三色菫と夜想曲

「レイラ、レイラ」

途切れ途切れに、繰り返し、私の名前を呼んで、まるで存在を確かめるように、その指は熱を持って輪郭をなぞる。

「ジョルノ」

うん、という代わりに私も名前を呼んで、蜂蜜色の綺麗な柔らかな髪に触れる。顔にかかった髪を整えるようにして指を通せば、ジョルノの唇は少し開かれて、また私の名前を呟く。

「レイラ、すきです」

形だけの告白はもう聞き飽きていて、中身のない空っぽなままで彼は「すき」の言葉を吐く。

「ん、私も、ジョルノがだいすき」

気付かないふりをして、私は本当の気持ちをひっそりと込めて腕を伸ばす。
本当は、遠くに行ってしまうジョルノを逃さないようにして、私とずっと一緒にいてほしい。
抱き締め返して、そっと唇を重ね合う。

「またここに来ていいですか?」

ジョルノはそう私の耳元で囁いた。いつもこう。
夜明けと共に、私の知らない所へと帰っていく。
ジョルノの居場所は私の隣なんかじゃあなくて、ここを大切に守ってくれていると言う大きな組織の所。

<どうして私をそちらに連れて行ってくれないの?>

そう言いたくても言えなくて、私はただ無言で頷く。
重たくなる瞼が閉じてしまわないように、必死で眠気を押さえながら、ジョルノの深い森のような瞳を見つめ返す。行って欲しく無いと気持ちを込めて。
彼は私の様子を見て、眉を下げて少し息を吐き出した。そうして、額へ口づけてくれる

「レイラ……あなたは何も知らなくっていいから、だから、今は、さよなら……」

さよならなんて、聞きたく無い。おやすみだけ言ってよ。
波よせる睡魔に飲み込まれ、意識を手放した。

目覚めた時にはベッドの横に、みずみずしく咲く三色菫が、<Ti amo.>と書かれた小さなカードと共に置かれている。


fin.