やめた。
私は善良なのだ。
善良とはつまり、サービス精神を持っているということだ。
サービス精神にコントロールされている、と言ってもいい。が、
そして、調子に乗ってはいけないのだ。
仕事の道具をまとめて、駅へ向かった。
沢山のスエードが既に波を作っていた。
私はそれに逆らい、雑踏をかき分けて歩く。
中心部から、居住区へ。
雑踏に穴を見つけた。
穴の中心を覗いてみると、忌虫の潰れた死体が地面にへばりついていた。
スエードたちは皆、それを避けて進んでいるのだ。
羽が千切れ、中身が飛び出した、二度と自立することのない忌虫を
大袈裟に迂回するスエードは皆、怯えた表情をしていた。
しかし、先ほど私とすれ違った誰かが、「これ」をしたのは確かなのだ。
そこには尊さも善良さもなく
私は、これを
が、やめた。調子に乗ってはいけないのだ。
それに、電気が通らず不安になっている人々がいるのだ。
スエードが私に、慰めのような視線を掠らせて行った。
穴が二つになる前に、脱出だ。それ、行け。
居住区へ向かうプラットホームはがらんとしている。
向かいのプラットホームにみっちりとテーラーが犇めいている。
また、慰めのような視線を感じた。
また、サービス精神が私をコントロールしようとする。
疲れた顔をするといい。レールを見つめろ。ため息をつけ。頭を抱えて考え事をしてみろ。
恨めしい表情でテーラーを眺めろ。踊れ、踊れ。いけない、調子に乗っては。
朝方の居住区は殺風景なものである。
目的地はまだ遠いが、ここにスエードやテーラーの気配はない。
ポツリ、ポツリとある井戸の周りにカーフが集まっていた。
水を汲んで、洗濯をしているのだろうか。
カーフについてはよく知らない。
ただ、こちらを見る者は一人もいなかった。
建物の数も随分と減ってきたようだ。
遠く、丘の向こうに目的地らしき建物群が見える。
中層の居住区画のようだ。
ここまで、かなり歩いたと思う。健康的だが、少し膝が痛む。
サテナビの反応が悪くなってきた。
一度、センターに確認した方がいいかと、少し考えて、やめた。
顔を上げた先にいたカーフが、地面に向かい、何かをしている
困っているのかもしれない。力になれるだろうか。
近づいて見ると、幾つかの小さな影に向かって足踏みをしている。
私は、声をかけるかどうか、随分考えて、やめた。
カーフは忌虫を殺していた。
結論をいうと、目的地に私の仕事はなかった。
通電設備そのものがなかった。
ここは開発地域であり、停電は起こり得なかった。
サテナビにも、そのことは正常に表示されていた。
ただ、センターも私も、それを見ていなかったのだ。
何故か。調子に乗っていたからに、他ならない。
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